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Phase.237 『繁盛』



 ――――金曜日の夜がやってきた。さあ、週末だ。


 仕事から帰宅した俺は、直ぐに準備をして『異世界(アストリア)』へと転移した。

 

 女神像のある草原地帯に転移すると、俺は大きく深呼吸した。


「ハアーー、やっぱりこの世界は、緑も豊富にあるし、空気がいい」


 夜だからか空気が澄んでいる。しかも、今日はなんだかいつもに比べて肌寒い……というか、寒い。風も北風のような冷たい風が吹いている。草原地帯は特にそういう風が直撃するから、余計に寒く感じる。


 そう言えばまたあれから一週間か。以前は、俺が転移してくるなり「ゆきひろさーーん」って言って、未玖が駆けてきてくれるんだが、最近はそういうのはなくなったな。それが少し寂しく感じる。だけど、店が忙しいのは、いい事だと思った。


 考えてみれば、未玖は店以外にも畑仕事とかもやっているみたいだし、川エリアや森路エリアなんかにも頻繁に行ったり来たりもしていると聞いた。


 未玖には、拠点から出ないようにと言ってある。だからそれを守って、拠点内を移動しているから、それでいいんだけれど……最近はかなり大忙しの毎日を送っているようだ。


「……ふむ」


 よし、どれ程店が繁盛しているか見に行ってみよう。


 草原エリアから更に東側、パブリックエリアに向かって歩く。途中、もと市原軍団の十河、茂山、成子の三人組に会った。軽く挨拶をかわすと、十河たちは草原エリアの方へと歩いて行った。


 モンタ達、他の不良達ももうこっちへ来ているんだろうか。


 ははは、でもまさか市原の連れて来た不良達が、俺達の仲間にしてくれと言ってきた時は驚いたけど、その後も毎日ここへやってきては、皆と一緒にいるのが本当に不思議に思える。


 先に言っておいたように、大谷君達に酷い事をしていた者は、ちゃんと謝って和解したみたいだし、他のクランメンバーとも仲良くしている。


 だから俺は、彼らを正式にクランメンバーとして迎え入れた。今では、彼らも仲間。拠点内を、何処でも自由に行き来してもいいし、皆も大切な仲間として扱っている。


 だがまあ……これはちゃんと自分達でしっかりと考えて行動しないと駄目だぞとは言っているんだけど、大谷君も含めて皆ちゃんと学校に行っているのだろうか……おせっかいだろうけど、心配にはなってしまう。


 パブリックエリアに入ると、結構な人がいてびっくりした。知らない人も沢山いるけど、それは俺達以外の転移者だった。


 もとの世界じゃ、『アストリア』のルールがあった。


 公の場で、『異世界(アストリア)』に関する事を喋ったり公表してはならない。もしもそのルールを破れば、運営によって何らかの粛清をされる。だから誰も、その事を関係者以外には好き好んで語りたがらない。


 話すとしても、俺が翔太に話したり、鈴森を誘った時みたいに、誘うという正当な目的がある場合。世間一般に公表したり、ネットで情報の公開などすればどうなるかは解らないのだ。


 なのに、俺達の本来いたもとの世界には、こんなにも俺達と同じような転移者がいるのだなと思った。


 翔太の案で拠点周辺に、この拠点への案内の立札の設置を増設した。だけど、約一週間でこんなにも転移者が訪れるなら、これはかなりパブリックエリアの収益が見込めるのではないか。


 このまま上手く順調にいけば、あの嫌な山根のいる会社ともおさらばできる。あの会社では出世もせず、未来もなくずっと働き続けているよりは、命を賭けてもこっちの世界で生き生きと生活する方がよっぽどいい。一攫千金のチャンスだって、あるのだから。


「椎名さーーん!!」

「ああ、成田さん!!」


 賑わうパブリックエリアを見渡していると、成田さんが手を振りながらこちらに駆けてきた。


「椎名さん、凄いですよ! 週末だからか、今日は物凄い冒険者の数ですよ。しかも皆、ここを拠点にして冒険をしたいから、宿泊させて欲しいって」

「ああ、それはいいですね。ちゃんと滞在費を支払うなら、いいんじゃないかな」

「ですね」


 そう言って、成田さんも俺と同じくパブリックエリアを見渡した。何日か前は、小屋……もとい店が3店舗しかなかったけれど、今は倍の6店舗に増えている。


「見てください。店も増えましたし、どの店も繁盛しています。これは滞在費だけではなく、かなりの儲けが見込めますよ」


 悪徳商人のようなセリフ。だけど見るからに人の良さそうな成田さんが言っても、それほどいやらしくは聞こえなかった。


「稼いだお金は、一つにプールして、一定の金額になったらそれぞれクランメンバーで分けるから、きっとみんな喜ぶでしょうね。それと、滞在者だけどパブリックエリアと草原エリアだけでなく森路エリアや川エリア、まだちゃんと調査していないけれど、行きたければ南エリアも自由に行き来していいと皆に伝えてください」

「解りました。スタートエリア以外ですね。じゃあ、それで皆に伝えます」

「ああ、それと滞在者には、しっかりとルールを。拠点を出る時は、ちゃんと言って出る事と、拠点だけでなく拠点周辺の木を許可なく伐採はしない事。後、宿泊するならテントを張る場所はパブリックエリアのみでお願いしますと伝えて欲しいです」

「了解しました。宿泊場所は、パブリックエリアのみというのは、もう全員に伝えてますので。それじゃ、その他の件、これから皆に伝えにいってきますね」

「よろしくお願いします」


 成田さんはにこりと笑い腕をあげると、沢山滞在者がいて焚火やら宴やらしている方へと歩いて行った。


 しかし、こうしてみると本当に人が多いな。


 とりあえず、俺もこの連休中にやろうと決めている事はある。だけどそれは明日からだし、今日はちょっと……かなり賑やかになったこのエリアを、もう少し見て回ろうと思った。


 とりあえず、まずは未玖の店に顔を出そうかな。

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