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Phase.27 『うたた寝』




 焚火を熾した。


 カップ麺と焼き鳥の缶詰を用意した。これが本日の少し遅めの昼食。


 実は、この溢れる程の自然の中で、キャンプみたいに米を炊いたりして食ったら頬っぺたが落ちる程美味いだろうなと思って、米なども持ってきていた。でも川で色々あったし、それは夜にでもしようと思った。昼はこれで十分。


 たっぷりと水の入ったヤカンを焚火にかけて湯が沸くまでの間、俺はまた小屋の周囲をてくてくと歩いて森の方を眺めながら歩いて回った。


 もしかしたら、またあの少女に会えるかもしれない。あの子が何者なのか解らないけれど、他の仲間と一緒にいる可能性は高いと思った。


 理由は、あの子が身に着けていた服にある。酷く汚れていて、破れている個所もあった。もしもあの子がこの異世界へやってきて数日しか経っていないというのなら、ああはならない。数カ月はこの異世界で暮らしていると思う方が自然だ。


 そして、もしそうだというのならあんな小学生くらいの女の子が一人で、それ程の間この異世界で生活していける訳もない。だから、あの子には他に仲間がいると判断した。仲間がいるのなら、会ってみたい。それでこの異世界の情報を共有すれば、きっとお互いの利益になる。


 まてよ……


 こうも考えられる。あの女の子は、着ている衣服からしても俺と同じ世界から転移してきている事は明白だ。それで、他に仲間がいる。だが、あの子と一緒にいる仲間が俺達と同じ場所から来た者でないという可能性も考えられる。つまり、異世界人だ。この異世界にだって人はいるだろう。女神像や丸太小屋という人工物も目撃している。


「も、もしかしたら異世界人の冒険者とか、ドワーフやエルフに会えるかもしれない」


 言う間でもなく、美人のエルフを想像した。すると、ゴブリンに殴られた顔の傷が痛んだ。くそっ! ゴブリンめ!!


 あれこれと想像し、小屋の周囲を回ってみたが特に異常は見当たらなかった。


 焚火に戻り、カップ麺に湯を注ぐ。そして、焼き鳥の缶詰を開けてカップ麺と一緒に貪った。麺を一口すすった所で、自分が異常な程に空腹だった事に気付く。


 この異世界へ来てから、食べ物が異常な程美味しいと感じる。もとの世界にいる時――以前は、ただの栄養補給だった。早くゲームプレイに戻りたいけど、食わないと倒れるから仕方なく食う。そんな感じ。


 たまに翔太と飲みに行って食べたり飲んだりする事があるけど、それについては正直食べ物を美味いと思うし酒も美味いと感じていた。でも、それとはまた違った感覚。なんというか上手くは言えないけれど、飯を食って生きているって感じがする。


 遅めの昼食を終える。身体の節々が痛いし腕や顔面はもっと痛い。夕方になればまた飯の支度をしなくてはならないし、午後は少し休もうかと思った。


 そうと決まれば――小屋から椅子を一つ表に引きずり出す。ごっついウッドチェアで、しっかりした作りではあるけれど重量もそれなりにある。


 置き場所は、小屋の正面――ウッドデッキから2メートル位の場所。ついでにテーブルに使用できそうなものを探し、何も入ってない空の樽を見つけたのでそれを椅子の隣に置いた。


「よーーし、これで出来上がり」


 クーラーボックスからビールを取り出す。烏賊のつまみも出してきて樽の上に置いた。そして椅子に座ってビールの蓋を開けた。


 グビッグビッグビッ!


「ップハーーー! 美味い!! これは、ゴブリンに負わされた傷も回復するわ。これこそ、本当の回復ポーションだな」


 そんな訳はない事は知っている。でも、そう思える位に美味かったのだ。烏賊のつまみが入っている袋を開けて、それも食べた。それから目の前に広がる森と大空を眺めながら、雄大な景色に癒されて酒を飲む。


 ――最高だ!

 

 海はないけど、まさにバカンスに来ているかのような感覚に襲われた。これを独り占めするのも、ずるい気がする。危険だって事は、きちんと話さなければならないけど、やはり翔太にもこの『異世界(アストリア)』の事を話したい。あいつがいれば、楽しいし心強い。


 ぐるぐるとあれこれ考えていると、そのままいつの間にか眠ってしまっていた。気持ちのいい陽気。それとあの壮絶なゴブリンとのバトルの後。身体が限界だったのかもしれない。


 気が付くと、陽がもう落ちかけてきていた。今日はなんだか物凄い早く一日が過ぎ去っていった感じがした、。目を擦る。樽の上に乗ってたビール缶を手に持つと中は空になっていた。全部飲んだか……


 焚火に目を移すと、もう火が消えていた。


 これからまた、焚火を熾して晩飯の準備を始めなければならない。多少面倒に思う。だけど、眠ったせいか顔の殴られ腫れていた個所も、少しおさまっているように思える。腹の方も食って直ぐに寝たのに、もうまた何か食える感じになっていた。


 本当に、『異世界(アストリア)』へ来てからどうしちまったんだろうな、俺の身体。


「ふう……よっしゃ! それじゃ、晩飯はちょっと面倒でも米を炊いてみるかな!」


 膝を叩いて勢いよく立ち上がる。すると、全身にビビビっと電気のような感覚が走った。やはり、完全回復とまではまだいかないようだ。


 小屋の中へ米を取りに行こうと動いた刹那、俺の丸太小屋を囲む柵の外――少し離れた所にある草むしりで積み上げた草山の近くに人が立っているのを見つけた。


 あれは、俺がゴブリンから助けた女の子だ。

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