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Phase.248 『二組の行方』(▼大谷良継/北上美幸)



 大鼠は、僕が知っている鼠ではなかった。何を言っているのかって思うかもしれないけれど、普通の鼠じゃありえないような跳躍をしていて、凄まじい勢いで僕を追って来る。


 そして僕の背中に飛びつくと、その鮫みたいなキザキザな歯で僕の背中の肉を引き裂いた。とうぜん僕は悲鳴をあげて逃げ出した。


 跳びかかってくる鼠を振り払い、まるで激しく踊っているように逃げる。いや、踊らされているっていう方が正しいか。


「うわああああああ!!!!」


 叫びながら全力で走った。そして足を引っかけて転ぶ。派手に転がって斜面を滑り落ちた。腕も足も、痛い。僕も小田君のように骨が折れたかもしれない。


 だけど、ゆっくりと痛がってもいられなかった。なぜなら、あの大鼠が僕目掛けて追ってきているから。カイと蟻群君達から、標的が僕に変わって引き付けられたのはいいけれど、このまま追いつかれてあの数で襲い掛かられたら僕はあっという間に骨と肉片だけになってしまう。そんな地獄のような死に方、絶対に嫌だ。


「わあああああ!!!!」


 また叫んで走って転がって、そして立ち上がってよろめきながらもまた走る。無我夢中で走ったその先に、ずっと横に張られている有刺鉄線が目に入った。


「やった、拠点だ!! どうやら戻れた!!」


 ふと目をやると、その有刺鉄線を越えて拠点の中へ入ろうとしているカイと蟻群君、そして彼に背負われている小田君の姿が見えた。よかった、皆も無事に拠点に戻ることができたんだ。安堵の溜息。


 3人は拠点に入る。蟻群君、は小田君を背負ったまま、脇目もふらずにまっ直ぐに駆けて行った。きっと小田君を治療する為に、大井さんや鬼灯さんのもとへ行ったんだろう。


 でもカイはその場で立ち止まり、キョロキョロと自分達が歩いてきた森の方を眺めている。きっと僕の事を心配しているのだと解った。僕は、思い切り息を吸い込んだ。「おおーーーい!」っと言って、登場する為だった。


 身体は、逃げる時にあちこちやられて出血もしているけど、それでも大丈夫。僕も小田君と一緒に治療を受ければ大丈夫だから。


 声をあげて、カイのもとへ歩き出そうとした。しかしその時、頭に強い衝撃を感じた。


 あれ? 身体がいう事を利かない。何が起きたのか、やや振り向きながらもその場に倒れる。


 血。僕の額から血が流れてくる。そしてその先に見えるもの、それは棍棒を手にした小鬼。ゴブリンだった。


 意識が遠くなる……なんとか、一度でもカイの名を叫ぶことができれば、カイはきっと助けにきてくれるはず。だけど……声が出せない。


 そして意識も遠くなって……僕は……


 ギャハハハハッ


 近くでゴブリンの恐ろしい笑い声が聞こえた。そしてもう一度、頭に強い衝撃を受ける。僕の目の前は、真っ暗になった。そして、死という一字が脳裏にちらついた。








 ユキ君達と別れて、私とアッキーは途中で逸れた秋山君と陣内君を探していた。


 でも探すと言っても草が生い茂っているし、その草が異常に成長して伸びているし周囲を見渡す事もままならない。


 っもう、面倒くさい!! 秋山君がもっとちゃんとして、しっかりとしてくれていればよかったんだけど。隣にいるアッキーが言った。


「み、美幸様!!」

「えーー。それなんかヤダよ」

「は? ヤダというのは?」

「その様付けがヤダー」

「それでは、姫とお呼びさせて頂きま……」

「駄目! 美幸さんでお願いします」

「御意ィィ! では、美幸さんとお呼びするであります!」


 アッキーはそう言って、敬礼をした。いい子だとは思うんだけど、この感じ……なれるのにはもう少しかかるかなー。海だったら、もっと上手くアッキーと、打ち解けられるんだろうけど。


「それでさ」

「御意ィィ!!」

「それもなんか、嫌!」

「は?」

「は? じゃなーい。もう少し、普通がいいかな」

「ふ、普通でありますか?」

「そう、普通。私もゲームやアニメ大好きなオタクだけど、ちょーーっとアッキーのその感じは、アレかな。もうちょっとアレな方がいいかな」

「ア、アレですか?」

「そうそう、アレ」

「……アレ……と申しますと?」


 大きく溜息をつく。


「もう、いい」

「えええええ!! 美幸さん、そ、そんな!! 何かあれば言ってください!! 我……じゃなくて、ぼぼぼぼ、僕は美幸さんのリクエスト通りに行動するでありますよ!!」

「エヘヘ、ありがとう。それじゃ、そろそろ秋山君と陣内君見つけだして無事に合流して、ユキ君とも合流しよう!」

「ユキ君? ひ、ひとつよろしいでありましょうか?」

「え? ひとつって?」

「そのーーー、我らがリーダー椎名氏と、美幸さんはそういう関係なんでありましょーか?」

「え? そういう関係って?」

「そのーー、あのーー、男女の関係と申しますかーー。ラブラブなのでありましょーか?」


 アッキーの聞きたい事が何か理解するなり、私は彼の背中をバシーーンっと強く叩いた。


「いたーーい!!」

「もうヤダー、アッキーは。ユキ君とは付き合ってないよ」

「なるほど、そうでありましたか。それでは、この我にもワンチャンらしきものが見え隠れ、見え隠れするのでありますな!! ワハハ、ワンチャンって言っても犬の事ではなくて……デヘヘへ」

「え?」

「え? いや、だからその見え隠れ見え隠れ……え?」


 うーーん、噛み合わない。


 皆でいる時は、楽しいんだけどな。アッキーと二人だけってなるとなあー。でもそれもそうか。私は二十歳だし、アッキーは高校一年生だもんね。噛み合わなくても、なんら不思議じゃないか。


 でもまあ、どう思ってユキ君が私とアッキーのコンビにしたのか解らないけれど、秋山君と陣内君を見つけて、ユキ君の後を追えばいいだけの簡単なお仕事だからね。


 メインは、その後だもん。コボルト討伐。50万クラスの懸賞金のかかったコボルトリーダー。きっと手強いはず。気合を入れていかなくちゃね。

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