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Phase.23 『慣れ』




 スーパーで買ったおにぎり2個とカップ麺。


 おにぎりは二日目という事もあって、固くなっていた。俺は荷物から網を取り出すと、それを焚火に乗せてそこへおにぎりを乗せた。そう、焼きおにぎりにする。


 おにぎりを火で炙っている間に、カップ麺に湯を注いで待つ事3分。待ちきれなくてカップ麺からかなり早い朝食を食べ始めた。


 ズルズルズル……うまい!


 おにぎりが焼けてくる。


「あちち! あっちー!」


 箸を使わずに手で掴んでしまって後悔。かなり、ホッカホカに焼けていた。しっかり両面焼けたおにぎりは、焦げてしまわないようにもう網の隅に移動させて、カップ麺と一緒に食べて楽しんだ。


 やっぱり、こういう自然の溢れる場所での食事は最高だ。この異世界へ来てまだ僅かだけど、なんとなく食欲が以前よりも大幅に増している気がする。草むしりや木を伐り、柵を造ったりで身体中筋肉痛だけどなぜかこの痛みも心地よく思える。


 確かに狼やスライムに襲われたり、残虐な感じのゴブリンも見た。ここが危険に溢れているというのは十分にもう理解はしているけど、今は少しでも長くこの世界にいたいと思っていた。あんなに怖い思いをしたのに、こんな気持ちになるだなんて本当に不思議だと思う。


 朝食を終えると、時計を見る。――4時過ぎ。空は、徐々に明るくなり始めていた。


「それじゃまず、また草むしりからだ。それでまたこの辺りを整備したら、木を伐って柵をもっと強化しよう」


 作業に取り掛かる。俺が住処にした丸太小屋。この小屋がある森の真ん中にポカンと拓けた場所にまたこんもりとした抜いた草の山がいくつかできた。


 まだ森の中は薄暗いので懐中電灯は手放せない。手頃な木を伐り出して、柵を強化。小屋の周囲にある全ての柵の前にっていうのは、大変な作業なので一度には無理だけど考えていた馬防柵を造って配置して見た。


 馬防柵とは、並んだ柵に先端が杭のようにした丸太を斜めにかけて固定する。戦国時代では、騎馬隊の攻撃を防ぐものだったのだろうけど、この世界では魔物が襲ってきても突進してこようものならこの斜めに立てかけられた何本もの杭に身体が刺さるという訳だ。


 作業の途中、特に何かアクシデントがあるという事もなく集中する事ができた。しかし、気が付けば数時間もこの作業に費やしていたので流石に疲れた。


 だが、立派な拠点にはなってきた。小屋の周囲には、柵がありその外側には馬防柵がある部分もありものものしくも見える。これはいい。


 すっかり、陽も昇る。時計を見ると、9時を回っている。しかし、昼飯にはまだ時間があると思った俺は、ザックを背負い武器装備をして再び、周囲の散策をしてみる事にした。行ってもここら辺の森の中や女神像のある草原の方だけだけど、今はこれで十分だろう。


 ギャオオオオオオン!! 


 刹那、空から恐ろしい鳴き声がして身を屈めた。見上げると、少し離れた空を翼竜が羽ばたいていた。


「す、すげー! あれは、もしかしてワイバーンか!! なんなのもこの辺にいるのか。襲われえたら、ひとたまりもないな」


 恐ろしい、あんな恐ろしい魔物がいるなんて。そう思っているはずなのに、なぜか口元が緩む。異世界に来てから、徐々に慣れ始めてきているのか恐怖よりも本物のワイバーンを見て自分が興奮している事に気づく。


 思わず右手が、腰に吊っている剣に伸びたがあんなのにどうあがいても勝てない事は、心の底ではちゃんと解っていた。でも、あんな超ファンタジー的な生物を見て、自分が剣を持っていたりなんかしたらそりゃこんな反応をしてしまう。


 ワイバーンの気配が無くなると、柵を動かしていざ森の中を散策しに出た。


 森に入ると、ゴブリンに警戒をした。この森にはゴブリンが出没する。それに、今向かっている方は昨日ゴブリンに遭遇した川の方だった。


 道は、なんとなく覚えていた。水のせせらぎが聞こえてくる。


 川へ向かいながらも何かよさげな薪を拾ってはザックに入れていた。川。


 川の方は、今いる場所よりも低いので一気に飛び降りる。それで早速川の中に顔を突っ込むと両手で水を掬いあげ、顔を洗ったあとに水を飲んだ。


「っはーーー!! 最高だ!! もう、会社に行きたくないし、働きたくない!! ずっとここで、暮らしたい!!」


 訳の解らない事を叫ぶ。だけど、半分以上は本心かな。でも、こんな魔物がいる異世界で自分一人……っていうのは寂しい。今の所、この異世界の住人にも遭遇はしていないし。まあ、小屋や女神像のような人工物があるのだからいるんだろうけど、言葉が通じるかもわからないし、友好的なのかもわからない。


 そう考えると、翔太にこのことを話すべきか改めて考える。翔太もここに来れば、きっと楽しい。だけど、俺には何かあったとしても責任が取れない。危険な世界なのだ。


 そんな事を考えていると、目の前に何匹か魚が泳いでいった。


 釣り竿は持ってきてはいないけど、なんとかあの魚……獲る事はできないかな。


「ふーーむ」


 俺は靴と靴下を脱いで、近くの大きな石の上においた。そういえば水道橋の武道具専門店で買ったサポーターも装着していた。すっかり、なんかムレムレになって嫌な感じになっている。それも脱ぐと、川でサポーターをジャバジャバと洗って同じように石の上に乗せて乾かした。

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