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Phase.244 『草場の中』



「うわああああああ!!!!」


 森の中、辺り一帯に響く小田の悲鳴。彼は、何かに足を掴まれて草場の奥へ奥へと連れ去られてしまった。


 あまりの突然の出来事にどうしていいのか解らずに、呆然とする蟻群と陣内。大谷君達は、もう石化したように固まってしまっている。


 その中、俺の真横を疾風が駆け抜ける。小田が連れ去られた方の草場へ、鈴森が飛び込んでいったのだ。


「翔太、小貫さん!」

「りょーかい、解ってるって。孫いっちゃんを援護する!」


 翔太がそう言うと、二人は鈴森の後を追って茂みに入って行った。


 こうして小田の後を鈴森が追い、その鈴森の後を翔太と小貫さんが追った。それでその後を、残りの俺達が追う。なんとなくだけど、こういう場面で全員で一斉に動くのは、危険だと思った。だから、これで正しいはず。


「お前らは後ろからついてこい!」

『ウッス!』


 俺の両側にはトモマサと北上さん、そして後ろに蟻群と陣内。更に後方から大谷君達。俺が剣、トモマサが斧、北上さんがコンパウンドボウを手に戦闘態勢に入ると、蟻群達もそれぞれ武器を握りしめて警戒をした。


 草を掻き分けて前に進む。けど、奥へ進むにつれて余計に感じるけど、どんどん草の背が高くなっている。


 この辺りは、確かここまで草が生えていなかったはず。それに伸びていても腰位なもので、ほとんどが膝位の高さの草ばかりだったはずだ。


 つまりこの短期間で、ここらの植物は異常な程に急成長してしまっている。


「ユキ君」

「うん、くれぐれも俺から離れないでくれ。5人で固まっていた方がいい」


 目の前に次から次へと現れる草を、トモマサが斧で掻き分けながらも豪快に笑う。


「ウワッハッハッハ。そう言って、孫一たちを先に行かせちまってたりしてなー!!」

「鈴森は、勝手に突っ走っただろ。それを翔太と小貫さんに追ってもらってこうなった。でもこれでいい形だと思う。小田を早く助けないと、どうなっているか解らないからな」


 北上さんとトモマサは、頷いた。


「そうね。何かが、小田君の足に巻き付いたように見えたけど……蔓とかじゃなくて、結構太かった気がする」

「ウハハ、少なくともアレだな。俺達が狙っているコボルトじゃなさそうだな」

「それは確かだな」


 少し前なら俺も後ろの二人のように、呆然としてどうしていいか解らずに恐怖に呑まれていただろう。そう思うと、多少なりともこの異世界に馴染んできているのだろうと改めて思った。


 そう言えば、鈴森に銃をむやみに使うなというのを忘れた。先に言っておくべき事だったと、後悔する。


 なぜなら、この前と後ろだけでなく右も左も草草草の中で、発砲するのは危険極まりないからだ。


 小田を助けるつもりが、逆に小田に弾丸を命中させてしまう事にもなりかねない。でも鈴森なら、そういった事はちゃんと踏まえて行動してくれているかもしれない。


「ぎゃああああ!!」


 翔太の悲鳴だ。俺は急ぎ、悲鳴のあった方へと駆けた。


 草を掻き分けて前に進む。すると、草の少ない場所に出た。そこで翔太が倒れている。


「翔太!!」

「秋山君!!」


 北上さんも駆け寄る。まさか、翔太が……


 そう思ったのもつかの間、倒れていた翔太はゆっくりとこちらを振り向いた。


「痛い……転んだ……起こして」


 溜息。まったく脅かしやがって、この男は――だけど、無事で良かった。


「小貫さんは?」

「小田と孫いっちゃんを追って、先に行ったみたいよ。それより、起こしてくれー。膝すりむいたし、ちょっとジンジンして痛いよー」

「陣内、翔太を頼む。蟻群は、ついてきてくれ」

「ウ、ウッス!」


 転がっている翔太の事を陣内に任せて、俺達は再び鈴森……もとい連れ去られた小田の後を追った。


「北上さんは、蟻群と交代して、後方についてくれ」

「私、大丈夫だよ」

「いや、単純に北上さんは弓使いだから、その方がいいかなって」

「あっ……そういう事なら従うけど……」

「うん、ありがとう」


 北上さんと位置を入れ替わった蟻群が、前にくる。そして俺とトモマサと並んで、草の中を掻き分けて前へ進んだ。


「助けてくれえええ!!」


 何処からか悲鳴。翔太じゃない。この声に蟻群が反応する。


「小田だ! これは小田の声だ!」

「そうか、あっちから声がしたな。急ごう!」

「助けてくれええええ!!」


 再び小田の声。


 駆けて行くと、また少し拓けた場所に出た。


 そこに小田はいた。なんと、大きな緑色の蛇に、身体をグルグルと巻き付けられて苦しんでいた。きっと、かなりの力で締め付けられている。見るからに、呼吸をするのもつらそうだ。


「鈴森!!」


 目の前には、鈴森がいてその緑色の蛇と睨み合っていた。銃は構えずに、手にはコンバットナイフと鉈をそれぞれ握っている。


「椎名か! 見てみろ。でかい、緑色の蛇だ!! こいつ、なんなのか調べてみてくれ!」


 なるほど。得たいが知れない相手に、戦いを挑む前に【鑑定】をしておくのは名案だ。俺は鈴森に言われた通りに、スマホを取り出すと、それを目の前の大きな蛇に向けてみた。


「鈴森、こいつの名前はグリーンスネーク!」

「なんだそりゃ、まんまじゃねーか」

「そう、まんまだ!! 凶暴で人を襲う大蛇とあるだけだ。毒牙を持っていたり、何か口から高熱のガスをとか、そういうのはないみたいだ!」

「そうか、なら飛び込んでも大丈夫そうだなっと!!」


 鈴森はそう言って、グリーンスネークに襲い掛かった。


 いくらなんでも、真正面からそのまま跳びかかるっていうのはどうなんだって思った刹那、グリーンスネークは長い尻尾を飛ばして向かって来る鈴森に打ち付けた。


「ぐわっ!!」

「鈴森!!」


 鈴森はそれをまともに喰らって、後ろへ大きく吹っ飛ぶと草の茂みに埋もれた。


 今度は目の前の緑色の蛇を相手に、俺が剣を抜く。すると隣でトモマサと蟻群、更にそのすぐ後ろで北上さんがコンパウンドボウを構え、彼女の周りを大谷君達が囲んだ。

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