Phase.259 『頼れるモンタさん』
「未玖ちゃん、皆! こっちこっち!」
「あーー、未玖――!!」
成田さんとうららさんのもとへ行く。そしてこの事態の事を話すと、二人とも今朝からのパブリックエリアの様子を教えてくれた。
成田さんや松倉さん達は、昨晩からこの拠点に来てくれたお客様である転移者達の対応をしていたり、拠点を囲っているバリケードが破損をしていないか、有刺鉄線が切断されていないかを見て回ってくれている。
うららさんが、わたしのザックから顔を出している兎を見付けて声をあげた。
「うそーーー!! それ、兎――!! 未玖、兎を捕まえたのおお!! 可愛い、見せてーー!!」
「え? あ、はい。優しくしてくださいね」
「なんか優しくしてとかそういうと、別の事連想しちゃうよね」
「え? どういう事ですか?」
「ゴニョゴニョゴニョ……」
顔が真っ赤になる。うららさん、結構こういう所があるから困る。成田さんが言った。
「それで、未玖ちゃん達は、これからどうするのかな? もしあれだったら、お店をオープンさせてほしいな。ここには、お客さんたちが結構いるからね。このあたり一帯、一夜にしてジャングルになってしまうという大事件で、皆困惑しててね。外は更に危険かもしれないからと言って、できるだけ今日はここにとどまってもらっているんだ」
周囲を見渡すと、草を刈ってそこに居場所を作って、テントを張ってゆっくりしている人達や、焚火をしている人がいる。確かに、お店を今ここで開いたら皆に喜ばれそう。
「だからそういう訳でね。お店が開いていると、皆ありがたいんじゃないかと思ってね。稼ぎ時でもあるんじゃない?」
「確かにそうですね。解りました。どちらにしてもわたし達、この騒動でパブリックエリアやお店がどうなっているのか気になってきましたから」
「なら良かった。それじゃここは君達に任せて、僕は川エリアの方へ見に行ってくるよ。あっちはまだ確認していないからね。多分、団頃坂さんや最上さんがいるから大丈夫だとは思うけどね。もしもバリケードなど破損していたら、僕が一番修理を早くやれると思うから」
この場所に拠点を作ったのは、ゆきひろさん。そしてそれを大きくした一番の功労者が成田さんだった。
「解りました。それじゃ、お願いします」
「じゃあ、また後でね」
成田さんと別れる。
「それじゃ、私も行こうかな」
鬼灯さんだった。
「え? 鬼灯さん、何処かに行っちゃうんですか?」
「だって未玖ちゃんと志乃だって、もうお店でやることがあるでしょ? 私もこれから大忙しだから。だって拠点内なのに、こんなに植物が沢山生えているのよ。とりあえず、初めて見る薬草や、キノコとか採取しておかないと。薬草畑だって、この分だと草原エリアの畑のように、凄い事になっていそうだしね。忙しいわ」
そういえば鬼灯さんも、わたしと同じく薬草とか薬のお店を開いているんだった。
「それじゃ、後でまたここへはきますよね。お店もありますし」
「そうね、後で時間があればかな。これから忙しくなるから。ここへ戻ってこれなければ、明日か明後日になるでしょうね。でもほら、私も何処かへ行く訳じゃないから。この拠点内にはいる訳だし、会おうと思えばいつでも会えるから」
「そ、そうですね。それじゃあ……」
鬼灯さんとも別れた。来た道を一人戻っていく。途中でまた草原エリアや、森路エリアにもよっていくのだろうか。
志乃さんがわたしの肩をポンと軽く叩く。
「それじゃ、お店に入ってオープンの準備をしましょう。まだお店の中に入っていないし、異常がないか確認もしないといけないし」
「はい、それじゃお店に入りましょう」
「ちょっといいッスか?」
「モンタさん……そういえば、モンタさんにもここまで送ってもらいましたけど……この後も用事があるんですよね」
「それは……草刈りとかあるッスけど……でももうちょっと、いいんじゃないっスか。俺でよければ、店を手伝うッスよ」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます」
こうして志乃さんとモンタさんと3人でお店を開く準備をすることにした。お店の中はちゃんと確認したけれど、特に異常はないみたいだった。
でも外は……伸びきった草でいっぱい。早速モンタさんに無理を言って、お店の周りの草刈りをお願いした。その間にわたしと志乃さんは、準備を進める。
「あっ! どうしよう、志乃さん」
「もしかして、お水!!」
これは困った。水がなければ、珈琲すら出せないし、料理でも使用する。いつもなら、川エリアかスタートエリアの井戸までサっと行って汲んでくるんだけど……
「俺に任せるッスよ! ちょっと行ってくるッスから、飲み水を入れてもいいバケツとか貸してくれッス」
「ありがとうございます! それじゃ、こっちのペットボトルにも入れてきていただいていいですか?」
「いいッスよ! 水の調達と、草刈りに関しては任せてくれッス! それじゃ、早速いってくるッス!」
モンタさんは、空の2リットルのペットボトル5つをザックに入れると背負い、両手に大きなバケツを持って飛び出して行った。
もし今日、こんな異常事態になっていなければ、台車も使えたしもっと楽に水を運ぶこともできたのにな。でもモンタさんには、とても感謝をしないと。
志乃さんもそう思っていたみたいで――
「後で、モンタ君にご飯をごちそうしてあげよ」
と笑いながら言った。もちろんわたしは、大きく頷いた。




