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Phase.217 『ヤンキーとコボルト』



 遠くから目を凝らして、市原達の動きを見ていると、鈴森が横からつついてきた。


「な、なに? どうしたんだ?」

「これ使え」


 双眼鏡。なるほど――流石は鈴森だ。「ありがとう」と言って、双眼鏡を受け取ると早速それを使って見てみた。


 なるほど。これは、いいものだ。よく見える。


 そう言えば、早朝にあれだけ視界を遮っていた濃霧はすっかり晴れている。


「おい、ユキーだけずるいって。俺の分は、俺の分は何処よ、ちゃんとあるんだろ、孫いっちゃん!」

「やめろ、こら!」

「ちょっと、静かにして二人共。コボルトに気づかれるかもでしょ。そしたら、あのヤンキー君達が危なくなるんだよ!」


 もう一つ持っていた双眼鏡で様子を見ていた鈴森に、それを貸せとばかりに喰いつく翔太。それで揉めていると、北上さんが二人に注意する。


 間も無くコボルトとの一戦があるというのに、なんとも緊張感に欠けるというか……リラックスさせてくれるというか……あはは。


 北上さんや大井さんも、もう俺にはかけがえのない仲間だと改めて思わせてくれる。

 

「へーーい、わっかりましたよー。美幸ちゃん、怒ると怖いもんなー。怒っている顔も可愛いけど」

「なんだそれ。俺はハッキリ言って、あの不良共がどうなってもいいと思っているけどな。むしろ、ここで何かあった方が、面倒ごとが一気に片付いていいと思っている」

「こらっ、鈴森! そんな事を言って、本当に何かあったらどうする。冗談でもそういう事は言うな」

「ッチ!」


 鈴森が冗談で言っていない事は解っていたけど、冗談で言っているという事にしておいた。


 俺だって、あの言う事をきかない生意気な不良共を疎ましく思っている。だけどそれで、死んでしまえばいいと思うのは流石にどうかと思う。


 だけど、鈴森が正しい正しくないは別として、そう……口の悪さや性格の悪さを別個にしても、俺も翔太と同じく鈴森の事を信頼しているし、俺にとっては大事な仲間なのだ。


 だから、さっきの鈴森のセリフ。気持ちは解るし、正直俺にとっては、あんなヤンキー共より鈴森が大切だ。だけど市原達がムカつくからって、完全に突き飛ばしてしまうのは駄目だと思った。


 大井さんが、俺の肩をポンポンと叩いてきた。振り向くと、大井さんは向こうを指さした。市原、それに池田と山尻。あいつら……いつも固まってやがるな。でも一応、警戒している素振り。


 市原達は全員で19人。本人達は、訓練なんてしたこともないし、作戦を考えてそれに基づいて行動している訳でもない。だけど自然と散開して、この森の遺跡のある場所をコボルトを探して見回ってた。


 北上さんが横にくる。反対側には大井さんがいて、美女二人に挟まれる形になりちょっと緊張してしまう。今はそんな時じゃないだろと、心の中で何度も自分に言い聞かせた。


「ユキ君。コボルト、本当にここにいるのかな?」


 ユキ君。北上さんや大井さんとか、女子にそう言われるとなんだかむず痒い。


 例えば未玖に、ゆきひろさんと名前で呼ばれるのは、なんともない……というか安心感みたいなもんすら感じる。だけど、異性として魅力的だなと意識してしまう二人に下の名前で呼ばれるのは、流石にまだ慣れない。


 俺はスマホを取り出して、画面を北上さんと大井さんに見せた。


「ほら。間違いなく近くにいる。あと何メートル先とか、そこまでは表記されていないけれど、間違いなくこの近くにいるよ。しかも森の中にこんな遺跡のような場所があるんだ。コボルト共は、きっとここらをねぐらにしているに違いない」

「そうだよね。でもとりあえずは、私達はここで待機していていいんだよね」

「ああ。とりあえずは、それでいこう。市原が邪魔するなって感じだったし。でももし、あいつらに何かあったら、俺達は飛び出して参戦するつもりだ。だから北上さんと大井さんには、俺達の後方から援護に回ってほしい。少し離れた所から、遠距離武器で援護してくれ。少しでも全体を見渡していてくれる者がいた方が、有利に戦えると思うし」

「うん、任せて」

「解ったわ」


 北上さんと大井さんは、頷いて俺の考えに賛成してくれた。


 再び双眼鏡を持つと、それで辺りを見た。


 ヤンキー、ヤンキー、ヤンキー……向こうにもヤンキー、あれはモンタか……それでもってあっちにもヤンキーがいて、その直ぐ向かいの木の所にコボルト……


 ええ!! コボルト!?


 俺は翔太や鈴森の肩を叩くと、トモマサや堅吾にも「あれを見ろ!」と言って指さした。


 全員がコボルトに注目した瞬間だった。向こうの先にいるコボルトが、素早く動き出して近くにいるヤンキーに接近する。ヤンキーは気づかずにあくびをしている。そして悠長にも背伸びをした刹那、後ろから槍で勢いよく突き刺された。槍は喉を貫通、さっきまであくびをしていたヤンキーは叫ぶ暇もなく絶命した。


 あまりにショッキングな光景に、翔太が叫び声をあげそうになったので、俺と堅吾が翔太の口を塞ぐ。鈴森が前に出る。


「あれを見ろ、わらわらと沢山出てきたぞ」


 一人やったのを皮切りに、周囲の木や岩、草陰からバラバラとコボルトがその姿を見せた。そして森の中で散開して、バラバラになって獲物を探している市原達に向かって行く。


 まずいぞ!! もっと解りやすい図式の戦いになるかもって思っていたのに、コボルトは声一つ発せずに市原達を殺す為に忍び寄ってきている。


 俺は腰に吊っている剣を抜くと、それを握り皆に市原達の援護に向かうと伝えた。そうすると、また市原はうるさく吠えるかもしれないけれど、このまま放っておけば間違いなく市原軍団は皆殺しにされる。


 それは、火を見るより明らかだった。

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