Phase.218 『コボルト討伐 その1』
一人、また一人と殺される。しかも狙われるのは、心臓や首といった急所。一方的に襲われて殺されるヤンキー達は、悲鳴すらあげられずに絶命していく。
中でも、1匹2匹……今確認できるのは、他とは少し違う感じのコボルトが2匹はいる事が解った。
どう違うのか説明すると、まず装備が違う。そして周りにいる仲間に合図して、何やら指示を飛ばしているように見えた。
2匹は同格に見える事から、あれが1匹5万円の懸賞金を賭けられているやつだと思う。5万が3匹に、50万が1匹のはずだから。
しかしそれにしても……
市原軍団が次々と目の前で殺されているのに、こんな事を思ってと思われるかもしれないが、今まで見たことのないコボルトの素早い動きに驚いた。
大谷君達を救った時に、出くわしたコボルト。そいつらとは、まったくもって別物と思える程に強敵に感じる。優秀なリーダー格がいるというだけで、これほどまでに違うのか。それとも、ここに生息するコボルトが特殊なのか。
「ユキ君!! このままじゃみんな!!」
衝撃的な光景に皆、目を奪われて固まってしまっている中、大井さんが言った。
「早くなんとかしないと、皆……殺される」
「ああ、兎に角助けに行こう! だけどこの距離じゃ、もう市原達全員が皆殺しにされるのも直ぐだ。市原達は、まだコボルト共に襲われているとも思っていない。仲間が次々と殺されていっている事に、気づいていない」
「じゃあ、どうするんだよ!?」
翔太が、心配そうな顔で言った。あれほど、市原達を嫌っていたけど……だけど、目の前で人が殺されていたら……そうもなる。
仕方がない。こうなったら、単純な方法で俺達も危険に陥ってしまうかもしれないけれど、これしかない。市原達を救う手はこれしかないんだ。
俺は思い切り立ち上がると、思い切り息を吸い込んで、できる限りの大声で叫んだ。
「市原ああああ!!!! コボルトだああああ!! コボルトがいるぞおおお!! 仲間がやられているぞおおお!!!!」
声が森の中を響き渡る。鳥がその声に怯えて、バサササと飛んでいく。
だけどこれで、市原達に俺の声は届いた。今の状況を知らせる事ができた。でもそれと同時に、人を殺す事になんのためらいも無く、急所を一撃のもとに貫いてくるコボルト共に俺達の存在も知られてしまった。
一瞬、ここからどうやって逃げる……って思ってしまったが、今からそれはあり得ない。既に、死人がでているのだ。このまま引き下がれないし、そもそもここにはコボルトから逃げる為ではなく討伐しにきたのだ。
恐れおののくのは俺達ではなく、コボルトのはず。俺は続けて叫んだ。
「市原ああああ!! さっさと皆で固まれ!! コボルトは何十匹といて、こっそりとお前らに忍び寄って、単独でいる者を優先して狙ってきているぞ!! 皆で固まって、1匹に対して複数で攻撃するんだ!!」
俺の叫び声をきっかけに、両者が大きく動き出す。市原達は、仲間を呼んで俺の言ったように一カ所に集まり始めた。コボルトもそれを見て、市原達の方へ凄い勢いで向かって行く。
「で、でたあああ!! 犬だ!! 犬人間だ!!」
「ひ、ひいいい!! か、怪物!!」
ガルウウウウ!!
市原の仲間。皆から少し離れて行動していた者、足の遅かった者は、迫ってくるコボルトに四方から囲まれて、剣で切り刻まれた。
「ぎゃああああ!!」
「こ、この野郎!!」
「うおおおおお!!」
走る。そこへ、まず最初に俺と翔太とトモマサが斬りこんだ。
コボルトも武器の扱いには慣れている様子で、俺が力いっぱいに振った剣を、持っている武器で受け止めてくる。でも翔太が横から俺の対峙している相手を剣で突いてくれて、隙を作ってくれたので俺は思い切り踏み込んでコボルトを叩き斬れた。
そして後方から、北上さんと大井さんが放つ矢が次々に飛ぶ。それぞれの矢が別々のコボルトを射貫いた。
「そっちに懸賞金のかかっている奴がいた!!」
「よっしゃ、俺が行こう!!」
「頼んだ、トモマサ! 翔太と鈴森、北上さんも頼む。堅吾と大井さんは、俺についてきてくれ。市原達を助けるぞ!」
『了解!』
『解った!』
自分でも驚く位に、指示が出せていた。こんな状況でこれだけ出来れば、自分にしては上出来だと思った。
市原達の所へ助けに行くと、皆固まって武器を構えていた。
ウルフを相手にしていた時とは違って、皆怯えている。不良なんて中途半端な奴らは、ほとんどがこんな奴らだ。弱い奴にはとことん強いが、強い奴には震えて立ちすくむ。
いくら突っ張っていようが、ヤクザや国家権力に喧嘩を売る度胸もないのに偉そうにしてやがる。やっている事は、よってたかって弱者をいたぶる虐め。
これに懲りたら、もとの世界で迷惑をかけた行いに対して、少しでも反省してほしい。そんな事を思いながらも、俺は市原達にかけよって声をかけた。
市原は助かったとも邪魔をするなとも言い難い、複雑な表情で俺を見る。池田と山尻は、まだ戦闘は終わっていないというのに、俺達が来た事でもう助かったというような安堵の溜息を漏らしていた。
「椎名さん!! 助けにきてくれて、ありゃああっすう!!」
「モンタ!! お前、無事だったか!!」
どうやらモンタも無事だったようだ。でも、9人しかいない。あれほどいた市原の仲間……それがもう9人。コボルトにあっという間に10人も殺られてしまったのか。
「ほ、外の皆は?」
モンタの隣にいた奴が言った。俺と堅吾と大井さんは、モンタ達に背を向けると武器を構えて言った。
「それは後だ!! コボルトが襲ってきている。来るぞ、皆武器を手に戦え!! 決して油断するなよ」
言い放った瞬間、目の前にコボルト達が躍り出てくる。待ち構えていたとばかりに、大井さんのコンパウントボウから放たれた矢が、コボルトを貫く。
俺と堅吾もコボルトの攻撃に対して応戦しつつも、モンタ達の方を振り返って「戦えー!! 死にたくなければ手をかせえええ!!」と叫んだ。
モンタ達は、雄叫びをあげて俺達に加わった。だが市原、池田、山尻の三人は、その場に呆然と立ち尽くしていた。




