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Phase.236 『三人の頼み』


 パブリックエリアに建てた未玖達が営む喫茶店。見た目には小屋丸出しだけど、なかなか居心地はいいし可愛い女の子が、3人も働いているこの空間。ここは、早くも俺のお気に入り空間になってしまっていた。


 でもまだ水曜日だ。週の中日(なかび)。明日はまた明日、会社にいかなきゃならない。


 行きたくない。ずっとここに……この異世界にいたい。だけど、それももうしばらくの辛抱だ。バウンティサービスという魔物討伐をして懸賞金を獲得するという計画は、まだちょっと上手くいくか解らないけれど、こっちのパブリックエリアの方は意外と儲かるかもしれない。


 そうなれば、会社に辞表を出して俺は夢にまで見た異世界生活をエンジョイする。今でさえ、考える事ややらなくてはならない事が山積みで、とても会社になんか行っていられないのだ。


 今の会社に対して、何か特別な思いがある訳でもないし、翔太だってここで稼ぎができれば俺と同じようになりそうだし……北上さんや大井さんも、ここで会えるんだから何も問題もない。


 ふう……やっぱりパブリックエリアの開発を優先で進めていった方がいいな。それで他の転移者がここへ寄ってくれるようになれば、いいお客さんになってくれて、いっぱいお金を落としていってくれるという訳だ。


 だけど……とりあえずは、明日は会社に出勤しなければならないからな。


 腕時計を見ると、23時をとうに回っている。明日に備えて、今日はそろそろ自分のテントに戻って眠ろうかと考える。すると、目の前のテーブル席で、仲良く夜食を食べる3人組と目があった。


 大谷君と小早川君と有明君。市原と同じ学校に行っている高校生らしいが、あいつとは違って3人ともとてもいい子達だ。


 よし、もう少しだけ起きていようかな。


そう言えば、未玖もまだ店にいる。俺は未玖を呼んだ。


「未玖」

「はい、ゆきひろさん。何かご注文ですか?」

「そうだね。じゃあ、例の美味しいドリンクをお願い」

「はい」


 例の美味しいドリンク。実は、こっちに沢山、酒を持ってきている。翔太やトモマサ、長野さんもそうだけど酒の好きなものが多いからかかせない。かく言う俺もそうだし。


 それで未玖の営むこの喫茶店でも、酒を出せばいい儲けになるし、クランの皆には素晴らしい癒しになるに違いないと思って色々品揃えよく、大量の酒をここに置いているんだけど……その中には梅酒もあって、それである時に思いついたんだ。


 この拠点内に生えている、ログアップの木。ビワによく似た実をつける。その実を、ログアップの実って呼んでいるんだけど、その実を焼酎に漬け込んでログアップ酒を造ってみた。それが今、俺が注文した例のドリンクの正体。


