Phase.241 『尾形 その3』
尾形さんは、自分のスマホ画面を俺に見せた。そこには、驚くべき情報が表示されていた。
「こ、これは……」
「バウンティサービス。結構な懸賞金が賭けられた魔物が、今この椎名さん達の拠点近くに生息している。これ見てみろ、すげー金額だぞ」
尾形さんがスマホ画面を指さす。そこには何匹もの魔物の名前が羅列しており、そこにはさっき彼が名前をあげたキリムと、ブルボアも表記されていた。尾形さんは、それらを指でさしている。
「嘘だろ……」
「本当さ。こいつをやりゃあ、これだけの金額がもらえる」
なんとブルボアは、1000万円の値がつけられていた。キリムという魔物は……嘘だろ? なんと、5000万。そんな奴がこの拠点の近くにうろついているっていうのか……
ブルボアも、この金額……おそらく佐竹さんをやった奴じゃないのか。小貫さんの話では、軽自動車位の大きさがあるって言っていたから、1000万っていうのも頷ける。だけど俺が戦って仕留めたブルボアとは、ぜんぜん比較にならない程、凶暴で危険な相手だろう。
長野さんの顔を見ると、ゆっくりと頷いた。長野さんもこいつが、佐竹さん達をやったブルボアだと思っている。
尾形さんは手に持っているビールをグイッと飲むと、煙草の煙を肺に入れて吐き出した。そして思い出したかのように言った。
「3つ確認しときてーんだけどさ、いいかな」
「ああ、なんだ?」
「まず椎名さん達の標的ってな、コボルトだよな。この50万のコボルトリーダー、それとこの5万のやつな」
「ああ、そうだ。それが?」
「今日ここに集まっている奴らのほとんどが、【バウンティハンター】だ。俺達『魔人の拳』もそうだしな。それで、ここにいい休憩場所を見つけたから、こうしてお邪魔している訳なんだがな。世話になっている俺達としちゃ、椎名さん達の獲物を横取りしたくはねーのさ」
なるほど、そういう事か。でも、それはその通りだ。
「だから確認しておきたかった。その代わりキリムやこのブルボアは俺達がやる」
「それは今回だけか? 先々、俺達も同じ獲物を狙いたいってバッティングした場合、どうなる?」
尾形さんは豪快に笑った。
「ああ、今回だけだよ。今回だけ、俺達はキリムやブルボアを狙うが、その代わりコボルトには手を出さない、もしくは助力してもいい。そうなれば、もちろん報酬は全額椎名さんのものだという事だ。いいだろ、それで?」
それなら、それでいいと思った。だが、ブルボアについては……
「かまわない。だけど、ブルボアに関しては、もし仕留めたらそれを俺達に見せてくれないか?」
「別にかまわねえけど、なんで?」
「友人がそいつに殺されたんだ。そして唯一生き残った者が一人、今は俺達の仲間になってここにいる。ブルボアに襲われてから、そのブルボアに恐怖しながらも、同時に恨んでいる。だからそのブルボアを倒したとなったら、彼に見せてやりたい」
「そういう事か。解った。ここにいる俺達以外の冒険者たちにも、今の話は伝えておこう」
「助かる。それで、残りの2つの確認しておきたいことってのは?」
「ああ、そうだった。2つ目は、俺達はこの先、この近くにあんた達みたいに拠点を持ちたいと思っている。ここから北側に、大きな河があって、転移する為の女神像を見たって奴もいた。だから行ってみようと思っているんだが、そこで俺達は俺達の拠点を造ってもいいかって話だ。ここにいる他の奴らも、そういう事を考えている奴らはいるみたいだけどな。いい機会だから、一応断っておこうかなと思ってな」
俺は長野さんを見た。俺は特に問題はないと思っているけれど、長野さんも頷いている。同様のようだ。
「俺達はこの拠点の内側に関しては言うが、外については特に人の自由だと思う。だけどあまり近い場所だと……なんかな」
「ああ、解っている。その点も問題ないし、もしも俺達の拠点ができたら、椎名さんには連絡をするよ。それと3つ目なんだけどな。もう一度確認しておきてーんだが……あの悪ガキ3人なんだけどな」
悪ガキ3人とは、市原、山尻、池田の事だ。尾形さんの仲間になったと言っていた。
「正式にあの3人は、俺達の仲間になった。一応、あんたの所にいた者だし、友達もいるようだからな。もう一度だけ、断っておきたかった。連れていってもいいよな」
「ああ、本人達が了解しているなら、俺は何も言わない。それにあいつらは、助けてやった事もあってこの拠点に置いていたけど、はっきり言って仲間じゃない。だから連れていくならそれは、いい」
「そうか、なら大丈夫だな。ほんじゃ、この話はここまでだ。よし、じゃあ後はもっと酒を飲もうか」
尾形さんはそう言って、俺の背中をバシバシっと叩いた。
俺は自分のスマホを取り出して、自分のバウンティサービスの情報を確認してみた。すると本当に、尾形さんのスマホ画面に表示されていた通り、俺達が討ち漏らしたコボルト以外の賞金のかかった魔物の名が羅列している。
っていう事は、本当に今この辺りには、賞金のかかった魔物が徘徊しているって事だ。キリムは5000万だという。どんな魔物かは解らないが、そいつをやれば5000万円がコロンと口座に振り込まれるという事だ。
なるほど、人が集まる訳だ。
だが、5000万って金額は同時にその魔物の危険度も表しているに違いない。それをしっかりと、理解していないと大変な事になると思った。




