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Phase.256 『兎』



 この拠点内、スタートエリアの何処かに兎がいる。


 そう思うと、そわそわした。すると、わたしのそんな気持ちを、見透かしたかのように鬼灯さんが言った。


「未玖ちゃん、もしかしてあの兎を捕まえたいの?」

「いえ……あの……は、はい、そうです……」


 今度はモンタさんが言った。


「もしかして、未玖ちゃん、あの兎を捕まえて食べるッスか? 確かに兎は食べた事ないッスけど、案外美味しそうッスよ」


「いえ……そ、そうじゃなくて、夜……この世界の夜は、とても寒いから、抱いて寝たらちょっと暖かいかもしれないかなって思って……それに、非常時にはモンタさんが言ったように食糧にもできますし」


 わたしの言葉を聞いて、モンタさんだけでなく、鬼灯さんや志乃さんまで大笑いした。尻もちをついていた志乃さんは、ゆっくり立ち上がると、自分のお尻を払ってからわたしに笑いかけた。


「未玖ちゃん、もしかして兎を捕まえてヌイグルミの代わりにするつもりでしょう

「ちちち、違います!! で、でも全く違うという訳でもなくて……」

「食べられるヌイグルミなんて、未玖ちゃんらしいわ」

「画期的ッス!! 未玖ちゃん、画期的な発想ッスよ! ヒャハハハハ」

「も、もういいです!」


 急に恥ずかしくなって、そっぽを向く。ゆきひろさんなら、笑わないし……それじゃ捕まえてみようとかそういう事を言ってくれる。


「それじゃ、さっきの兎、いっちょ捕まえてみるッスか!」

「え? 今から? でも危険じゃないかな」

「危険? 兎相手なら、大丈夫よ。心配しなくても志乃とさっきの兎なら、志乃の方が遥かに強いから」

「そうかなー」

「それじゃ、折角だしさっきの兎を追いかけて捕まえましょ、未玖ちゃん」

「え? あ、はい!」


 皆がまさかこんな事を言い出すなんて……正直驚いた。でも、なんだかちょっと嬉しい。


「それじゃ捕まえに行くッスよ!」

「未玖ちゃんとモンタ君は、そのまま兎の後を追って。志乃と私は先回りする感じ、それぞれ左右から捕まえにいく作戦でいきましょう」

「でもそんな簡単に捕まえられるッスかね。まあ、俺は自信ありますけど。こう見えて結構、反射神経高いんスよ、俺。高校卒業してバイトして金稼いだら、この反射神経を活かして荒稼ぎする計画があったんスよ。今はもちろんこっち、『異世界(アストリア)』の事で頭の中いっぱいッスけど」


 反射神経を活かして荒稼ぎする計画ってなんだろう? そう思っていると、鬼灯さんが代わりに聞いてくれた。


「その荒稼ぎする方法ってなんなのかしら? モンタ君の事だから、まあだいたいの想像はつくけれどね」


 鬼灯さんは、だいたいの想像はつくんだ……


「あーー、失礼ッスよ、それ! でもいいッス! 俺のこの計画を聞いたら、びっくりする事間違いないし。実は俺、バイトして軍資金をある程度稼いだら、それをもとにしてパチスロで……」

「さーーて、それじゃ未玖ちゃんの為に、兎を捕まえるわよ」

「ええ、解ったわ。私はあっちから、ぐるっと回って追い詰めればいいのね」

「ええ、そうね。それじゃ、行くわよ」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待つッスーー!!」


 あれだけ人と話す事が苦手で、関わり合いを持ちたくなかったわたしが、鬼灯さんや志乃さん、モンタさんと一緒に会話して笑っていた。これも皆、ゆきひろさんのお陰。ゆきひろさんと、皆のお陰。


 モンタさんは、わたしの隣に来ると兎が駆けて行った方へと指をさした。


「それじゃ鬼灯さんと志乃さんが行ったら、俺らはこのまままっすぐ行って兎を追い込むッスよー」

「は、はい。でも、これだけ経ったらもう兎、逃げちゃっていませんか?」

「それは、やってみるまで解らないッスよ。だからやってみるッス」

「は、はい」


 わたし、確かお店の様子を見にいくって言っていたと思う。なのに、こんなところでいったい何をしてしまっているのだろう。


 でも本当の事をいうと、さっきの兎は忘れられない。もしも捕まえられるなら、触れて撫でてみたい。抱きしめて寝たら、きっと凄く暖いかもしれない。モンタさんが言ったように、それも捕まえてみなければわからない。


 草を掻き分けて、進む。モンタさんと一緒に並んで前へ進んでいるし、向かっている先には鬼灯さんと志乃さんがいる。だから、怖くはない。


「い、いたッス! 未玖ちゃん! 捕まえるッスよ!」

「ほ、ほんとだ! いたっ!!」


 兎と目が合う。すると兎は更に草の中へ潜って行く。とびかかるモンタさん。だけど、逃げられてしまった。


「あいててて!! 未玖ちゃん、早く追いかけるッスよ!」

「は、はい!」


 追いかけた。草を掻き分け、見逃さないように、白いふわふわを探して駆ける。


「痛いっ!」


 スパっと、手を草の葉で切ってしまった。だけど、このくらい大丈夫。


「きゃあ、兎!! だめ、逃げられた!!」

「未玖ちゃん、そっちに戻った!! チャンスよ!!」


 志乃さんと、鬼灯さんの声が向こうの方からする。


 わたしは、身構えた。次の瞬間、草場から白いふわふわが飛び出してきた。わたしは思い切ってその白い塊に向かって飛んだ。


 そしてキャッチすると、沢山の草の中をゴロゴロと転がった。


 スンスンスン……


 鼻が物凄く動いている。可愛い……


「うおおおーー!! 未玖ちゃんが兎を捕まえたッスよー!!」

「うそ、凄いわ、未玖ちゃん」

「やったわね、未玖ちゃん」

「えへへ……」


 わたしは草が草が生い茂り、沢山の緑に囲まれた場所で、兎を抱いたまま転がっていた。


 そこに、志乃さん、鬼灯さん、モンタさんも直ぐに集まってきてくれたので、わたしは自慢気に捕まえた兎を皆に見せた。

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