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Phase.224 『探検! 南エリア その1』



 ――拠点、南エリア。


 ここは、椎名さん達が最近拠点の一部として広げた場所。森というよりは、やや木が少なくて林と言った感じのエリアで、まだ調査もしていない場所だった。


 だから南エリアと隣接している草原エリアとの間には、まだ有刺鉄線による境界が引かれていた。


 僕と小早川とカイ、それと僕らを誘ってくれた和希は、その森路エリアから草原エリアへと移動し、彼が気になって仕方のない南エリアへと足を踏み入れていた。


 他のエリアに比べて草木は少ないけれど、なんとなく鬱蒼とした感じがする。草原エリアやスタートエリアは、拓けていて晴れ晴れした感じだけど、ここは少し空気が重い……そんな気がした。


 クエックエックエッ!!


 何かが木から木へと飛び移って、奇妙な鳴き声をあげていた。


「ヒッヒイイイイ!! な、なんなんだ!! なんなんだチミは!!」

「小早川氏。今からそんなに驚いていると、とてももたないでござるよ」


 笑いを取ろうとしているのか、それとも本当に怖がっているのか解らない小早川。ううん、きっと後者だろうな。


 和希が一歩、僕達より前に出ると、持っていた棒を見せて言った。


「知っていると思うけど、ここはまだ十分に調査を行っていない場所なんだ。だから皆一応用心して、武器を装備してほしい」

「そ、それはどういう?」


 怖がっているせいか、ちょっと裏返った声で聞く小早川。


「ここ南エリアも、僕達の住む土地を増やそうって事で、有刺鉄線で囲んで、そこを僕達クランの拠点の一部にした。だけど……正直言って、線を張ってここは僕らの領地ですってしただけなんだ。一応、危険な魔物はいないみたいだけれど、それでもまだ十分には調査していないみたいだし、川エリアや草原エリアのように、常に見張りをしている人もいないから、気を付けないといけないんだ。有刺鉄線を張った時は、安全だったけどね。今は、何かが入り込んでいる……そんな可能性もあるんだよ」


 和希の言葉を聞いて、小早川は唾を呑み込んだ。そしてせわしなく、僕とカイの顔を交互に見た。


 「ねえ、戻ろ。戻ろー」って言っているんだと思う。けど僕は、この異世界で大きな冒険をしてみたいんだ。椎名さん達となら、こんな僕でもきっとやれると思う。だから、小早川には悪いけれど、今は戻る気がなかった。それに恐怖どころか内心は、ワクワクしている。


 和希が、それじゃ行こうかと言うと小早川が踏みとどまった。


「待て、和希! 和希よ、待つんだ!」

「え? どうして?」

「え? いやだって……そう! そうだ! リーダーが言っていただろ! 勝手に出てはいかんぞなもしと! 我は何も怖いものがないゆえ、行くのは一向にかまわんが……こう見えてルールは守る派なんだ! リーダーが不在の今、リーダーの言った事は厳守するべきなのだ!! え、そうだろ?」


 立派な事を言っているのか、言っていないのか。でも和希は、否定をしない。小早川の言葉に何度も頷いてみせた。


「うん、そうだね。その通り、僕も椎名さんの事を信用しているし、椎名さんの言うルールを守るようにしているよ。それじゃ、行こうか」

「こ、こらあああ!! 待て、待たぬか!! ええい、待たぬかあああ!! だから、我は行っても一向にかまわないが、ルールが! ルールの奴が!!」

「アハハ、それなら大丈夫だよ。僕達は、椎名さんが決めたルールを何も破っていない。椎名さんは勝手に拠点を出ちゃだめだって言ってたよね。でもここは、南エリア。一応椎名さん達が定めた拠点だから」


 「あっ」っという面白い顔で硬直する小早川。彼の肩をカイがポンポンっと叩いた。そしてカイ愛用の剣を抜く。


「それじゃ、いざ冒険に出陣でござるよ」

「うん、行こう! それで、具体的には何をするの?」


 和希はにこりと笑った。


「さっきも言ったけど、このエリアはまだぜんぜん調査をしていないからね。何かあるのか見て回ろうと思って。それとね、なんでも池があるらしいよ」


 らしいという事は、和希もこのエリアに足を踏み入れるのは初めてなのか。そう言えば、最上さんが南エリアには池があるって言っていたような。


 異世界の池――何か特殊な生物……魔物がいるかもしれない。


「あとは有刺鉄線が切れていて、補強しなきゃいけない箇所があるかもしれないし、もしそうなっていて、何か危険な魔物がこの南エリアに入りこんでいる可能性だってあるわけだから。そんな事になっていたら、僕らはそれを見つけて椎名さんに報告しなきゃいけない」


 確かにそうだ。この南エリアが拠点の一部だというのなら、とても大切な事。


「それじゃ、行こうか」

「う、うーーむ」


 小早川も、腹を決めたようだった。

 

 先頭は和希と、僕。その後ろにカイが続き、更にその後ろから小早川が震えながらもついてきていた。


 確かに不安を感じるし、何かあったらって考えると怖くもある。だけど今はそれを超える好奇心が収まらない。


「そう言えば、これがあった……はい、どうぞ」

「え? あ、ありがとう」


 和希は小早川とカイに目を向けた後、僕に鉈を差し出した。二人は鉄の模造刀を持っているけれど、僕はそう言えば武器を持ってきていない。だから和希は、用心のために鉈を貸してくれたのだ。


「とりあえず、あっちに行ってみよう。大きな岩が重なり合っていて沢山ある。何かあるかも……いや、きっと何かいるかもしれない」

「ひ、ひいいいい!! な、なにかいるって、何がいるんだ!?」


 和希の何かいるというワードに、またしても小早川が恐怖する。ビビリの類に分類されると思われる僕ですら、この世界にもだいぶ慣れて来たのに……


 でも小早川の変わらないその感じ(ノリ)は、逆に僕達になぜか安心感を与えてくれていた。

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