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Phase.269 『骨と錆びたナイフ』



 見るだけで極めて残虐な性格であると解る笑みをニタニタと浮かべながら、こちらに近づいてくる2匹のゴブリン。


「ひ、ひいい!!」


 ギャギャ!!

 

 ドガッ!!


「痛いっ!!」


 ゴブリンは、棒で容赦なく突いてきた。右肩に痛みが走る。そして容赦なく、リンチは続く。


「痛い痛い!! や、やめて!! やめて!!」


 ギャギャギャーー!!


 悲鳴をあげて顔を歪めると、更に喜んで興奮するゴブリン。慈悲の心はない。でも考えてみれば……例えば僕らだって、キッチンで見かけるゴキブリを目にすれば容赦をしない。慈悲の心なんてない。彼らにとって、僕らはそれと同じなのかもしれない。


 悲鳴をあげつつも、逃げる事もできない狭い檻の中では、どうする事もできずにただただ耐えるしかなかった。


 こんなになってまで、どうしてあの羊の魔物を助けるような行為をしてしまったのだろうか。解らない。以前の学校での僕と市原達……それが重なったからかもしれない。


 ギャギャ!


 暫く耐え続けていると、一方のゴブリンが槍を手にした。やばいやばいやばい。槍はやばい。


「ひ、ひいいい!! や、やめろおおお!! ぎゃああああ!!」


 槍で刺された。太ももを刺された。強烈な痛みと流血。


「やめて、やめてえええ!! 痛い痛いいいい!!」


 ギャハハハハハ!!


「ぐわあああっ!!」


 更にもう一突きされた。太ももから夥しい出血。し、死ぬ。吐き気も催してきたし、僕はこのまま死ぬかもしれない。


 ドガンッ!!


 ギャウウウ!!


 また槍を持っているゴブリンがそれで突き刺そうと振りかぶる。もう一匹のゴブリンも、同じことをしようと剣を抜いた。やばい、殺される。そう思った瞬間、暗闇から別のゴブリンが現れた。


 他の2匹のゴブリンと大きさが違う。それに筋肉質で、凄みがある。こ、こいつはもしかして……


「ホ……ホブゴブリン……」


 僕はファンタジーゲームや、ラノベ、アニメなんか大好きだ。だから知っている。ゴブリンには、上位種がいることも。その特徴と、一致すると思った。その名もホブゴブリン。


 通常のゴブリンは、人間の子供位の体格しかなくて、素手での格闘ならなんとか勝てるかもしれないと思っていた。けれどこのホブゴブリンは、僕じゃきっと勝てない。坪井さん位のプロレスラーの体格なら、きっと勝てるだろうけど……かなり筋肉質な感じで、肩と背中も盛り上がっている。


 ギャギャ!!


 ギャ!


 ホブゴブリンが何か言うと、2匹のゴブリンは僕をちらりと横目で見て、慌てて何処かへ走って行った。そしてこの場に残ったホブゴブリンは、こちらにゆっくりと歩いてくると僕の檻に顔を近づけた。


 生きた心地がしない。僕は、ただただ恐怖に身体を振るえて隅で丸くなっていると、やがてホブゴブリンは僕から隣の更に隣、その檻に目を移した。


 そして檻の扉を開くと、悲鳴をあげる羊の魔物を引きずり出して腕に噛みついた。泣き叫ぶ羊。僕は見てられずに、目を背けて丸くなった。怖い怖い怖い。嵐が通り過ぎるのを、ひたすら待っていた。


 やがて静かになる。起き上がり目を凝らして辺りを見てみると、先ほどホブゴブリンに檻から引きずりだされて噛みつかれていた羊は、肉塊になっていた。


「う……うげ……」


 僕はそれを見て吐いた。


 口を拭うと、再び辺りを見る。ここからどうにかして逃げ出さないと、僕もこの羊の魔物のように肉塊にされる。そんなのは、嫌だ。


 幸い、ホブゴブリンも満足したのかいなくなっていた。僕はもっと目を凝らして薄暗い周囲を見回してみた。すると、僕の入れられている檻の近くに、1本のナイフが落ちていた。錆びていてボロボロのナイフ。きっとさっきの2匹のゴブリンのうちのどちらかが、落としていったのかもしれない。


 興奮して跳んだり叫んだりしてハッスルしていたから、それも不思議ではないと思った。


「よ、よし。なんとかあれを手に入れられれば、ここから脱出できるかもしれない……」


 怖いし、吐くぐらいに気持ちも悪い。だけど僕は、市原からもトロルからも逃げきって生還したんだ。今度だってきっと……それに、小早川にカイ……椎名さんだって、僕がいないって解ったら、きっと今頃探してくれているはず。だから諦めてはいけないんだ。


 折から手を出して伸ばす。身体を動かすと、ゴブリンに何度も突かれた肩と、刺された太ももに激痛が走る。だけど今はこんなの気にしている暇はない。無事に拠点に戻る事ができれば、大井さんや不死宮さんが治療してくれる。痛がるのは、その時でいいんだ。


 今は、兎に角ここから逃げる事だけ。部屋の電気のスイッチを切り替えるように、意識を切り替えるんだ。そう考えた。そしてもっと手を伸ばす。


「うう……ダメだ。届かない……もう少しだとは思うんだけど……」


 どうしても届かない。


「うううう……」


 格子に顔がめり込む位に押し当てて、腕を伸ばしていると近くに飛び散った羊の魔物の肉塊の中に骨を見つけた。どうやっても届かないナイフから、骨に狙いをかえて手を伸ばす。


「や、やった! 掴んだぞ!」


 羊の魔物の骨を指でこっちに寄せて、掴んで手に入れた。


 それを見て閃く。僕は、履いている靴の片方から靴紐を抜き取ると、それに骨を巻き付けてナイフのある方へと放った。


 外せば引き寄せて、また投げる。めげずに繰り返していると、骨がナイフに引っかかってこちらに手繰り寄せる事ができた。なんとか、ナイフを手に入れる事ができた。

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