Phase.274 『救出 その1』
陽が落ちてきていた。
今日は、大変な事が縦続いている。例えばコボルトの討伐、その際にも緑色の大蛇グリーンスネークに襲われて小田が負傷したり、大谷君がゴブリンに捕らわれて、その後に自力でそこから脱出して羊の魔物を連れて帰ってきたり。
更に早朝から、『異世界』では異常現象も起きていた。
草木や作物などの植物が短時間で増殖し、急成長していた。だから俺達のこの拠点の周辺も、拠点の中も草木が生い茂ってボーボーになってしまっていた。
色々とやる事が山積みなのに、更にこの異常事態でもっと山積みになる。
本当なら、ゴブリンを討伐しに行くのは明日にしたい。やがて陽も沈むし、そうすれば危険も増える。更に俺達はコボルト討伐から帰ってきた所だったから――
だけど、大谷君から更に詳しい話を聞くと、そうも言っていられないと思った。
なぜなら、大谷君がメリーと名付けた羊の魔物――因みに俺の【鑑定】で調べた所、ストレイシープという名前の魔物なのだけど、他のストレイシープや俺達と同じ世界からやってきた転移者も、ゴブリンの巣には捕まっているらしい。
ゴブリン達は、気分次第で捉えた獲物を生かしている。目的は、遊び。その証拠に、大谷君の目の前でストレイシープや人間を殺していたという。
殺し方も拷問のように、時間をかけてゆっくりと残酷にしていたらしい。だから早く助けに行かないと、こうしている間にも捕まっている転移者やストレイシープが大変な目に遭わされているかもしれないのだ。
だから、この植物の異常事態の解決もできておらず、間も無く陽が暮れようとしているけれど、ゴブリン討伐を何より優先して行わなければならないと思った。
そういえば、今この拠点の周辺には懸賞金のかかっている、凶悪な魔物が集まっているとも聞いた。
それなら尚更、迅速に行動してサっとゴブリンどもを始末して、捕らわれている者を救出して帰ってくるしかないと思う。だから俺は、直ぐに行動を起こす事にした。
メンツは、少数精鋭で行く。翔太に鈴森にトモマサに小貫さんに堅吾、更に長野さんに同行してもらう事にした。
北上さんも一緒に行くと言って駄々をこねられたが、こちらも異常事態なので拠点には未玖もいるし、残って皆を守って欲しいと頼んだ。
大谷君もそうだった。太ももを槍で刺され、肩を強打していた。なのに彼は、ゴブリンの巣まで案内すると言ってきかなかった。だけど、とても許可できないと言った。それで、代わりにメリーがついてきた。
メエ!
元気よく片手を挙げるメリー。
「お、おい、マジかよ。こんなん本当に連れていくのか?」
翔太の言葉に、鈴森とトモマサも同意する。
「道案内してくれるみたいだし、メリーがいないと、いざゴブリンの巣に突入して助け出そうとしても、転移者は兎も角、他のストレイシープは、俺達を恐れてついてこないかもしれないだろ」
「まあ、確かにユキーの言う通りだけどさー。なーんか、頼りないというか……」
メエ?
首を傾げるメリー。
「でも大谷君から聞いたろ? メリーもかなり酷い惨劇を、目の当たりにしたんだ。それでも仲間を助けるために、またその恐ろしい場所に、俺達と一緒に行ってくれるんだぞ。それだけでも、かなり勇気があると思うけどな」
「そ、そうか。じゃあメリー。ちゃんと、俺についてこいよ。そしたら俺が守ってやっからよ」
メエ。
言葉は通じてはいない。だけど、気持ちは理解し合っている部分もある。
メリーは、翔太の傍に歩み寄った。その光景に俺はクスっと小さく笑うと、「間もなく、暗くなる。急いで助けに行って、戻ってこよう!」と手をあげて言った。
皆、「おー」っと返事すると、俺達はまた拠点から外へと出た。草むらにまた潜って行こうとした所で、拠点の中……柵の内側から聞きなれた声がした。
「ゆきひろさん!!」
振り向くと、そこには未玖の姿。その後ろには、北上さんと三条さんが立っている。
「くれぐれも気を付けて行ってきてくださいね。皆さんも……ご馳走作って待ってますから!」
返事をしようとすると、先に翔太が声をあげた。
「うっひょーーー!! マジか――!! じゃあじゃあ、今日は戻ったら焼肉パーティーにしようぜ。あと、酒も飲もう。明日はどーせ、日曜だし会社もないし、いいよねー」
「まったく、調子にのるなよ翔太。これから殺し合いに向かうんだぞ」
「だからだよー。なー、未玖ちゃん」
翔太のセリフに、未玖も北上さんも三条さんも大笑いする。まったくもう。
「よし、それじゃもう行こう!」
未玖たちに行ってきますと手を振ると、俺達はメリーの案内のもと、草むらの中をゴブリンの巣へ目指して歩いた。
ここからは、かなり近い場所にあるというゴブリンの巣。
初めてこの『異世界』にやってきた時から俺は、ビビッてあまり丸太小屋から離れて行動する事は少なかった。そう考えると、拠点の周囲には、そういう危険な場所がまだいくつもあるかもしれない。
先頭をトモマサと堅吾、それに小貫さんが歩いて鉈を振って道を作る。その後ろを翔太とメリー、続いて俺と鈴森と長野さんが歩いて続いた。
鈴森が俺の肩をつつく。
「なんだ?」
「今回は、銃を使ってもいいのか?」
「ああ、できるだけ素早くゴブリン共を殲滅して、皆を助けて戻りたい。それが少しでも可能になるならな」
「解った。じゃあ、その場の状況と必要に応じて使わせてもらう」
「ああ」
鈴森の目の色が変わった。まあ、こいつとトモマサがいれば、心配しなくてもゴブリンなんて圧倒できそうだ。長野さんも来てくれているしな。
そんな事を考えつつ、隣を歩く長野さんの顔を覗き見る。目が合ったので、にこりと笑うと長野さんも微笑み返してくれた。
よーーし、残らず全員助けて、無事に戻ってやるぞ!




