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Phase.223 『うららさん その2』



 4人で焚火を囲んでいた。


 手には、異世界産の鰻を使用した鰻丼。とても香ばしく、最高に上出来に仕上がった白飯の上にバフンと音を立てて肉厚の鰻が乗る。そんな素晴らしいどんぶりは見ているだけで、口の中に唾液が溢れだした。


「おいしさそーーう!! それじゃ、うららいっきまーーす!!」


 調理を見ているだけで、にこにことしながら何もしなかったうららさん。そんなうららさんが、僕達の鰻丼に最初に手をつけた。


 一応4人分ちゃんと作ったからいいんだけど……うららさんは、まるで戦闘用ロボットのコクピットに乗り込んで、これからインベーダーと戦いに行くような……そんな気合の入った感じで、鰻丼をかきこむ。


「おお、うらら氏! いい食べっぷりでござるな。しからば拙者も!! ムシャムシャムシャ」

「なんともなんとも、はっはっはっは! うらら様にこれ程、喜んで頂けるのであれば、もっと鰻を釣り上げてみせれば良かったわ!」


 僕も人の事をいえない。女子に免疫の無い3人が、思いもしなかった特別ゲストのうららさんに注目する。


 カイも小早川も、うららさんを連れてきたら困るかなって思ったけれど、うららさんがここにきて一緒に食事をすると知ると、二人共目をキラキラと輝かせて彼女の特別席を作った。


 まあ席って言っても、大きな石なんだけど。それが椅子替わり。


 でも僕ら3人は、そのまま地べたに座り込んでいる。この方が落ち着くのかも、しれない。


 客観的に見ると、うららさんは僕達3人のお姫様のような状態になっていた。まあ、見た目もとても可愛いし、非モテ三人衆の中へ入れば、一瞬でそうなる事は、容易に誰でも想像できる事……だけど……


「ムッチャムッチャムッチャ……しかし、上手いでござるなこの鰻は」

「癖になるというか、また食べたくなるね」

「美味しーーーい!! これ、釣ったのってコバヤンでしょ!!」


 コバヤン……っぷ……笑っちゃいけない。うららさんに、コバヤンと呼ばれた小早川はいきなり立ち上がると、なぜか空を指さしてそう言った。


「そうです! 我です!! コバヤンです! うらら様にそう言ってもらえるなんて、わが生涯に一片の悔い無しッスーー!!」

「アハハハ、おもろーいコバヤン」

「デヘヘヘ……」


 こりゃもう駄目だ。小早川は完全に、うららさんの掌で転がされている。


「うらら、また鰻丼食べたいなー。なんて言ったら、釣ってきてくれる。もちろん、直ぐにって訳ではないけど」

「御意!! その時に申してくだされば、直ぐにでも!!」

「ありがとーー、コバヤン!!」

「デュッヘッヘッヘ」


 もう、なんだコイツ。鼻の下を伸ばしてデレデレして。そう言えば、初めて会った時にも、ミケさんに対してそうだった。そして美幸さんや海さんにも。


 こ、こいつ……もしかして単なる女好きなのか。もしくは、僕達よりも更に女の子に免疫力がないのか。さては、その両方か。


 ……


 まだうららさんにデレデレしている小早川を見て、カイと顔を見合わせて苦笑いする。毎日、絶望を抱いていたこの僕が、こんな瞬間があって、楽しいと思える時があるなんて夢にも思わなかった。


 今、この時間は凄く楽しい!


 鰻丼を食べ終わると、うららさんはスッと立ち上がって言った。


「ふうーー、満腹満腹。それじゃ、またーー」

「またーーって……え?」

「これからちょっと志乃の所に行ってくるの。もしかして、皆も一緒に行く?」

「それはもちろん……アイタタタ!! こら、何をしよるか! 有明氏!!」

「拙者らは、この後はちょっと予定があって……」

「そうなんだ。うーーん、そうだよね。カイ達も予定があるよね。この拠点に来たばかりだし、色々とね」


 確かにそうなんだけど、もうカイの事をカイって……僕がそう呼んでいたからなんだろうけど、流石うららさんだと思った。


「それじゃあねー」


 うららさんは手を振ると、鰻丼を堪能するなり三条志乃さんの所へ行ってしまった。明らかに怒っている小早川をカイがなだめた。


「だって落ち着かないでござろう」

「我はいついかなる時も落ち着いているぞ!」

「トロルに追われていた時は、悲鳴をあげていたはずなのに」

「ひっ! それはゆーでないわ!」

「じゃあ、これからどうしようか? 椎名さん達がコボルト討伐から帰ってくるまでまだ時間もあるだろうし」

 

 小早川が腕を組んで唸る。


「むーーー、我もリーダーと共にいざ()きたかった。さすればコボルトの十や二十、ちぎっては投げちぎっては投げ……」

「仕方ないよ。市原や池田、山尻も一緒だったし。正直僕は、市原達と一緒にいたくなかったし」


 僕のその言葉を聞いて小早川とカイも、俯く。3人とも市原達に、日頃から虐められていたのだから気持ちは同じ。


 変な空気になって、暫く沈黙した。鳥のさえずりと、パチパチと焚火の音がする。そこに唐突に誰かに声をかけられた。


「おはよう!」

『ひいいいっ!!』


 僕達3人は驚いて飛び上がるように声をあげて身体を硬直させた。


「ごめんなさい、驚かせるつもりじゃなかったんだけど……」


 河北和希。和希が僕達の直ぐ後ろに立っていた。彼は中学生だという。高校生の僕達とは歳も近くて、気が合いそうだと思っていた。それは彼も同じかもしれないと僕は思っている。


「朝ご飯食べた?」

「ああ、今食べ終わった所だよ」

「そう! じゃあさ、もしよかったらこれから南エリアに行ってみない?」


 南エリア。この拠点の新しい場所。有刺鉄線でエリアを囲ってはいるけど、ぜんぜん調査をまだしていないらしい。それってもしかして、冒険なんじゃ……

 

 小早川とカイの顔を見ると、二人共僕と同じく目を輝かせていた。これはもう――

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