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Phase.254 『山のような研究対象』



 ガサガサガサ……


「きゃあああああっ!!」

「だ、大丈夫です!! 大丈夫ですから、志乃さん!!」


 志乃さんと二人で、鬼灯さんのいる小屋を目指した。拠点内なのに、昨夜のうちに草が生い茂り視界は狭く、その伸びきって辺り一面緑一色になってしまった。周辺には、今みたいに大きな虫も入り込んできていた。


 草をかき分け前に進んでいると、志乃さんの目の前に現れた虫。それは野球のボール位の、とても大きなダニだった。


 ビッグティックという昆虫系の魔物で、大きなダニ。わたしは既にこのダニを知っていたので、それほど驚かなかった。


 前にゆきひろさんに、丸太小屋を初めて見つけた時に、寝室にあったマットの裏にたくさん潜んでいて、恐怖したという話も聞かされていた。そして退治したことも。


 その時の話をする時のゆきひろさんの顔はなんとも言えなくて、未だにこのダニを目撃すると怖いというよりもゆきひろさんの引きつった顔と、気持ち悪そうに話す表情を思い出して笑ってしまう。


 上手くは言えないけれど、なんというか気持ち悪いとか恐怖したとか、びっくりしたって話なんだけどそれも含めて、普通ではありえない体験をしたという、楽し気な感じが見え隠れしている。そんなゆきひろさんの話をいつまでも、聞いていたいと思えた。


 ビックティックは、脅威度は低めだと言っても人を刺したりもするし、それなりに危険な魔物なんだけど……


 ついついゆきひろさんに、またあの丸太小屋でのビックティックとの初めての遭遇と格闘したっていうお話を聞きたいなって思ってしまう。

 

 いつもは、気も小さく怯えているイメージの強いわたしだけど、結構普通にしているので、志乃さんは不思議に思ったのかもしれない。それで聞かれた。


「未玖ちゃんは、こんな気持ちわい魔物、ぜんぜん平気なの?」

「へ、平気ではないですけど……でもゆひきろさんから聞いたお話を思い出して……それが、なんというか、楽しくて」

「た、楽しい!? そ、そうなんだ。ちなみにどんな話?」


 わたしは志乃さんに話した。すると志乃さんは、笑った。良かった、小屋を出てから結構怖がっていたみたいだから、ちょっと明るくなって良かった。


「そうだよね。リーダーさんだもんね」

「え? っというと?」

「こんないい場所を見つけて、拠点を作り上げた人なんだもんね」

「はい。拠点自体を広げてより強固にしたのは、成田さんや松倉さん達ですけど……でもゆきひろさんがここを初めた人ですし、皆を受け入れてこの世界に、こんな安らぐ場所を創ってくれたから」

「フフフ、でも今はぜんぜん安らがないけどね。兎に角、拠点内だけでもこの生えまくっている草をなんとかしないと、駄目だよね」

「ええ、そうですね」


 話しを続けながら、草を掻き分け前進していると、鬼灯さんのいる小屋の前に到着した。伸びきった草に埋め尽くされていても、拠点内の方向ならある程度は解る。そう思って歩いてきてみたけれど、なんとか到着できた。


 鬼灯さんが今、使用している小屋はちょっと大きい。なぜなら、ゆきひろさんがそうしようって言ってそうしたから。


 実は、ここの小屋の大部分は鬼灯さんの研究室になっている。この『異世界(アストリア)』で採取できる薬草の研究とか、それを使って薬の研究をしているみたい。


 ゆきひろさんは、あの丸太小屋にあった回復ポーションを、どうにか作ることができないか、鬼灯さんにその研究を相談している。鬼灯さんもそういう事に興味があるみたいだから、このスタートエリアに住む場所と研究所が一体となった場所を建てた。


 わたしも、ゆひきろさんとお話ししてこの世界でお店をやってみたくなって……志乃さんや海さんと一緒に、草原エリアやパブリックエリアでお店も建ててもらった。


 コンコンッ


 鬼灯さんの小屋の前。志乃さんが扉をノックをした。


 ギイッ……


 扉は直ぐに開いた。そして鬼灯さんが顔を出した。


「あら、いらっしゃい。どうぞ」


 鬼灯さんは、いきなりやってきたわたし達を自分の小屋に招き入れてくれた。


 中は、いたるところにランタンが置かれていて明るい。そして、テーブルには様々な薬草と思われる草が山積みになっていて、鍋などにも何かしらの草や実が入っていた。そして部屋の隅にはキノコ。


 ノートも沢山山積みになっている。鬼灯さんが色々と調べて解った事が、このノートには書き記されている。志乃さんは、この部屋の光景に圧倒されながらも鬼灯さんに言った。


「あの、私達これからお店の方に行こうと思ってて」

「そうなの」

「その前に、ちょっと外があんな事になっているし、鬼灯……大丈夫かなって思って覗きに来たんだ」

「そうだったんだ。心配してくれて、ありがとう……」


 鬼灯さんはそう言って、窓から外の様子を眺めた。


「確かにものすごい事になっているわね。でも見てみて。物凄い植物。もしかしたら、色々と新種を採取できるかもしれないわね」


 鬼灯さんの考えている事が、はっと頭に流れ込んできたので、わたしは慌てて言った。

 

「だだだ、駄目ですよ! 一人で出歩いては駄目ですよ!」

「あら、どうして?」

「だ、だって危険じゃないですか」

「でも、リーダーの椎名さんは、拠点内は自由に出歩いていいとは言っていたわ」

「そ、それはそうですけど……」

「心配してくれているのは、解っている。ありがとう、未玖ちゃん。でも私だってクランの一員として、色々と協力したいし、何より好奇心を抑えられないわ」

「でも……」


 鬼灯さんはいそいそと、ザックに園芸用のハサミやスコップなど入れると、腰にナイフを差して準備できたと言った。


「二人は草原エリア、お店に行くのね。じゃあ、折角だから私も途中まで一緒に行くわ。それなら未玖ちゃんと志乃も一緒だし、安心よね」

「あ、安心ですけど……」


 でも色々と植物を採取したい鬼灯さんは、川エリアや森路エリアの方へもきっと行くつもり。まだ未開拓の南エリアにだけは、一人で行かないように言っておかないと。


 鬼灯さんはにこりと微笑んで、いそいそと小屋を出たので、わたしと志乃さんも後に続いた。

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