 焚火をしながら、火を見つめてこれを飲んでもいいんだけど、こうして草原地帯に建てた小屋でくつろぎながら飲む酒も最高だ。


 俺は更に未玖に注文をした。


「そうそう。それと未玖、あそこの3人に何か美味い物を食べさせてやってくれ」


 俺のそのセリフが耳に入り、はっとする3人。背筋を正して、一斉にこちらを見る。そんな3人に俺はにこっと笑いかけた。


『ご馳走になります!!』

「好きなもの、あれば言ってね。未玖、とりあえず彼らが喜びそうなもの、あるかな?」

「それなら……それならですね、フライドポテトとか、オニオンリングとか……あっ! ポテトチップもあります」

「ハハハ、揚げ物ばかりだな」

「あとパスタとか卵焼きとか……」

「解った。じゃあ適当に作って、あの子たちに食べさせてやってくれ」

「は、はい!」


 未玖は返事をすると、キッチンの方へいそいそと入って行く。そして大井さんと三条さんに今の注文を伝えると、キッチンが忙しくなってきた。


 大谷君が言った。


「あの!!」

「え?」

「ほ、本当に、ご、ご馳走様です!!」

「ああ、いいよ。遠慮なくいっぱい食べて」


 大谷君に続いて、小早川君と有明君も頭を何度もさげる。未玖がログアップ酒を持ってきてくれたので、それを一口飲んだ所で、小早川君が言った。


「あ、あのでありますね!!」

「え?」

「あ、あのでありますね!! リーダー!!」

「リーダーってちょっと恥ずかしいな」


 そこで、2人組が店に入ってきた。知らない顔なので、少しぎょっとした。そう言えば、今このパブリックエリアには、3組の冒険者が滞在してくれている。


 ははは、こりゃ未玖達あれだな。今日は寝るのが遅くなるどころか、眠れないかもしれないぞ。もしそうなるんだったら、大井さんは、明日俺と同じく出勤しなきゃだから、店を出羽さんとかうわわに変わってもらった方がいいかな。


 2人組に軽く頭をあげると、彼らも頭をさげた。俺は未玖の名を呼んで、お客がきている事を彼女たちに知らせた。


「あのーー、それでですね、リーダー」

「え? ああ、そうか。悪い悪い。それで、何?」


 小早川君が、今俺に何か言おうとしている所だった。大谷君と、有明君も注目している所を見ると、3人で聞きたい事を小早川君が代表して話しているといったところだろう。


「あのでありますね! リーダーは、この拠点に押し寄せてきた、ゴブリン群れを撃退したと聞いたのでありますが……とても凄いと思いまして!!」

「いやいや、それは違う。撃退した事はしたけど、活躍したのはトモマサとか鈴森とか堅吾とか北上さんとか……他の皆だよ」

「いやでもその、そんな勇敢なる皆さんを統率しておられるのが、リーダーでは」

「いや、それも違う。リーダーが必要だから、リーダーしているだけで、皆を統率しているとかそーいうのはちょっと違うよ。皆は俺の部下とか、そんなんじゃないしね。正確には仲間だ。指示する時もあるけど、それは役割的にそうしているだけで、実際は俺も皆の一部というか……なんて言えばいいかな」


 そう言うと、小早川君は、友達二人の顔を見て、席を立ちあがると詰め寄ってきた。


「あの、リーダー!!」

「え? 近い近い。なに⁉」

「コボルトの討伐なのですが、我らも一緒に連れていってもらえないでありましょーか!! ぜひとも!!」

「え? ええ? コボルト?」

「はい! 懸賞金のかかったコボルトを討伐したと聞きました。でもまだ、生き残っているのがいると!! それ、討伐しに行くのですよね?」

「え? ああ、まあ」

「じゃあ、我ら3人を是非ともその討伐作戦に加えてくだされい!!」

「ど、どうしようかな……でもコボルトの討伐で、市原の仲間が何人か死んだのは聞いたよな。とても危険なんだぞ」

「かまいません!! 我らを、お加えくださいませ!!」

「よろしくお願いしますでござる!! 拙者達も、魔物討伐に参加したいのでござる!!」

「椎名さん。僕もゲームが大好きで、冒険者とかなれたらなって思っていました。大人になるにつれて、それが子供じみていると思って自分を隠していました……けど、異世界は本当に存在した訳で……僕も戦って、強くなりたい」


 うーーーん、どうしたものか。


 この世界では、ルールは自分達で作る。だからちゃんと理解しているなら、子供だからとかそういうのは関係ない。厳しいけれど、全部自己責任だ。嫌なら、もとの世界へ戻りここへは来なければいい。だから、彼らがやりたいというのなら、止める理由はない。


 だけどなんて言うか……このシチュエーション、まるで一度に、犬猿雉に迫られている桃太郎みたいだなと思って笑ってしまう。


「命を落とす可能性もあるんだぞ」

『はい!!』

「じゃあ、ルールは厳守してくれ。それと何が起きても自己責任だ。それを十分に理解しているならいいよ」

『やったーー!!』


 3人は手を叩いて喜んだ。なるほど、本当に3人とも異世界へあこがれをもっているんだな。それなら、俺と同じかな。

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