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Phase.243 『巻き付き その1』



 森の中は、鬱蒼としている。そして辺りには、何かの気配も感じた。


 森の中だから当たり前なのだが、もともと草木が生い茂った場所で、虫や獣はそこらじゅうにいる。だけど、今日はなぜか特にそう思える。


 拠点内でもそう思ったけれど、あちらこちらの草木が気づけば増えていて、しかも急成長していた。


 もとの世界なら大事件なのだが、ここは異世界。何があっても不思議じゃない。


 先頭を翔太とトモマサのお笑いコンビが歩き、その後に皆が続いていた。俺の隣には、北上さんが歩いていたが、反対側に小貫さんがやってきた。


「椎名さん。さっきチラっとだけど、俺達とは別の誰かが、森へ入って行くのを見かけたよ」

「ああ、きっとうちの拠点、パブリックエリアに宿泊した者だと思う。だけど昨日、その中の尾形さんって人と話して、コボルトに関しては、俺達が討伐するから手は出さないで欲しいって話をしているから、皆横取りとかそういう事はしないと思う。だから、俺達は自分達がやられないように、それだけに集中すればいい」

「そうなのか。因みに尾形さんっていうのは何者なんだ?」

「うん、尾形さんっていうのは……」


 隣で北上さんも聞いていた。


 俺は、二人に話しているつもりで昨晩の事、尾形さんと話した事を語った。


 その中でも一番重要と思った事、今なぜか懸賞金を懸けられている位の危険な魔物が、俺達の拠点の近くに集まってきているという事。そしてその中でも、キリムという5000万クラスの、ヤバい魔物が存在するという事。


 しかし小貫さんにとっては、そんなキリムという大物の魔物や、その他の色々な懸賞金の懸けられた魔物なんかの事よりも、佐竹さん、須田さん、戸村さんの命を奪ったあのブルボアが、この近くにいるっていう事の方がとても気になっているようだった。


 小貫さんは、あのブルボアの恐ろしさをその身をもって体験しているし、何より恐怖もしている。だから一人で馬鹿な事はしないとは思ってはいたけど、それでも釘をささずにはいれなかった。


「小貫さん、これだけは言っておくけど、決して一人で、あのブルボアに挑もうなんて思わないでくれ」


 小貫さんは、笑った。


「そんな真似はしないよ。誰より、あのブルボアの恐ろしさを俺は知っているから」

「なら良かった」

「でも、俺はいつか必ず佐竹達の仇をとりたい。今は、椎名さん達が俺の仲間だけど、佐竹達は仲間だった。その仲間の命を奪ったブルボアを、俺は放ってはおけないんだ」

「解ってる。でも小貫さんが今いったように、俺はもう小貫さんの今の仲間なんだ。北上さんもそうだし、前を歩いている二人や後ろの皆も一緒。もしも小貫さんに何かあったら、未玖もきっと悲しむ」

「椎名さん……」

「佐竹さん達は、俺や未玖にもとても親切にしてくれた。翔太とも仲良くなっていたし。だから俺達だって、佐竹さん達の仇を討ちたいんだ。でも無手で挑めば、あの化物は危険極まりない。仇を討つと挑んでも、無策で殺されれば意味がないだろう? いつか必ず、佐竹さん達の無念は晴らすから、確実に勝てるように、しっかりと冷静に一緒に計画を練ろう」

「解った、椎名さん」


 固い約束。それを見ていた北上さんが、ちゃちゃを入れてくる。


「友情だねー、うんうん」

「北上さん、ちゃかさないで」

「ウフフフ、じゃあ私も二人の仲間に入れてくださーい!」


 北上さんはそう言って、ふざけて俺の肩にぶつかってきた。その拍子に北上さんの長い髪が、俺の方へなびく。同時にとてもいい甘い香りに包まれる。


 い、いかん!! 正気を保て、俺!! これからコボルト討伐なのに、何をそんな……ってなんで女の子って、こんないい匂いがするんだろうか。


 はっ!!


 我に返ると、俺は自分の頭を摩ってこの場を誤魔化しやり過ごした。


 そこで、先頭を歩く翔太とトモマサの足が止まった。


「どうした? 翔太」

「ユキー、これみてみ」


 翔太の指した方は、進行方向だった。変わらず森の中ではあるが、まるでジャングルのように、密に草木が生い茂っていて前方が良く見えない。


 進もうと思えば進めそうだけど、これだけ草が生い茂っていると……この先に何か潜んでいるか、解らない。


 うーーん、参ったぞ。どうするべきか。


「ユキー、どうする。引き返すか?」


 翔太のそのセリフに、トモマサが冗談じゃないと叫ぶ。


「おいおいおい!! 待てよ、俺達は魔物退治に来たんだぜ!! 俺はこの位じゃ引かねえぞ! なんなら、俺一人で前に進んでやる! それでもってコボルトのリーダー格を見つけ出して退治してやる!!」

「いや、俺もそうしたいのはやまやまだけどよー。こう前が見えないんじゃよー」

「トモマサの言う通りだ。この位で退いていたんじゃ、そもそも異世界でなんて生きてはいけないからな。他に行けば、もっとヤバい場所はいるだろうし」

「まあ、それはそうだけどよー。なんか、今日起きたら拠点内もそうだけど、いきなり草がボーボーになってたからよ。かなり気持ち悪いなーって思ってなー」


 そう思っているのは、俺や翔太だけではないはず。とりあえず、拠点内で異常に急成長してしまった草に関しては、成田さんや最上さん達に草刈りを頼んでいるし……でもなぜ草木が急成長したのか原因は知りたい。


 小田が前に出る。その後ろに蟻群、陣内が続くが、3人とも手には鎌や鉈を持っている。


「リーダー。とりあえず、前に進むんなら自分達が、道!! 作りますんで!」

「え? 君らが?」

「押忍! うちのじっちゃん、田舎に住んでて農家やってんスけど、自分が小さい時に遊びに行くと、渓流釣りするってこういう険しい山道に自分連れて入って行ってたんスよ。それでそこ草ボーボーで、鎌とか鉈をこう振り払って前へ進んでたんス」

「そ、そうか、なるほど。それじゃ、小田と陣内と蟻群に任せようかな」

「オッス! リーダーの期待に応えますよ! それじゃ、やんぞ陣内、蟻群!」

『おう!』


 北上さんが3人に声をかける。


「これだけ草が生えてて視界が悪いと、何処で何が潜んでいるのかも解らない。だから、ちゃんと気を付けてゆっくり慎重に進んでくれる?」


 北上さんと目を合わせたヤンキー3人は、頬を少し赤くして「ウ、ウッス」とか言って頷いた。本当にこういう奴らは、美人に弱いな。まあ、俺も人の事は言えないけど。


 小田が仕切る。声を張り上げながら、手に持っていた鎌を振り上げた。


「それじゃ、前進だ! いくぜ! ったあああ!」


 疲れたら、次は大谷君に交代して、そして大谷君が疲れたら、次は俺がという風にローテーション組んでいこう。そう皆に言おうとしたその時――


 勇ましく先頭で鎌を振るう小田が、唐突にその場に倒れた。


 何があったのか皆驚く。小田を立ち上がらせようと、近づこうとした時、小田は大きな悲鳴をあげながら何かに引っ張られて生い茂る草の中に消えていった。


「うわああああああ!!!! リ、リーダー!! 陣内、蟻群!! た、助けてくれええええ!!!!」

「お、小田あああああ!!」


 何かが小田の足に巻き付いて、彼を草場の奥へと連れ去ったのだ。

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