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Phase.261 『草木生い茂る中』(▼椎名 幸廣)


 うーーん、どういうことだ? 12人でコボルト討伐に出発したはずなのに、気がつけば……なんと4人になっていた。


 やはり未知なる『異世界(アストリア)』。拠点から近場だからといって侮ってかかると、大変な惨事になる。


 拠点自体も、今までゴブリンの襲撃もあったし、周辺にはウルフやスライム、それにブルボアなどの危険な魔物もうろついていて完全に安全とは言いがたい。


 しかも今日は早朝から、異常事態が起きていた。


 俺達の拠点、その周辺一帯の植物が一夜にして増殖し成長して、辺り一面ジャングルのようになっていた。


 あとは……拠点にパブリックエリアなるものを作り、他の転移者相手に利用料を頂いたり、お店を運営してみたんだが、始まって以来のお客さんの数と大盛況になっている。


 そして市原のバカが、またどういう訳かこの『異世界(アストリア)』へやってきているという……あいつはオタクでもないし、異世界やファンタジーに興味なんて微塵もないだろうに、どうして……


 兎に角、こんな色々とイレギュラーな事が起きている日に、わざわざコボルト討伐に駆り出してしまったのは、判断ミスだったのかもしれないと少し後悔をしている。


 だけど、俺達の拠点の辺りには今、多額の懸賞金をかけられた魔物が出没しているらしく、俺達のクラン以外の冒険者達が集まってきている。だから、その者達に少なくともコボルトの手柄を横取りされたくなかった。


 コボルト討伐については、かなりの被害を出してしまっていた。モンタ達は、今は俺たちのクランの仲間だけど、その時は市原の仲間で、勝手についてくると言って討伐についてきた。そしてコボルトを討伐するはずが、逆襲されて沢山死んだ。


 …………生意気な不良共で、俺だけでなく翔太や堅吾なんかも、その態度には腹を立てていて……北上さんもあきれていた。だけど、ざまーみろとか、とうぜんの報いと言ってしまうには可哀そすぎた。


 モンタ、蟻群、陣内、小田、茂山、十河、成子――こいつらは、市原の仲間で、同じ不良グループだった。だけど何を思ったのか、俺達の仲間に加わりたいと言ってきて、市原達が虐めていた大谷君達にも、これまでの事に対して誠意を込めて謝罪した。


 そう、付き合って打ち解ければいい奴らだったのだ。


 だからあのコボルト討伐の時……無理をしてでも、市原達だけに行かせるべきではなかったと後悔もしている。


 …………


 拠点で、新たに作ったパブリックエリア。そこで他の転移者を相手に商売できないかって考えて、やってみたけれど案外上手くいきそうな感じだった。既にそれだけで、結構な稼ぎになりそう。


 だけどバウンティハンターとしての活動は、続けていきたい。だから……


 だから、最初に選んで勇んで挑んだものの、多大な犠牲を出してしまったこのコボルト討伐を、なんとしてもやり遂げたいのだ。


 あの時、討伐すると決めたコボルトは、懸賞金5万円クラスが3匹に、50万円クラスは1匹。5万クラスは既にあの時に、2匹討ちとっているので残りは2匹。決着をつけたい。


 本来ならば、この予期せぬ異常事態に拠点から外に出るというのは、賢いとは思えない。本来臆病な性格の自分にも背く行動になるかもだけど……これはやりとげたいのだ。他の転移者に、譲りたくない。それくらい、大事な一歩だと考えている。


 ガサガサガサ……


 ずんずんと先頭を行く、トモマサと鈴森。二人は一応、辺り一面に伸びている草を刈って前に進んでいるつもりだろうけど……兎に角、雑。刈るというよりは、ほぼ掻き分けて前へ進んでいた。そう、はっきり言って二人は、特に草を気にしていない。


 後ろを行く俺と小貫さんは、苦笑い。だけど実にトモマサと鈴森らしい性格だと思った。


 ザッ。


 急にトモマサと鈴森の足が止まる。俺は声をかけた。


「どうした?」

「シッ!」


 鈴森。俺達に、少し屈めと合図し、鉈を持つ手を前に突き出して、ゆっくり前方の草を掻き分ける。そして、ゆっくり動いて俺と小貫さんに、見てみろと合図してきた。


 ――――いたっ! 草の茂みの中に、コボルトがいる。何を言っているのか言葉は解らないし、言葉なのかも解らない。唸っているようにも見える。トモマサが笑った。


「うっはっは! この一夜にして草ボーボーになったこの状況に、あいつらもいっちょ前に動揺してやがるな。こいつは、ウケるぜ。後で拠点へ戻ったら、堅吾(けんご)(まさる)にも教えてやろーっと。きっと爆笑だぜ」


 冷めた目の鈴森。


「爆笑したいなら、後で帰ってからいくらでもすればいい。それよりも、椎名よ。あのコボルトは、ターゲットか?」

「どうだろう。ちょっと待って」


 スマホを取り出して確認をする。


「普通のコボルトだ。コボルトでも人間と同じように、強さや能力に個体差はあるだろうけど、懸賞金のかけられている奴じゃない」

「そうか……向こうにもいるぞ。パっと見、3匹……いや4匹。どうする?」


 鈴森のどうするっていう意味は、やり過ごすかもしくは、全部やっつけるかって事だ。小貫さんが言った。


「確認した奴4匹全部倒すとしても、油断ならない。それにこれだけ草が生い茂っているから、見えない奴がいるかもしれないよ」


 確かにそうだ。見えているのは4匹だけど、実際は周囲に5匹……6匹……もっといるかもしれない。スマホで確認する限りは、懸賞金のかかった強敵は、もう少し先にいるみたいだけれど。


 トモマサがニヤリと笑って言った。


「めんどくせー。とりあえず、やっちまうかー。なー」


 豪快な発言だけど、一理はある。ここは、拠点からそれほど離れていない場所だし、そこにこんな危険な奴らが徘徊しているのに、あえて見過ごすっていうのも後々安心はできない。


 あの時、拠点にゴブリンが入り込んできた時の事……あれは、記憶に新しい。


「よし、やってやろう。4匹なら、こっちも4人だ。このまま忍びよって行って、1人1匹やればいい。それに間も無く翔太や北上さんも俺達を追ってきてくれるだろうし、戦力はあがる」


 3人共頷いてくれた。小貫さんは兎も角、鈴森とトモマサは、この展開を望んでいたふしがあるな。


「よし、気づかれないように行くぞ!」

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