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Phase.263 『心配性』



 コボルトの集団を見つけた。周辺はかなり背の高い草が生い茂っていて確認しずらいが、この先に20匹はいる。そしてその中に、懸賞金50万のコボルトリーダーと5万のコボルトもいる。


 とりあえず、少し離れた所で身をかがめて様子を見た。トモマサが囁く。


「おい、20匹程度ならドカカっと行ってぶっ倒せばいいんじゃねえか。なあ、やっちまおうぜ」

「いや、油断するな。確認できているだけでも、20匹位いるって事だ。実は、もっと多くいるかもしれないし、その中にターゲットが、2匹ともいる。だから翔太達を待った方がいい」

「ええー、それにしたってこんな所でボーーっと待ってたら、そのうちあいつらどっか行っちまうかもしれねーぜ。なら、俺達だけでもうやっちまおう。この4人なら精鋭だろ?」


 うーーん、どうしたものか。精鋭……少なくとも鈴森、トモマサ、小貫さんは精鋭と言っていい。だけど俺は、自分をそれほど信じてもいないし、自分でいうのもアレなんだが、かなり心配性で用心深い。


 このまま4人でコボルトの集団目がけて突撃しても、いいものだろうか。あれだけ数がいるとなると、さっきみたいにアサシンするとしても、絶対気づかれる。気づかれれば少なくとも20匹以上のコボルトが、俺達に四方八方から襲い掛かってくる。


 例え1対1ならこちらが優っていたとしても、一度に数匹を相手にすればどうだろうか。1匹と戦っている横から、槍を突き立てられ、腹を串刺しにされるのがオチじゃないか。


「いや、もう少し待とう。翔太達なら絶対直ぐに追いついてきて、俺を見つけてくれる。幸い北上さんもいるし、間違いないはずだ」


 北上さんは、俺達の仲間になる前は、『幻想旅団』というクランにいた。だから少なくとも俺よりは、こういう事に慣れている感じがするし、実際そうだ。彼女の性格上、テキパキと行動してくれる。そしてその都度、一番良い道を選んで期待に応えてくれる。それを信じたい。


「でもなー、じっとしているのも暇じゃん。なんなら、まず俺が一人で出鼻をくじきに行ってやろうか? 俺の戦闘力なら皆、もう知っているだろ? 行っていいか?」


 駄目だと言おうとした所で、鈴森が言った。


「実は、俺もあんたに賛成だ。俺一人なら、全員さっきのようにアサシン戦法で、手早く仕留められる自信がある。だが、リーダーの椎名はこういう性格だし、翔太達を待つとも決めているようだからな。だから大人しくここは、リーダーに従って待つんだ」

「えええーー」

「言ったろ? 俺もトモマサに賛成だ。だが、リーダーがそれで決定するというのであれば、俺達はそれに従うまでだ。それとも何か? ただ待てばいいという簡単な命令に、従う能力があんたには無いのか?」

「ああ? そりゃどういう事だ?」


 まただ。トモマサは短気で血の気が多いところがあるし、鈴森は相手の気持ちを察してやるのが苦手だし口が悪い。


 口は災いのもとっていう諺があるけれど、それはもしかしたら鈴森孫一という男の為にある教訓かもしれない。


「おい、こら。ちょっと二人とも落ち着け。俺達は仲間だろ? 仲間なら仲良くしなさいって、クランルールがあっただろ? 忘れたか?」

「だって、こいつがよ!!」

「俺は思った事を、口に出しただけだ」

「だーかーらー、ちょっと待ってって。今日は、起きた時から異常事態で辺り一面植物が生い茂って大変な事になっているし、その中を強行してコボルト討伐にやってきている。そして今はその戦闘状態の最中だ。皆、気が立っているのも解る。だけど、冷静さを失わないでくれ。もう一度言うが、俺達は仲間だろ。小貫さんもそう思うよね」


 いきなり小貫さんに振った。だって小貫さんは、もう俺達の仲間だから。


「ああ、そうだ。その通りだ。でも実は解っている」

「解っているって何をだ?」

「なんなんだよ」


 鈴森とトモマサが仲良く、きょとんとして小貫さんに注目する。


「はは、もう言わなくてもいいだろ? 要は、言い争いしたり喧嘩もするけど、俺達は家族みたいなもんだって事だ。ちょっと恥ずかしいセリフだけど、これは3人が俺に言わせたことだから」


 小貫さんの言葉に、俺もトモマサも笑ってしまった。鈴森は……いきなりプイって向こうを向いた。つい笑ってしまったのを、悟られまいとしているんだろう。小貫さんは続けた。


「喧嘩をしたら、その後は仲直り。俺も佐竹や戸村、須田とそんなだった。まあ、それはさておき、リーダーの判断は間違っていないみたいだよ」


 小貫さんはそう言って、後ろを指した。草がガサガサと動き、翔太が顔を出す。続けて陣内、北上さん、小早川君が顔を出した。


「やほー、ユキー!! ただいま、馳せ参じたぜ!!」

「ユキ君、お待たせー」

「我もともにゆかん!!」

「おお、アッキー、ノリノリだねー。でもゆかんってさ、行くって言ってんのに、ちょっと行かないって言っているみたいだよな」

「ぬぬぬぬ、た、確かに!!」

『あっはっはっはっは!!』


 登場するなり、いきなり翔太と小早川君で、わけのわからない会話をして肩を組んで笑いあっている。なんだ、いったいこいつらは……

 

 俺はあきれ顔で一番頼りになる北上さんに、状況を伝えた。


「それで、そっちはだいぶ人数が減ったみたいだけど」

「うん。結局、小田君が負傷したから、彼と蟻群君、ヨッシー、カイ君は先に拠点に戻ったよ」

「そうか、4人は戻ったのか。ここにいるのは、8人だから、まあそういう事か。4人とも無事に戻ってくれていればいいけど」

「来た道を戻って行った訳だから、かなり危険度は低いと思うけれど。でもこれだけ草が生えていると、見通しも悪いし直ぐ近くに魔物が迫っていても解らないもんね。でもきっと大丈夫だよ」


 本当に大丈夫なんだろうか。確かに北上さんの言う通り、危険度は低いと思う。だけど……


 こういう気持ちになる所がまた、自分自身がかなり心配性なのだと感じる要因の一つだった。

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