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Phase.268 『恐怖と絶望』(▼大谷 良継)



 気が付くと、薄暗い場所にいた。


 まず起き上がろうとした。すると頭をぶつける。


「あいたっ! いててて……」


 周囲を調べる。


 どうやらここは、何処かの洞窟。そして僕は、何者かによって檻に入れられていた。


 正方形の木でできた檻。高さはなくて、完全に立ち上がる事はできない。中腰が精一杯。


 僕は座り込んで両手で格子を掴むと、前後に引っ張ってみた。だけど破壊してしまっていいと思う位に激しく動かしたけど、ビクともしない。僕が力が弱いのは、自覚しているけど、この檻の素材はかなり丈夫な木を使用している。


「うぐっ! くっそーー!! ここはどこだ!! この木め、動け!!」


 壊れる程乱暴に引っ張ったり、叩いた。だけどやはりビクともしない。ああ、どうすればいいんだ。それにここは、何処なんだ?


 確か僕は、椎名さん達とコボルト討伐に向かっていた。そして突如現れた緑色の大蛇に小田君が襲われて、怪我を負った。だから彼を手当てする為に、カイや蟻群君と一緒に小田君を連れて拠点へ戻ろうとしていたんだ。


 それで拠点近くまでやっと戻ってこれたって所で、いきなり誰かに頭を殴られて……そうか、それで気絶させられて、僕は何者かにここに連れてこられたんだ。


 ギャギャギャーー!!


「ひ、ひいい!!」


 思わず声をあげてしまった。びっくりした。今のは、魔物の声。


 確かめようと檻に捕まって、薄暗い洞窟内を見回す。この檻の隣にもその隣にも、この檻と同じような檻が並んでいる。そしてその中には、毛むくじゃらの何かが蠢いていた。


 こ、ここは……


 ギャギャーーッ!!


 背の低い何かが、こちらに歩いてくる。手には松明。その灯りで照らされて、直ぐにそれがなんなのか解った。もしかしたら、僕たちが討伐しようとしていたコボルトかもしれない。そう思っていたけど、僕を殴ってここへ連れてきたのは、ゴブリンだった。


 ゴブリンは僕の入っている檻の前まで来ると、松明を翳して僕を凝視する。その顔はニタニタと笑い、凶悪そのものだった。


 ギャハハハハ!!


「ひ、ひいいい!!」


 ゴブリンは、2匹いた。


 僕を見るなり、近くに立てかけてあった棒を拾って、こちらに向ける。


「な、なんだ!! ぼ、ぼぼぼ、僕をここへ閉じ込めてどうするつもりだ!!」


 ギャハーーッ!!


 ゴブリンは手にしていた棒で、勢いよく突いてきた。胸に強烈な痛み。


「ぐわああっ!! い、痛い!! や、やめろ!!」


 ギャハハハハハ!!


 僕が痛がって必死に身を守ろうとすると、2匹のゴブリンは向かい合って腹を抱えて爆笑した。そしてまた棒を手に、突いてくる。


 結構な威力で突いてくるので、僕は必至で顔や喉などを守った。


 地獄のような時間――僕が死ぬまで続くのかと思ってゾッとする。そして1時間くらいそうやっていたぶられた後に、1匹のゴブリンがこちらに向かって小便をし始めた。


「うわああっ!! う、嘘だろ!!」


 ギャハハハハ!!」


 もう1匹も大笑いして、同じようにし始める。僕は、小便に濡れないように小さな檻の中を逃げ回った。だけど逃げられる訳もなく、強烈な異臭が鼻をついた。


 ギャハハハハ!!


 僕は目をゴブリンと目を合わせないようにした。伏せて丸くなり、震えながらもただひたすら身を守る。嵐が通りすぎるのをただ待つだけ。ゴブリンたちをできるだけ、刺激しないように。


 すると2匹のゴブリンに、何度かまた小突かれはしたものの、満足したようで今度は僕の隣の檻に意識を向けた。そして何か取り出す。チラリと見ると、松明の灯でそれが鍵だと解った。


 欲しい。あの鍵があればここから、逃げ出せるのに――


 ギャギャーー!! ギャーー!!


 メエエエ!!


 2匹のゴブリンは、僕の入っている隣の檻を開けると、中に入れられていた何かを外へ引きずりだした。


 メエエエエ!!


 それは、まるで羊のような鳴き声をしていた。いや……羊……羊人?


 背丈は人間の子供位しかない、ゴブリンよりも小さい生き物。けれどその身体には羊特有の毛。モフモフしていて、その顔も羊そのものだった。だけどまるで、その動作は人間のよう。


 この世界には、コボルトという人型の犬の魔物がいるが、まさに檻から出されたこの生物は、人型の羊の魔物のようだった。


 メエエエエ!!


 ギャギャッ!!


 メエエエエエエエ!!!!


 羊は悲鳴をあげた。とても聞いていられない、つんざくような悲鳴。僕は両手で自分の耳を塞いだ。


 2匹のゴブリンは、ニタニタと笑いながらも怯える羊を押さえつけて、切れ味の悪そうなナイフを取り出すと、それでその羊の腹を裂いた。


 だけど羊は、直ぐには死ななかった。生きたまま、内臓をほじくられて取り出され、目の前で食べられる。まさに地獄絵図。他のいくつかの檻にも、同じ羊が捕らえられているようで、仲間の羊が解剖されていくのを見せられていた。


 ギャハハハハ!! グワアッ!!


 ゴブリンたちが満足する頃には、解剖されていた羊は絶命してしまっていた。ゴブリンは、顔にべったりとついた血を拭うと、また別の檻に目を向けた。すると羊たちは悲鳴をあげる。


 ゴブリンはそんな羊たちを見て爆笑すると、また近くの檻を開けて新たな羊を引きずり出した。もうこれからどうなるか理解している羊は、その場で失禁してしまい泣き叫んだ。だけどゴブリンたちの笑いは止まらない。


 僕は巻き込まれないように……このままゴブリンたちが羊に夢中になって、僕からは意識がそれ続けますようにと祈る。


 メエエエエエエ!!!!


 泣き叫ぶ羊。耳を塞ぎたくなる位の、つんざく悲鳴。


 僕も恐怖で頭がおかしくなりそうになっていた。なのに……


 ドガンッ!! ドガンッ!!


 なのに、僕は両足で交互に思い切り檻を蹴って叫んでいた。


「やめろろおおおお!! やめろ、このゴブリン共!!」


 自分でも、心と身体が違っている事には気づいていた。だけど……やってしまった!!


 羊を押さえつけていた2匹のゴブリンは、同時に僕の方を向いた。いまだかつてない程の、恐怖と絶望。とても凶悪な顔――僕も檻から引きずりだされた羊どうように失禁してしまいそうになった。

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