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Phase.255 『モンタさん』



 草草草……物凄い植物の量に、圧倒されているわたしたちの拠点。


 昨日の時点では、いつもの『異世界(アストリア)』だった。なのに、一夜で周囲の植物たちが物凄い増殖して成長していた。


 ここは異世界だから、何か魔法みたいな事が起きたと思った。畑などで使用している、アルミラージの角の粉末。あれも穢れたものを浄化させる力のほかに、植物を急成長させる力がある。そういった力が、このわたしたちの拠点の周辺で起きたのだと思った。


 …………早く、ゆきひろさん達、帰ってこないかな。こんなおかしな日に、わざわざ危険なコボルトの討伐に出なくても、よかったんじゃ……


 でもわたしには止められないし、もう行っちゃった後だから、どうしようもない。


 翔太さんや孫一さん、それに美幸さんやトモマサさんだって一緒にいる。だから絶対大丈夫だとは、思うけれど……でも凄く心配。


「きゃああっ!!」


 草が生い茂る中、進んでいると志乃さんが急に悲鳴をあげた。わたしと鬼灯さんは、何があったのかと身構える。


「す、すまない!! ちょっと急いでいて、ぶつかる所だった。ごめん!!」

「いえ、こちらこそ、ごめんなさい」


 堅吾さんだった。それにその後ろには、一緒にモンタさんと十河さんもいる。


 そういえば、堅吾さんは空手の有段者で、とても強くて頼りになるってゆきひろさんが言っていた。ゴブリンがこの拠点に攻めてきた時も、堅吾さんは奮闘してくれた。


「あれ、未玖ちゃんと鬼灯も一緒なのか。大丈夫か?」

「大丈夫って何が?」


 志乃さんと話していたように、鬼灯さんが堅吾さんにもそう返した。


「いや、外がこんな感じになってるだろ? 今、森路エリアや川エリアにも、茂山や成子を行かせてるんだ。それで拠点内の安全確認と、このえらい増えた草の除去をやってる。偉そうに除去って言ったけど、鎌や鉈で刈ったり引き抜いたりっていう地道な作業だけどなー。だからもう少し辺りが片付くまで、3人共出歩かない方がいいんじゃないのか?」


 まるでデジャブを見ているかのように、鬼灯さんはそれに対してわたし達に返したように返す。


「それなら大丈夫よ。私達、ちゃんと注意して行動しているし、それにリーダーは拠点内なら自由に行動していいって言ったわ。だから私達、ちゃんと決められたルールを守っている」

「うーーん、それは確かにそうだけどー」


 堅吾さんは、ちらりと十河さんを見る。


「俺は嫌っスよ。他にやらなきゃならない事があるでしょ!」

「それじゃ、モンタだな。モンタが適任だな」

「え? 俺っスか?」

「そう、お前。お前、未玖ちゃん達についてろ。それじゃ、未玖ちゃん、志乃、鬼灯。俺たちはそういう訳で大忙しだから、また後でなー。拠点内っつっても十分に気を付けて、行動してくれよ。それと南エリアには、くれぐれも行かないよーに」


 返事をするまもなく、堅吾さんはそう言ってモンタさんを置いて行ってしまった。わたしは、モンタさんの顔を見た後に、志乃さんと鬼灯さんの顔を見た。


「それじゃ、お供するっス」

「正直、男の人がいてくれると安心かな。それじゃお願い」

「私も同じ。ありがとう、門田君」

「よ、よろしくお願いします」


 わたし達に、モンタさんが加わった。


 モンタさんは、大谷さん達と同じ学校に通っている高校生。だけど、大谷さん達を虐めていた市原さんの友達で、不良グループでもあったそうだ。


 だけどその不良グループでは一番、気さくで優しい感じがした。


 この拠点にやってきた時には、ゆきひろさんと最初に仲良くなっていた。そして今では、市原さんとは別れて、わたし達のクランのメンバーになってくれている。


「先頭は俺が行くッスから、3人は後ろからついてきて欲しいッス」

「よろしくね、門田君」

「任せるッスよ」


 志乃さんもわたしも、結構人見知りだったりする。モンタさんは、もうわたし達の仲間でクランメンバーだけど、まだそれほど会話もしていないので、わたし達二人はモンタさんとのやり取りを鬼灯さんに任せてしまっていた。


 鬼灯さんは、ちょっと暗い雰囲気のする人だけど、とても綺麗で性格もわたしのように物怖じするタイプには見えなかった。


「しっかし、アレっすね。一夜にして、この拠点……ジャングルのようになってしまいましたッスよね。ちょー、驚いたッスよ」

「そうなの、私も驚いちゃった。昨日は遅くまで薬草の事を調べていて……窓の外もよく見ていなかったわ。それで眠くなって眠って……暫くして、誰かの騒いでいる声が聞こえたわ。あの声はきっと、和希君と松倉君……それに成子君と陣内君の声も聞こえたかな」

「うおおー! 鬼灯さん、マジ、っぱねえッス! 有人と陣内の声まで覚えているんスね! まだそんなに話もしてないっしょ! マジすげーッスよ」


 一面、草が生い茂っている場所で一生懸命に鉈を振って、わたし達の為に道を切り開いてくれているモンタさん。こちらを振り向かずに作業を続け、鬼灯さんと会話をする。


 するといきなり目の前の草場から、何かが飛び出してきた。モンタさんが悲鳴をあげる。


「ひいええええ!! ま、魔物!!」


 魔物という言葉に驚いて、志乃さんは腰を抜かして後ろへ倒れる。わたしは、それが何か目で追った。するとそれは、白くてふわふわしたものだった。


 鬼灯さんがつぶやく。


「兎ね。あれは、兎よ」

「え? 兎?」


 確かに兎。角も生えていないから、アルミラージでもない。普通の兎。そういえば、この拠点近くで、ゆきひろさん達が兎を狩った事があったのを思い出した。


 きっとこの辺には、兎が生息している。一夜にして草木が急成長した事で、周辺が密林みたいになってしまったので、それで兎も混乱してわたし達の拠点内に迷い込んできたのだと思った。





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