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Phase.260 『てんてこまい』



 パブリックエリアは、全体的にだいぶん草も刈れて見通しが良くなってきていた。それもそのはずで、わたし達の拠点にお客さんとしてきてくれている転移者さん達が、皆草刈りや草抜きに協力してくれたからだった。


 やっぱり、人数。全員で何十人ってお客さんが今日は来てくれているので、あっという間に作業が進んでいく。


 平らになったエリアでは、お客さん達が焚火の準備をしたり、テントを設営したりしている。


 ゆきひろさんが、このパブリックエリアでは、火の不始末や諍いなど起きないように気を付ける事ができれば、基本的に自由にしていいと決めたから、皆思い思いに拠点の中で自分たちの居心地の良い拠点を作っているのだ。


 そして今日は、早朝からこの『異世界』では異常事態が起きていて、慌ただしい事になっていた。拠点の中も外も、ジャングルのようになっている。だからここにいるお客さん達は、今日は拠点の外に出ないで、この事態の様子を見ている者も多いみたいだった。


 だからパブリックエリアで営業しているわたし達のお店は、今日はオープンするなり大忙しでてんてこまいだった。わたしと志乃さんだけじゃ、とても対応できないくらい。いつもお店を手伝ってくれる海さんは、この騒ぎで拠点内を長野さん達と見て回っているし……


 そんな訳で急遽、モンタさんやうららさんにもお店を手伝ってもらっている。


「未玖ちゃん、新しいお客さんでホットコーヒー4人前ッスよー」

「は、はい! 今、直ぐにドリップしますので、もう少し待ってください」

「未玖! 向こうの冒険者一行さんだけどね、オムライスとラーメンと、牛丼と……えっとあとなんだっけ? ごめん、ちょっとうらら、もう一回オーダー聞いてくるね」

「え? あ、はい! お、お願いします!」


 兎に角、大変な事になっていた。


 お店で出すメニューの食材は、ゆきひろさんや翔太さん、それに孫一さんに成田さんがよく買ってきて補充してくれるからまだまだ沢山あるけれど、とてもさばききれない。もしも今、志乃さんと二人だけでお店を回していたらって考えると、恐ろしい。


 ……でも、楽しい。


 もとの世界じゃ、わたしにこんな居場所はなかったから。とても充実しているし、楽しい。これもゆきひろさんのお陰。


 そう思うと、こんなに忙しくても自然と笑みがこぼれる。


「未玖ちゃん、何笑っているの?」

「え? いえ、そんなわたし!! きゃあっ!!」


 フライパンをひっくり返してしまった。


「すいません、志乃さん」

「大丈夫よ。それより、頑張りましょう。もう少し頑張れば、きっと落ち着くはずだから」

「は、はい。そうですね。でも落ち着いちゃったら、落ち着いちゃったでちょっと悲しいかなって」

「あはは、確かにそうだよね。お客さんが沢山来てくれれば、その分大変だけど売り上げは上がるんだものね」

「はい、そうです」


 気が付くと、お昼になっていた。そこからまた大変な事になる……っと思ったけれど、そこまで大変にはならなかった。皆、自分たちのキャンプを設置して、そこで何か焼いて食べたり、調理をして食事を楽しんでいる人達も増える。


 わたし達のお店にもまだ休みなくお客さんは来るけれど、それでも休憩できる位のペースにはなってきた。


「流石につーかーれーたー。うらら、もう駄目かもしんないんだけど」

「頑張るッスよ、うららちゃん。仲間の為ッスよ。未玖ちゃんと、志乃さんの為ッスよ!」

「仲間とかそんなの言われたら、そりゃ頑張るしかないけどさー。でも、つーかーれーたー」


 本当によく頑張ってくれたうららさん。そんなうららさんとモンタさんに、志乃さんが声をかけた。


「それじゃ、そろそろお昼になるし、お昼ご飯作るから、何が食べたいか言ってみて」

「え? 俺達、なんか食えるんッスか⁉」

「えええーー!! まじーでーー!! 何食べてもいいんでしょ? 沢山食べてもいいんでしょ? それなら、うららまだまだ頑張れるよ!!」

「あはは、何食べてもいいし、沢山食べてもいいよ。あと、今日は夜皆でお菓子パーティーも開こうか。美幸や海や景子や鬼灯も、声をかければ絶対参加するだろうし」

「お菓子イエーーイ! それじゃ、お昼食べたら、うららもっと頑張るね! それじゃ、うららは、パスタとオムライス食べたーーい! さっきお客さんに出してたオムライスね。あれ、凄い美味しそうだった」

「はーい。モンタ君は?」

「お、俺っスか⁉ 俺は……それじゃ、ラーメンとチャーハンにするッス。大丈夫ッスか」

「うん、餃子もつけるわね」


 声をあげて、飛び跳ねて喜んでいるモンタさん。


 志乃さんと、あとちょっと頑張って、それからちょっと休憩しようと話して再び頑張る。


 それから、また1時間位経ったところで、誰かがわたし達のいるお店に走ってきた。かなり息を切らしているけれど、彼は茂山さん。茂山さんと友人のモンタさんも、彼に気づいて声をあげた。


「あれ、そんなに焦ってどーした、茂山?」

「はあ、はあ、はあ! 未玖ちゃんと、志乃さんは治療とか得意ですよね! ちょっと直ぐきてもらえますか?」

「え?」


 不安がよぎる。まさか、ゆきひろさんに何か……


 わたしと志乃さんは、慌てて茂山さんのもとへ。詳しい話を聞く。


「リーダーと一緒に出て行った、メンバーの蟻群と小田と有明が返ってきたんだけど、小田が結構な怪我をしてて……蟻群と有明も……それで大谷は行方不明で……」


 茂山さんも焦っていて、混乱している。モンタさんが落ち着けと言って、茂山さんに問う。


「リーダー達は、まだ例のコボルト討伐に向かっている最中だ。それでその途中、小田が怪我をしたから、先に4人が拠点に戻ることになったみたいなんだけど、またその途中で大谷が行方不明になってしまったらしくて……」

「なにいいい!! そ、それ大変じゃねーか!! 直ぐに長野さんや、海さんに伝えないと!!」


 忙しくて楽しい時間が一転する。


 わたしと志乃さんは、一旦お店を閉めて小田さん達の治療に向かう事にした。そしてモンタさんは、長野さんや海さんに行方不明になってしまった大谷君の事を知らせに行く。うららさんは、治療をする為に鬼灯さんを呼びに行ってくれた。

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