Phase.234 『別のクラン』
「自分はこのクラン、『アイアンヘルム』のリーダーで大石といいます」
「初めまして。俺はこの拠点の一応リーダーをやっている椎名です。クラン『勇者連合』のリーダーです」
大石さんと、大石さんのパーティーメンバー他4人を、パブリックエリアに招待し、早速未玖と大井さんと三条さんが営む事になった喫茶店に来てもらった。
大石さん達は、キョロキョロと案内された店の中を見ては、「おおー!」っと関心しているかのような声をあげている。
因みに喫茶店といっても、森に生えている木を伐採して手に入れた木材と、ホームセンターや、通販で仕入れたベニヤやトタンなどのボードなどを使って造りあげた小屋のようなもの。
そこへちょっとずつ食器や小物などそろえて、小屋も改修していって、いつかは本物の喫茶店のようにするつもりだ。だけど、未玖達は今のこの手作り感満載の小屋でも感激して、かなり満足しているようだった。
俺は今まで、異世界生活と言えば冒険とか魔物退治とかっていうのが第一に頭に浮かんでいた。けれど、未玖達のように店をやってみるとか、そういう楽しみもあるのだなと思った。
確かに現在、俺も冒険は少ししているかもとは思っても、本格的にはしていない。やっている事は、もっぱら拠点の強化とクランの運営だ。
3対3で向かい合って座れるほどの大きなテーブル。それを2台合わせて、使用した。対面に大石さん達5人が座る。
未玖は相変わらずの人見知りで、キッチンからこっちを覗いているものの、大石さん達の事が気にはなっていても出てこない。だけど、観察してると、チョロチョロこちらの様子を覗いている。
それもそのはずか。パブリックエリア開発計画、早速店をいくつか作ってみたけれど、大石さん達はそこに来てくれたお客さん第一号なのだ。
大井さんと三条さんがキッチンから、珈琲を入れて運んできてくれた。大石さん達の他、こちら側には俺と翔太、北上さん、成田さん、長野さんが座った。
「これは正直驚きを隠せない」
「何がですか?」
「まさか、『異世界』でこんなにゆったりと珈琲を飲むことができるお店があるなんてな。ハハハ」
大石さんのセリフに他の仲間も頷いている。俺は笑いながら、言った。
「実は有料なんですよ」
「え?」
「心配しないでください。今、お出ししている分はもちろん無料です。ですが……」
大石さん達に、この拠点の事。そして俺達の事。パブリックエリアの目的を伝えた。
ここは、俺達が営利目的の為に作りあげた場所。
RPGの世界だって、日本円ではないけれど、金は存在するしそれなりに必要だったりする。
大石さん達が、俺達の話を聞いてどんな反応をするのか解らなかった。けれど彼らは俺達のしている事に関心を持ってくれた。
「なるほど、面白い。面白いし、椎名さんのこの拠点のような場所だが、他にもあると他の転移者……っていうか、冒険者から聞いた事がある」
「え? 他にも俺達と同じように拠点を造っている人達がいるのか?」
「ああ。でも自分らは『異世界』に来始めて、まだ4カ月かそこらなんだ。噂を耳にしただけで、実際にそこへ行った事はない」
「何処にあるとか、耳にしたことは?」
大石さんは、首を傾げて考えている素振りを見せる。そして仲間の一人に顔を向けた。
「お前知ってなかった?」
「えーーっと、何処だっけな。確か、3つ位あるんだよ」
ええ!! 3つ⁉ 3ヵ所も拠点があるのか⁉
「そうだそうだ。俺達が耳にしたのは3つ」
「ああ、そうだ。その1つは、ここの近くにあったんじゃなかったっけな」
!!!!
流石に驚きを隠せなかった。俺達は……っていうか、リーダーの俺がかなり小心者だし、自分で言うのもあれだが、用心深いから拠点の防衛ばかりに目をやって外には、意識をほとんど向けていない。
バウンティサービスにも登録をしたし、実際賞金首のコボルトも討伐するべく継続中。だからこれからは、拠点の外にも出る事がもっと増えるとは思うけれど……でも確かにぜんぜん出てないから、この辺りの事をまだ全く知らない。
自分達の拠点内、南エリアだけどそこの事ですら、まだろくに調査もしておらず、どうなっているのか解らないのだから困ったものだと思ってはいる……ははは。
そう言えばこの拠点からもっと南西の方へ行けば、古戦場があると佐竹さんが言っていたっけ。
後、佐竹さん達の荷物の回収と埋葬をした時、拠点から少し東にいった所には大きな厳つい魚の化物がいる池と、ダンジョンらしきものがあった。知っているのは、それ位か……
長野さんの方を見る。
「儂もこの辺はあまり詳しくないのでな。たまたまこの辺りを散策していた時に、椎名君に出会った」
「そうですか、長野さんでも解らなければ俺も解らない」
再び大石さんを見る。すると、彼はポンと手を叩いた。
「そうだ、ここから北じゃないかな。北の方へ行けば、確か大きな川があったと思う」
「大きな川……ですか」
「ああ、船でもないと向こう岸に渡れない。それ程大きな川だ」
そんな川があったんだと、翔太や北上さんと顔を見合わせた。
「その川の近くに……上流か下流かまでは覚えていない……というか、噂を耳にしただけで実際には見ていないんだが、何処かのクランの拠点があるらしい」
「そうなんですか、それは一度行ってみてみたいですね」
まさかそんな近くに、別のクランの拠点があったなんて……思わず、凄い情報が聞けた。
更にもっと色々と有益な情報が手に入るのではないかと思い、大石さん達と暫く話を続けた。
夜も遅くなってきたので、大井さん達にお願いして大石さん達の分も含めて、晩御飯の準備をしてもらった。
食事はそのまま未玖達の喫茶店で、大石さん達と一緒に食べた。そして話も尽きずにずっと、この世界の話を続けていた。結果、大石さん達は、俺達のこの拠点を気に入ってくれたみたいで、ちょくちょくこれから利用したいと言ってくれた。
その言葉に喜んでいると、向こうからモンタが走ってきた。
何があったのかと聞くと、大石さん達に続いて、拠点のバリケードの外にまた別の訪問者がきているとの事だった。




