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Phase.235 『店々』



 大石さん達に続いて現れたのは、まだ別の冒険者パーティーだった。しかも2組。


 早速大石さんと同じように、この拠点と俺達の事を説明する。納得してくれたので、パブリックエリアに案内し、そこで過ごしてもらう事にした。


 とりあえず、パブリックエリア内と草原エリアなら、自由にしてもらってかまわないと伝えた。一応、営利目的でこの場所を提供している事を伝えると、彼らは大石さん同様に快く頷いてくれて、一人1日2000円という滞在料まで支払ってくれた。


 人数分×2000円。更に店を利用してくれれば……これは大きなビジネスになるかもしれない。異世界ビジネス。しかし首を捻る。


 どうして急に、こんなにもお客さん……もとい冒険者がやってくるようになったのか。たまたま偶然なのか。


 ポンッ


「よお、ユキーー!!」


 パブリックエリアで、大石さん達や建てた店々を見渡しながら色々考えていると、翔太が後ろから俺の肩を叩いた。


「翔太か。実はちょっと考え事をしていてな。今まで、ここにいて他の転移者に遭遇する事ってあまりなかったよな。まあ、長野さんや佐竹さんとかは、この辺りで初めてあったんだけどな」

「ああ、そだよなー。それより、これ見てくれよ」


 俺の話を聞いちゃいない。まったくこと男は!! そう思って、翔太が見ろと言ったものに目をやる。それは立て札だった。


 この先、『勇者連合(ブレイブアライアンス)』の拠点あり。お食事、休憩、物資の補給などできますので、どうぞおこしやす!! って書いてある。


 まさか……


「いやーー、実はちょっとマサルちゃんと一緒にこっそりと拠点抜け出してよ。周辺のここかなーって所にいくつかこれを立ててきたのよ。だからこれを見て、来たのかもしれねーなー。あはは」

「おい、こら!! 外は危険だって言ってんだろ!! 勝手に拠点を出るなよ!!」

「悪い悪い。思い立ったら、居ても立っても居られなくなっちゃってさー。それでマサルちゃんと一緒にサっと行ってサっと立てて、サっと帰ってくれば大丈夫だよなーって感じで!」

「兎に角、行くにしても一言言ってからにしてくれ」

「はーーい、りょーかいであります! すいませんでしたー。リーダー!」

「それで、そのさっきから登場してくるマサルちゃんって誰だよ」

「え? マサルちゃんはマサルちゃんじゃん!!」

「だからもういいって! 何者なんだよ、それ」

「それ、本人聞いたら、泣いちゃうぞ。マサルちゃんって言ったら、松倉勝ちゃんじゃねーか」

「松倉……勝……え? 松倉君って勝って名前だっけ?」

「ユキーって、そーいうトコちょっとあるよなー」


 翔太はそう言って、立て札を何処かへ引きずって歩いて行った。


 なるほど。そう言えばそうだったかもしれない。松倉君が、マサルちゃんね。


 急にこの拠点に人が訪れだした事。その謎が解けた所で、俺はまたパブリックエリアをとことこと歩き出した。


 大石さん達、その後にきた2組の冒険者達。みんな一応テントなど宿泊装備はしてきているみたいで、パブリックエリア内の空いているスペースにテントを張り始めている。


 草原エリアの方も行って、テントを張ってもいいとは言ったけれど……


 腕時計を見ると、23時を過ぎていた。今から色々見て回ろうという気にはとてもなれないか。


 ずーーっと、見渡すとパブリックエリアもまた結構な面積があるなと思った。まあでもこれからここで集客をするなら、この場所はむしろ広くても困る事はないだろう。


 そして小屋が4つ。一つは、未玖と大井さんと三条さんが経営する、食事もできる喫茶店。二つ目が、不死宮さんの薬草と異世界の薬草を調合して作った薬屋さん。三つめが、最上さん達が作った野菜やら、川エリアで釣った魚の燻製やらなんやらを販売しているお店で、四つ目が翔太とトモマサがやるって言ってやり始めた……なんだあれ?


 確かゲーム屋……いや、金を賭けて遊ぶとか言ってたから賭博場か。まあ、遊戯も必要だとは思うし、やりたければ自由にどうぞと思った。


 それにしても未玖達の喫茶店と不死宮さんの薬屋はいい感じだけれど、後の二店はなんとなくカオスだな。


 よし、また改めてもっと色々といい感じの店を増やしたいと、成田さんに相談してみよう。


 パブリックエリア、一番東の有刺鉄線を張ってある位置までやってきた。ここを一歩こえると、そこはもう拠点の外。


 少し前はこの辺を歩くなんて、吐きそうな程恐ろしかったのに。今は、こんな有刺鉄線だけなのに、これに囲まれている内側にいるだけで、根拠のない安心感に包まれる。ふと、帯刀している剣に触れる。


 耳を澄ませれば、お客さん達の焚火を囲んで、仲間と会話している声が聞こえてくる。時折、その中には笑い声も。


 俺は振り返って、拠点を守る有刺鉄線を背にした。


「さてと、今日はもう何かするにしてもできるような時間じゃないし、喫茶店に戻ってみるかな」


 もう営業を終えているかもしれない。


 でも灯りが見えたので、行ってみると喫茶店には、まだ未玖も大井さんも三条さんも残っていた。


 俺は店に入ると、一番近くにある外に面した席に座った。未玖が気づいてこちらに、ててててっと駆けてくる。


「ゆきひろさん! お疲れ様です!」


 未玖の反応で、大井さんと三条さんも、俺に気づいた。俺は3人にお疲れ様―っと言った。


「まーだ、お店やってるんだ?」


 大井さんがにこりと笑った。


「だって初めて、3組もお客さんが来たから」

「大石さん達含めて、全員で17人か」

「うん。あれから一人でとか二人でとかで、ここに来てくれるから、なんだか閉店するのがもったえなくって」

「ははは、でも大井さんは明日また朝から会社だからな。三条はいいの?」

「私? 私は明日は大丈夫だから」

「そう、そうなんだ。それじゃ大井さん、あとは、未玖と三条さんに任せればいいんじゃないかな?」

「そうね、でももう少しだけ」


 大井さんはそう言って未玖と三条さんの方を振り返る。すると二人は、にこりと笑った。


 やーー、仲の良い女士達を見るのは癒されるな。


 翔太とトモマサの賭博場も、ちょっとさっき目をやったら灯りが漏れてたから人がいるんだろうけど……きっとあっちは、荒んでいるんだろうなって思った。


 俺は断然、こっちの店の方がいい。そんな事を考えていると、誰かが入店してきた。


「い、いらっしゃいませ」

『いらっしゃいませー』


 未玖は、サササとキッチンへ逃げ込む。


 こんな時間に誰だろうと思っていると、大谷君と小早川君と有明君の仲良し三人衆だった。

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