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Phase.232 『やることは、いっぱい』



 アイスコーヒーを一口。俺は、話を続けた。


「とりあえず、俺達の拠点にそういう場所を作る。名称はパブリックエリア。未玖や三条さんにも、そっちの方で店を出してもらえるようにお願いする。あと、不死宮さんにも言えば、薬草とか傷薬とかの店も作ってくれるかもしれない」


 そう。ファンタジーゲームでも、村とか街に立ち寄れば、宿屋や回復薬など販売している店がある。


 翔太が声をあげた。


「うひょーー、それってアレだな。まるでRPGとかで言う、始まりの街とか旅立ちの村とかそんな感じだよな。それを俺達が作る訳かー」

「そうだな。作るというか運営するというか、まあそんな所だ」

「ええーー!! じゃあさ、あの話だよ!!」

「え? どの話だよ」

「あの、ラーメン屋!! 俺達の拠点にも美味いラーメン屋を作ろうぜ!! 転移者には、俺達と同じくオタクが多いだろうし、オタクっていうのは、ラーメン好きだからなー。これは儲かるぜ」

「偏見だろ。ってまあ俺もラーメン好きだけどよ。でもあれだ、翔太はラーメン作れるのか? 美味い奴だぞ。できるなら、ラーメン屋をやってもいいけど」

「うーーん、そうだな。そう言えば料理すら、俺はできん!! 釣ってきた魚を焼く位の事はできるがな」


 翔太は、肩を落としてそう言った。そして二人で、北上さんと大井さんという女子達に目を向ける。


「私は駄目よ!! 私はいつもコンビニとかそーいうのでアレだし!! で、でも海なら結構色々作れるから。ねーー、海」

「まあ、お料理とかお菓子作りとかはやるけど……でもラーメンは、作った事はないなあ」


 4人で俯いて唸る。


「まあ、成田さんにも早速話して、今日の夜からでもその計画に取り掛かろう。魔物討伐も諦めるつもりもないし、残りのコボルトも討伐するつもりだけど、クランメンバーも増えてきているし先立つものがないとな」


 翔太が何かを思い出したような顔で、ポンと手を叩いた。


「そう言えば市原達って……」

「ああ、結局仕方がないから家に帰した」

「拠点にある女神像を教えたって事か」

「仕方がないだろ。できれば教えたくなかったけれど、もう異世界へは来ないって約束を条件に、女神像を教えてやって転移させてやった」


 北上さんが呟く。


「はたしてその約束は、守られるのかな」

「まあ、守らないだろうな。でもモンタや他の奴らは、俺達のクランに入りたいみたいだしな。もしまた来ることがあったら、ルールを絶対に守る事と、虐めなんてくだらない事を二度としないって誓えるなら仲間に入れてやってもいいかなって思っている」


 北上さんと大井さんは、頷いてくれた。けれど翔太は納得がいかない様子。市原とも揉めてたしな。


「まあ、ユキーがいいならいいけどよ。でもあの市原と、取り巻きの池田と山尻を仲間に入れるのは、俺は嫌だな」

「そうだな。あいつらが女神像使ってまたこっちに来たら、俺達の拠点に現れるはずだ。そうなったら、帰れって言って追い返すか。はっきり言って、虐めなんてしているような連中は、小物だ。気も小さいしどうでもいいような事に固執する割には、大事な局面に弱い。だから何が言いたいかっていうと、ああいう協調性の無い奴らは、きっとこの先この『異世界(アストリア)』にいてもいつか命を落とす。だから、もとの世界で暮らした方がいいんだ」

「まあ俺達には、異世界への憧れって奴がずっとあったからな。でもアレだな。なにより、異世界で他の転移者相手に商売、ラーメン屋か。これは楽しみになってきたぞー!!」


 翔太だけでなく、北上さんと大井さんも目を輝かせている。


「あとまた話が飛ぶけど……大谷君と和希の話」


 北上さんと大井さんが、嫌な顔をする。あの気持ち悪い魔物を思い出したからだ。でも翔太は、ウキウキした顔をした。


「あれか!! 南エリアに、ワームが出たって話!! なんでもかなりグロい奴だって言ってたぞ!!」

「正確に言うと、ワームじゃなくてセンチュウのモンスターだけどな。倒した奴を、和希が穴から引き上げてきて、それを俺に見せにきたから【鑑定】で調べたんだけど、ロットネマトーダっていう名前みたいだ」

「そう、それだよ!! 和希の話では、落ちた穴の中にいたって話だぜ」

「センチュウ自体は、土の中で生息している寄生虫らしいけど、それの魔物版だものな。どちらにしても、南エリアにあんなのがいるってなると、完全に駆除しないと恐ろしくて拠点にできない」

「確かにあれが沢山襲ってくる想像をすると、ウズウズってするよな。因みに悪い方のウズウズな」

「やめてよ、気持ち悪い!」


 北上さんが本当に嫌な顔をして、翔太の肩を叩いた。そのインパクトの瞬間、翔太は「あふんっ」と息を漏らす。それを見て結構強めにシバかれているけど、翔太にとってはご褒美なんだなって思った。


「それでどうすんだよ、そのセンチュウってのを駆除するのか?」


 南エリアは、成田さんが勢いで新たに俺達の拠点として広げた場所。一応、一部バリケードで覆っていて、その他は有刺鉄線で囲んではいる。けれど、まだろくに調査もしていない。


「もしかしたら、センチュウ以外の危険な魔物がいるかもしれないし、ちょっと今日あっちへ戻ったら、改めて調べる為の調査隊を考えるかな。自分達の拠点の中へ向けて、調査隊を送り込むっていうのも、変な話だけど」


 大井さんが言った。


「それじゃ、コボルトの方は?」

「ああ、それはもちろん、そのままにはしておかない。残る懸賞金付きのコボルト2匹は、討伐するつもりだ。センチュウの駆除もそうだし、パブリックエリアの開発もしなきゃだし、ラーメン屋もそうだ。ゴブリンだってまた強襲してくる可能性があるから、防衛にも気を配らないとだし。やることは盛沢山だな」


 やることは、いっぱい。忙しくなってきた。


 でもその前に……腕時計を見ると、そろそろ会社に戻って仕事をしなくてはいけない時間になっていた。


 うーーん、まだまだ話し足りないけれど、仕方がない。続きはまたあっちの世界で話そうと言うと、お会計をして喫茶店を出た。

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