Phase.279 『いつもより暖かい』
「今日は、飲むぞーー!! 皆もそうだし、俺も大活躍したからなー!!」
「そうだな、なんてったって4人と27匹のストレイシープを助け出したんだもんな」
「おおよ!!」
トモマサはニカっと笑い、草原エリアの自分のテントがある場所へと向かう。草木が生えまくっているので、草原エリアって言っていいのか解らないが、とりあえず全員がそれで認識できるので、草原エリアとそのまま呼ぶことにした。
「俺も一旦、自分のテントへ戻る。でも焼肉は魅力的だし、後で行くよ」
「ああ、待っている」
小貫さんも自分の住処へと歩いて行った。堅吾も、「それじゃ」と手をあげた。
「自分は、まだ体力残っているで、ちょっと拠点内を見て回ってくるッスわ」
「解った。でも後で宴に来るんだろ?」
「もちろん! それじゃ、後で」
皆、いそいそと移動し始め、この場に残るは俺と鈴森だけになった。
「それで、いいのかよ?」
「え、何が?」
「俺が南エリアに行ってもよ」
「え? それは同じ拠点内だしいいけど。でも、危険だぞ」
「バリケードか有刺鉄線の張った中、拠点内と定めた場所は、各々自由にしていいんだよな」
「それはそうだけど、あそこは未開拓地域だからな」
「駄目なのか」
「いや、それはいいよ。ただ、何もあそこでわざわざテントを張って住まなくてもと思ってさ」
「もう少しこの『異世界』に慣れたいんだ。だが外は危険だし、お前にも駄目だと言われる。それなら、南エリアならいいんじゃないかと思ってな。もしあの場所に危険な魔物が入り込んでいるなら、それを俺が退治する事になれば両得になるだろ」
「それはそうだけど……」
「じゃあ、いいんだな」
「ああ、いいよ。でもあそこは自分で言ったけど、拠点内だ。大谷君達も行っていた場所だし、誰かが来る事もある。銃は使うな。もし必要に迫られても、十分に注意して使用してくれ」
「了解した」
鈴森はすっきりした顔で、川エリアの方へと歩いて行った。
これからテントを畳み、荷物をまとめて南エリアに移動するんだろう。まあ、いいか。川エリアには、最上さんが気にいって住んでいるみたいだし、翔太もあそこを住処にしていたような気もする。
川があるから、人も結構行き来するし鈴森が川エリアから移動したとしても、それほど手薄にはならないだろう。
川エリアの北側からは、ゴブリンが攻めてきたことがあった。それにハンターバグという大きな蚊の魔物も。だから一応警戒する為にも、誰かはそこにいて欲しかった。
「さあて、それじゃ俺も移動するか」
スタートエリアへと移動する。一度、丸太小屋へと入り、ゴブリンの巣を攻撃する為に装備していた荷物を下ろす。そして裏手に行き、井戸の水を汲んで、泥や血で汚れていた自分の腕や顔を洗った。すると、向こうから大量の湯気。
そういえば成田さん……バリケードや小屋、お店なんかの他にトイレや風呂も作るって言っていたけれど……まさか……
メエエ!
「あはははは!」
ん? ストレイシープと女の子の声。
丸太小屋から少し先の拓けた場所。この辺りも他のエリア同様に、草木が生えまくっていた。だから成田さん達が、邪魔な草などを刈ったりしてくれていて、広い拓けた場所を作ってくれていた。
そこに未玖や大井さん達数人と、ストレイシープが集まっている。何か所も焚火を作って、その周りに石を積み上げ網を置いて、焼肉の準備を始めていた。
近づいていくと、折り畳み式の大きなテーブルや椅子も配置され、テーブルにはお皿やコップなどの食器が並べられていた。
これはいい。まさに、楽しい宴が始まる予感。
「あっ、ユキ君」
「大井さん! お疲れ様―」
「お疲れ様。もうすっかりと辺りは真っ暗だけど、この辺りは焚火やらランタンやらで昼みたいに明るいでしょ」
「ああ、そうだね。この辺は夜は結構肌寒いけれど、今日は人だけじゃなくてあんなにモコモコの奴が30匹近くもいるから、多少暖かくも感じるよね」
そう言って大井さんと、未玖や北上さん、翔太達となにやら戯れて楽しそうにしているストレイシープ達に目をやって笑った。
「もう少し待ってね。もうちょっとで、準備ができるから」
「ああ、ありがとう。これから不死宮さんの所へ行ってこようと思ってね」
「大谷君ね。それにユキ君達が助け出した人達……」
「うん。大谷君は大切な仲間だし、気になるからね。あと助けた人達は皆、もうスマホを持っていない。堅吾達と同じく【喪失者】だ。だから彼らが望むなら、ここへ迎え入れようと思う」
「人手は完全に足りていないし、いいんじゃないかしら」
お店を作り、パブリックエリアも作った。拠点の防衛に強化、冒険やバウンティサービスやらやることが増えて人手は正直足りていない。
「そういえばパブリックエリアは、どうなっているのかな?」
「今も何十人かのお客さんがいるわ。でも大丈夫よ。勝君や十河君達がちゃんと見てくれているから」
「そうなんだ。やっぱり、これだけ拠点が大きくなると、仲間も増やさないと駄目だね」
「そうね。でもユキ君は、リーダーとして相応しいから、大丈夫だと思う。皆、ユキ君にひかれてこのクランに仲間入りしているから」
完全に買い被っている。もしくは、お世辞かな。
「じゃあ、また後で」と言って、不死宮さんの治療小屋へと向かった。




