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Phase.238 『蟻群と三人組』



 未玖の店に行くと、とんでもない事になっていた。


 ひ、人……転移者……っていうか、客で溢れている。


 客が店に入りきっていないので、外にテーブルや椅子代わりに、木箱などをいくつも設置して、そこにも何人もの人が座って食事や会話など楽しんでいる様子だった。


 未玖に話しかけるかどうか……未玖の他に、大井さん、三条さん、出羽さん、あとうららも手伝っているのか。かなり忙しそうだ。


 邪魔をしても悪いなと思い、未玖に話しかけるのはもう少し店が落ち着いてからにしてからにしようと思った。しかし、これはかなりの売り上げが期待できそうだ。ひょっとして、これだけでもう俺達、やっていけるのではないだろうか。


 いやいや。顔を左右に振る。


 大谷君達が言っていた。彼らはトロルにも遭遇したと。トロルとは、人の2、3倍の大きさがあって、残忍な性格と恐ろしい怪力を持っている人型の魔物だ。しかも俺の知るゲームやアニメの知識と同じ能力を持っているなら、とんでもない再生能力ももっている。


 そんなのがここへ攻めてきたらと思うと……


 大谷君が遭遇したトロル。大谷君達はそこから、ここの拠点近くまで歩いてきたのだ。トロルだってここまで歩いてこないとは、考えられない。


 もしここに狂暴なトロルが現れて、ゴブリンみたいに強襲してきたら、有刺鉄線やバリケードなんて簡単に破壊されて突破されるのではないか。


 そう考えると、やっぱり拠点の更なる防衛力の強化は、今後の課題だなと思った。店の経営だけに頭がいっぱいになってたら、もしもの時に大変な事になる。ここは、魔物の生息する異世界なんだ。


「椎名さん」

「え?」


 唐突に名前を呼ばれて振り返る。ヤンキーが立っている。


「えっと……確か君は……」

「蟻群ッス。蟻群脩斗(ありむれしゅうと)。あの時は助けてもらって、ありゃーっした!」


 あの時は助けて……ああ、そうか。彼がもと市原軍団ってのはしっかり覚えていたが、やっと思い出した。


 一緒にコボルト討伐についてきて、負傷した奴。てっきりやられていると思っていたら、生きていた。その後は、拠点まで連れて帰って治療をした。あいつか。


「どう? 傷はもう大丈夫なのか?」

「はい! 椎名さん達に助けて頂いたお陰っスよ。それはそうと、またコボルトの討伐に行くんスか?」

「え? ああ、そのつもりだよ。とりあえず、明日から二連休だから、早速明日でも再度コボルトの討伐を再開したいと思っている」

「そうなんスか」

「どうした?」

「あの、俺も連れていってもらっていいッスか!」

「え?」

「このままあの犬人間にやられたまま、そのままにしていられるほど、俺は人間できていないんスよ!」

「つまり、仕返しをしたいと?」

「駄目ッスか?」


 何処かのえらい仙人みたいな人のように、「そのような動機を持っている者は、連れてはいけん」なんていう気もなかった。


 どちらかと言えば、こちらとしては戦力が増えていいと思う。動機なんていうのは、ひとそれぞれ。


 ただ、これだけはしつこいと思われても言わなくてはならなかった。


「それはいいけど……忘れた訳じゃないよな」

「え? 何がッスか?」

「お前らの仲間が沢山殺されたんだ。その犬人間にな。今度は、お前が殺されるかもしれない。それも覚悟しているのか?」

「うす! 覚悟はしてるッスよ!! 殺される怖さより、今は仲間を殺した奴らをぶっ殺してー、その思いが強いッス」

「解った。じゃあ、ちゃんとリーダーの俺の言う事を聞く事。できないなら、ここから出て行ってくれればいい。そうすれば、自由に行動できるし俺達は、ノータッチだ」

「うす! でも、俺達はもう椎名さんのチームっすから」

「うーーん、チームっていうかクランっていうんだけどね」

「うっす! クランッス!」


 期待してもいいのだろうか。


 でもあれから蟻群達は、モンタのように揉め事も起こさずに、皆ともうまくやっている。そして協力的で、薪拾いとか柵の補強、畑仕事なども、嫌な顔一つせずに手伝ってくれてはいる。


「解った。じゃあもうお前達の事は、市原軍団とは思わないからな。これからは、俺達の身内だ」

「うっす」


 蟻群は、嬉しそうにしてはにかんだ。それからいきなり顔を近づけて来たので、何事かとビビッてしまった。だが蟻群は、こそっと俺に耳打ちをしたかったようだった。


「な、なんだ?」

「あの、椎名さん」

「おおう、だからなんだ?」

「あれ、あれ見てください」


 今日のパブリックエリアには、沢山の冒険者がいる。賑わっている。その中に紛れている3人組を見つけて、蟻群は指をさしたのだ。


「え? おい、あれ!!」

「そうッス」


 3人組をよく見てみると、それは市原と山尻と池田だった。あいつら……もう二度と、ここへ来る事はないと思っていたけれど……まさか、ここに来ているとは。


 俺は市原達のいる方へと近寄っていった。後ろから蟻群もぴたりとついてくる。そんな蟻群に小声で言う。


「お、おい。いいぞ、あっちいってろ?」

「なんでですか?」

「だって、おま……気まずいだろ?」

「大丈夫ッス。もともと俺、市原とは別に仲良くもないんで。あの時も、助けてくれなかったし……それに今は、俺は椎名さんのチームっスから」

「チームっつうか、クランね。まあ、お前がいいっていうならいいけど……」


 例えそうだとしても、元の世界……例えば学校とかで顔を合わせる事もあるんじゃないのか……とか思ったけれど、プライベートに関しては、こちらからはあまり根掘り葉掘りと聞いて関わる事はしにでおこうと思った。


 ネトゲなら、リアルの事を聞くのはタブーだしな。


 俺と蟻群は、市原達に話しかけた。もちろん、なぜここにいるのかという事について聞くためだ。単なる好奇心でもなく、ここは俺達クランの拠点だ。


 誰の許しを得て、ここにいるのか。そういう意味だった。 

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