Phase.231 『有償提供』
ラーメンは、最高に美味かった。やっぱ、魚介ラーメンもいいけど、豚骨はいいよな。
ふう、本当にこれは真剣に、異世界の俺達の拠点でいつでもこういう美味しいラーメンが食べられるように考えてもいいかもしれない。
お腹も満たされた俺達4人は、昼食を終えてラーメン屋を出ると、早速話をする為に目の前のチェーン店カフェ、トリャーズコーヒーに入店した。
テーブル席を探し、先にそこを抑えてからオーダーしにいく。それぞれオーダーしたものを手にすると、4人向かい合う形で席に座った。因みに俺は、やっぱりアイスコーヒーを注文した。
ラーメンで油を多く摂取した後のすっきりしたアイスコーヒーは、最高の味。格別。
翔太と北上さんと大井さんの3人もそれぞれ着席し、注文したものが揃った所で、俺は『異世界』の事を話し始めた。
「それで、ここにいる3人には、ちゃんと話しておこうと思うんだけど……」
「おお! なんだ!?」
「うんうん、なに?」
「草原エリアなんだが……そこから更に少し、東か北か南……どちらかに拡張しようと思っているんだ」
拠点拡張という言葉を聞いて、翔太は声をあげた。北上さんや大井さんも、それ程表情にはださないけれど、驚いているに違いなかった。
「ええーー!! また拡張!? 俺達の拠点が広がるって事は、俺達の領土が広がるって事だろ? そりゃ、めちゃいい事だけどなー。でもなーー、うーーん」
「ゴブリンやコボルトとか、魔物に襲撃された時に拠点が広がれば広がる程、手薄な部分ができて危ないっていいたいんだろ?」
「その通りだ。だって、今でもめちゃくちゃ広くなっているぞ」
俺が意図していない部分もあった。事後報告で、成田さんが勝手に拡張している場合。
だけど成田さんには、拠点の防衛の件で、率先して昼も夜もバリケード造りに力を注いでくれているので、あまり強くは言えなかった。
でも流石に、また南エリアという場所も加わってしまったので、拠点拡張に関してはここらでストップしてくれると思う。
だがそれなのに俺は、新たに草原エリアの拡張をまた考えていた。もちろん、理由があってだ。北上さんも、きっと俺に何か考えがあるのだと察して言った。
「でも拠点拡張に関しては、今の私達の人数に対して、かなり大きな広さになっちゃったから、それはリーダーであるユキ君も当然解っている訳でしょ。なら、いったい何のために拠点をまた拡張するの?」
「もう広げてしまった拠点に関しては、大きいからと言って縮小する気もないし、もう皆にしても自分達の住処になっているだろう。だから新たにエリアを作る事にした」
翔太が、パカポカと軽く叩いてくる。これが未玖なら可愛いけど、翔太がやると、鬱陶しいことこの上ない。
「だーかーらー、なんでまだ、領土を広げるんだっつってるんでしょーがよー! もったえぶらずにおせーてよ! もったいぶってても、休憩時間にも限りがあるんだからよ」
「はいはい、解ってるって。つまり、草原エリアの隣に拡張して、パブリックエリアなるものを作りたいと思って」
「パ、パブ……パブリックエリアだと?」
エリアの名前だけじゃ、まだ何も説明にはなっていない。ハハハ、今説明するから。
「大谷君達、それと市原達不良軍団、その前には長野さんや、長野さんが連れて来た最上さん達【喪失者】の皆、あと佐竹さん達……もちろん覚えているよな」
「それがなんなんだよ?」
「翔太もそうかもしれないけれど、実は俺は今の働いている会社を近いうちに辞めようと思う」
「おい、ズルいぞ!! それなら俺も!!」
「解ってるって。翔太もそうかもって事は知ってるよ! とりあえず、話を聞けよ」
そう言うと、翔太は頭を摩って北上さんと大井さんの顔色を伺った。二人は苦笑する。
「それで会社を辞めたあとなんだけど、俺は『異世界』で生計を立てて行こうと考えている。金は必要だから。その一つの方法として、昨日のコボルトの討伐……魔物討伐なんだけど、それで稼いで行くのは、今の俺ではまだ難しい事が解った」
コボルト討伐……最初は、あれだけ人数がいれば余裕だと思っていた。けれど、こちらにも多く死者が出た。市原の連れていた不良達。俺達のクランメンバーは、誰一人死者はでなかったけれど、一緒に戦った市原達の仲間はかなりコボルトにやられた。
報道を見たからといって、どうする事もできないから、ニュースを見ないようにはしているけれど……もう少ししたら、きっと大谷君達の住んでいる辺りで高校生が集団で行方不明になったとテレビで報道されるだろう。
行方不明になっているのは、全員『異世界』で死んだ者達。だからいくら警察が捜査しても、解決はしない。
大井さんが言った。
「そうよね。命を賭けて恐ろしいコボルトを討伐に行って、今回稼げたのは実質10万円ですものね」
「そうなんだよ」
10万円。そう、懸賞金のかかっていたコボルトは全部で4匹いた。そのうち1匹は50万の奴で、他のは1匹5万円。俺達が総出で被害も出してやっと倒したのが、その5万のコボルト2匹なのだ。
「だからちょっと考えを広げて、他にも稼げる方法を考えたんだ。ヒントは、未玖が最近やり始めた草原エリアに開いた店だ。ああいうのをパブリックエリアに沢山設置したい。そして集客して金を稼ぐ」
「しゅ、集客っつったっていったい誰から……あっ!!」
最初に大谷君や長野さん、佐竹さん達の事を話した。その意味を3人とも理解してくれたようだ。
「そうだ。『異世界』に転移してくるのは、俺達だけじゃない。俺達の拠点は今やかなり範囲も大きくなったし、転移者からしたらかなり目立つ存在になったはずだ。だから俺達に近づいてきて、接触を試みてきたらパブリックエリアに案内する」
翔太だけでなく北上さんも、「あああ! それ凄い!!」と言って興奮し始める。
「なるほどね! ユキ君は、『異世界』で転移者を相手に商売するつもりなんだ!! そんなの私と海がいた『幻想旅団』でも思いつく人はいないかも!!」
「そうね、拠点の一部を一般開放して、お店を開いて商売するなんて、なんだかワクワクするよね」
「だろ。しかもお客さんは、俺達と同じく転移者。支払われる金も、日本円だ。異世界転移のルールとして、『異世界』のものは元の世界へもっていけないが、もとの世界のものは『異世界』へ持ち込める。つまり『異世界』からでも、俺達がいた元の世界の物であれば、持って戻れるという事だ。ナイフとかザックとかスマホとか着ている服とか、既に検証済みだしな。だから俺達が他の転移者に有償で、店とか焚火したりキャンプできる場所を提供したりできるエリアを提供する」
集客できればだけれど、これなら転移者の客が来れば来るほど安全に稼げるし、何より未玖や小貫さんや最上さんなど【喪失者】の皆も、金を稼ぐことができる。
そうしようと思いついた時は、俺も興奮していたけど、翔太や北上さんや大井さんもどうやら例外ではないようだった。




