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Phase.239 『尾形 その1』



 市原達は、明らかに反抗的な態度を表に出していた。手にはバット。それに鎖に金槌。今度は、装備も準備万端って所か。


「ちょっといいか?」


 山尻と池田は無視して、市原に対して言った。


「なんだよ、なんか文句あんのかー」

「ああ、あるね。ここは、俺達の拠点だ。お前には、もうここへ来るなって言ったよな。それがもとの世界へ戻してやる条件だったはずだ」


 市原達は、俺と一緒にいる蟻群を見る。


「そいつはいいのかよ」

「いいんだよ。こいつ、いや、こいつらは心を入れ替えたんだ。そして俺達の仲間になった。今はもう同じクランメンバーだ」


 今度は、池田が呟く。


「裏切り者め」

「なんだとオラアア!! もっかい言ってみろ!!」


 この騒ぎに、周囲でくつろいでいた客達が一斉に驚いた顔をした。これは、ちょっとまずいな。俺は今にも、池田に跳びかかっていきそうな蟻群の肩を掴んで言った。


「よせ、やめろ。他の人達に迷惑だろ」

「くっ……俺は別に、てめえらの子分じゃねえ。同じヤンキーだけどよ、面白い場所に連れてってくれるって話で、ついてきただけだ。他のもんは、それで死んじまったし……責任とれよ、てめえ」

「やめろって! 俺の言う事を聞くんじゃなかったのか」

「くっ……」


 そこまで言うと、蟻群は怒りを抑えた。池田と睨み合っているが、それを遮るように間に立つと、市原との話を続けた。


 ちょっとした騒ぎになったので、向こうでこちらの様子を心配そうに伺っている北上さんと松倉君の姿が見えたけど、大丈夫だと手を振って見せた。


「兎に角、ここで勝手な事は許さないからな。お前らも、俺達の仲間になりたいなんて言うのなら、もっとこの世界の事を理解して、俺達と友好的な関係を結べるように努力をしろ」

「うるせえな。出て行けってーのなら、出ていくよ! そんならいいだろーがよ」

「いい事あるかーっ!」


 そんなつもりはなかったけれど、俺もあまり普段はこんな声を荒げて説教するタイプではないので、思わず金八先生みたいな発音で言ってしまった。


 自分で言っておいて、とてもお恥ずかしい。周囲にいて成り行きを見守っている人達の中にも何人か、今のを気づいて笑いをこらえているものがいる。ひーー、ここから逃げ出したい。


 もしこの場に翔太がいたら、絶対今のに反応して、「いいかー。お前らは腐ったみかんじゃーー」って続けるに決まっている。


 とりあえず、気を取りなおして……って思った拍子に、市原の反撃がきた。


「あああ!! じゃあ、出ていってやるよ! 今すぐな!! ただこれだけは、肝に銘じておけよ! お前らは敵だ。俺達の敵だからな!!」

「なんだと? お前、そんなこと言って出て行くって……もとの世界へ戻るんだろ? なら女神像だってこの拠点のを使うしか……」

「ちげーよ、おっさん!! この世界から出るんじゃなくて、この拠点から出て行ってやるっつってんだよ!! この世界にルールはねえだろ? 出てって俺達は俺達で、自分達の王国を作ってやる。そしていずれ、ここをぶっ潰してやるからな」

「なんだと? 今のは聞き捨てならないぞ」


 蟻群を止めておいてなんだけど、ちょっと俺もヒートアップしてきた。この野郎。なんて、ムカつく顔をしてやがるんだ。


 たが、ムカついたからだと言って、このままこいつらをこんな夜中に、拠点の外に放り出してしまっていいのだろうか。この辺りにも、ウルフやスライム。そしてゴブリンやコボルトだっている。ブルボアだって生息しているんだ……


 かといって今にも問題を起こしそうな市原達をどうすればいいか……考えていると、成り行きを見守っていた人達の中から、がたいの大きな男が割って入ってきた。客の一人だった。


「まあまあまあ、どちらもちょっと落ち着けーーってんだよ。なあ」

「あなたは誰ですか?」

「すんません、尾形さん」


 お、尾形さん⁉ こいつの知り合いなのか?


 だが、その間に入ってきた尾形という男、どうみても俺と同じくらいの年齢かそれ以上に見えるし、服装だってこの異世界に馴染んでいる。腰には、剣――この異世界の剣だ。


「おお、すまねえ、あんたこの拠点のリーダーの椎名って人だろ?」

「ああ、そうだが」

「俺は冒険者の尾形俊次郎(おがたしゅんじろう)ってもんだ。って冒険者って言っても、異世界人じゃねーからな。まあ、異世界人にあった事もまだねーけど。兎に角、俺達冒険をしている転移者の事を、冒険者って呼ばれている事は知っているだろ? それだ」


 まんまじゃねーか。でもそれを声に出さなかった。ちょっとつかみどころがないような男に見えたし、何より今初めて会ったばかりの男だからだ。


「この市原達とは、さっき知り合ってな。ちょいと話した。それで、俺達の仲間になったんだ」

「え? それってどういう……」

「別にいいだろ? さっきの会話からも察するにこいつらは、あんたの仲間じゃねーみてーだし」


 市原達の方を見ると、相変わらず俺と蟻群を睨んでいる。まったく、こいつら……


「ただほら、今こんな夜中に拠点の外に追い出されても困る。それでどうだろう? せめて明日の朝まで、ここにおいてもらっちゃ駄目かな? これ以上問題を起こさせないようにもする。どうだ?」

「ああ、解った。そうしてもらえるなら、こちらとしては、特に問題はないよ」

「良かった、ありがとう。椎名さんは、話の分かるリーダーだな」


 尾形さんはそう言って、市原達に目をやった。


「おい、お前等。俺の仲間になったんなら、ちゃんと言う事は聞け。その代わり、この世界での生きていく術を教えてやる。いいか、これ以上問題は起こすな。文字通り、大人しくしろ。いいか、できるか?」

「解った。解ったよ」


 市原がそう言うと、山尻と池田もそれに従うという素振りをみせた。ふーむ、なんだろうな、この尾形って男は……


 そんな事を思っていると、尾形は右手にビールの缶を持ちながらも、更に話しかけてきた。

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