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Phase.240 『尾形 その2』



 蟻群1人にするのは、何か不安になったので、パブリックエリアに丁度いた北上さんのもとへ行って何か手伝って来いと理由をつけて行かせた。


 これで心配はないだろう。蟻群の奴、北上さんって聞くと、ちょっと硬直していたもんな。ヤンキーに限らずかもしれないけれど、だいたい不良っていうのは北上さんのような美人に弱いもんだ。


 それで俺は、先程知り合った尾形俊次郎っていう冒険者と酒を酌み交わしていた。


 パブリックエリアの隅の方、もう有刺鉄線の近く。外の世界との境界線。そこで転がっている丸太に腰をかけて、二人向き合っていた。


 尾形さんは酒の他に手に持っていた袋を覗くと、中からイカのつまみを取り出して、それを開けて俺の方へ差し出してきた。俺は頭を下げてると、それをつまんで口に咥えた。


 尾形さんは、ニヤリと笑い、今度は胸ポケットから煙草を取り出してそれをこちらに差し出してきた。


 残念だけど、煙草を吸わない俺は断った。彼は「そうか」というと、煙草を一本咥えてそれに火を点けた。


「別にここ、禁煙エリアじゃないんだろ?」

「ああ、そうだ。吸い殻と、火の後始末をきちんとしてくれれば、特に問題はないよ。それで?」

「それでと言うのは、あの不良共の事か? あいつらはもう俺の仲間だ。もういいだろ? それよりも、聞きたいことがあるんだけどいいか?」

「それはいいが、尾形さん……あんたの事をもう少し、知りたいんだけど、いいかな」


 尾形は「あー、なるほど」といって何度か頷いた。そして煙を吐き出す。


「解っているって。俺は先に名乗った通り、冒険者だ。他に仲間もいる。って言っても新人ヤンキー君達じゃねーぜ。椎名さん、あんたと市原達で揉めてた時に、周囲にいた者の中にいたんだぞって話だ」


 やはりなんとなく、つかみどころがない男だ。いったい何を言いたいのか……尾形は煙草を口に咥えたまま、こちらに向き直ると、右手を差し出してきた。俺は握手に応じた。


「クラン『魔人の拳(まじんのこぶし)』のリーダーの尾形だ。ここへは、バウンティハンターとしてやってきている」

「バウンティハンター。もしかして、尾形さんもコボルトを狙っているのか?」

「いや、それはついでのつもり……なんだが、もしかして椎名さん達の獲物だったか? それならコボルトには手を出さない。それよりもだな」


 尾形さんはそう言って自分のスマホを取り出すと、それを俺に見せた。


 バウンティサービスの画面。そこには、懸賞金をかけられた魔物の情報が書き込まれている。ただし、現在地に近い位置に生息している魔物しか、表記されないらしい。


 ……だけど。尾形さんのスマホ画面を見て、愕然とする。


「こ、これは……」

「驚いたか、全部懸賞金のついた魔物の名前だ」

「ちょっと待って。ここに表記されているって事は……もしかして」

「そうだ。お察しの通り、この拠点の近くに生息しているってこったな。特にこのキリムって奴、この魔物はとんでもねえぞ。更にこっちには、懸賞金のついたブルボアが乗っている。こいつは絶対、でかくて凶暴な奴だ」


 なるほど、理解した。パブリックエリアの計画、それを進めてからまだ一週間程。なのに、あれからこの拠点には、冒険者が沢山やってきている。今までそんな事なかっただけに、かなり奇妙に思っていた。だけどその答えが解った。


 この周辺には沢山の懸賞金のついた魔物がうろついているから……だから、いきなりこんなに、この拠点に冒険者が集まり始めたんだ。


「そうだ。今、椎名さんが考えている通りなんだ。だけど、それだけじゃないんだぜ。少なくとも俺達『魔人の拳』はそうじゃない。言っている意味、解るか?」

「いや、もっと解りやすく言ってくれ」

「椎名さん、あんたこの『異世界(アストリア)』をどの位、知っている?」


 俺は少し俯いた。ぜんぜん知らないからだ。ほとんど知らない。


 佐竹さん達を埋葬しにいった時と、未玖の以前住んでいた場所を調べてみたくて一度だけ行った時の事。遠出をしたと言えば、それ位だ。


 俺だって冒険がしたくない訳じゃない。俺はかなり小心者で、用心深い性格をしていると、自分の事を知っているし……何よりこの世界は危険なんだ。拠点作りは、そんな世界で最も重要な俺達の安息の場所、セーフティーゾーンだ。冒険するにしても、まずは安全確保をしておきたい。


「その顔は何もしらない顔だな」

「否定はしないよ」

「ははは、正直だなあんた。だが気に入った。だからもったえぶらずに、教えてやろう。もう知っていると思うが、この『異世界(アストリア)』は魔物で溢れている。非常に危険な世界だ」

「それは知っている」

「いや、この辺りしかうろついていないのであれば、知らんだろう。実際は、『異世界(アストリア)』は広い世界だ。俺達の知るもとの世界のようにな。そしてはっきり言ってしまうと、このあんた達のいる拠点の辺り、この場所はかなり穏やかな場所なんだ。穏やかって解るか? 恐ろしい魔物や、危険が少ないって意味だぜ」

「他の場所はもっと危険なのか?」

「そりゃあ……」

「とても危険じゃな。魔物意外にも、とても危険な場所があって、そうだと解る場所は儂も避けて冒険をした」


 長野さんだった。気が付くと、長野さんが近くにいて、尾形さんと同じく煙草を吹かして立っていた。


 俺は隣にある丸太を叩く。すると、長野さんはそこへ腰かけて、俺達の会話に混ざった。


 そうだ。俺達のクランじゃ、長野さんが一番ベテランだ。尾形さんと話をするなら、長野さんにも聞いてもらった方がいい。そう思った。

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