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Phase.215 『追い散らす』



 丘。その向こうに木々が見えた。そして周辺には、数十匹のウルフ。群れ。


 遠巻きにして、こちらの様子を伺っているけれど、一向に襲ってくる気配はない。きっと向こうもこちらを警戒している。翔太がウルフの群れを指さした。


「見ろ、()えーー! 20匹位はいるんじゃないか?」

「丘を越えて向こうに行きたいんだけど、丁度丘の上辺りを陣取っていやがるな」

「蹴散らすか、蹴散らしちまうか!! でもあいつら、とっくに俺達に気づいているだろうになんで襲ってこない」


 翔太がそう思うのも無理はない。まだ今の拠点が、小さくて何もなかった頃……ウルフには結構痛い目にあわされた。こちらを見ると襲い掛かってくるし、群れでいるし……俺も殺されかけたから、同じ思い。


 だけど流石にこの人数でいると、あの程度の群れなら迂闊に襲い掛かってこない場合もあるんだな。


 でもこれは、俺達の拠点にも当てはまる事なのかもしれない。俺達の拠点を拡張させ、強化して仲間を増やす事によって、魔物達も俺達の驚異に気づく。そうなれば、おいそれと簡単に襲い掛かっては、こなくなるかもしれない。


 結局、拠点にゴブリンが攻めてくる理由も、俺達の拠点をどうにかできると思っているからだろう。魔物にとって、俺達の拠点がとても危険な場所だという事を知らしめる必要がある。それが安全確保にも繋がる。


「それでどうする、ユキー。あの、ウルフを討伐するか? この人数ならあっという間にやっちまえるんじゃないか? だってこっちには美幸ちゃんや海ちゃんもいるし、トモマサや空手家ケンゴもいるしよー。あっという間に圧勝なんじゃねーの?」

「そうだな。どちらにしても、俺達のターゲットはもう少し北へ行った先。つまりあのウルフ達がいる丘の向こう側になる」

「そうか。じゃあ、ここはアレだな。追っ払うしかないな。ウルフを相手に戦闘開始だ」


 腕を捲って気合を入れる翔太。しかし、そんな翔太の気持ちを折るように、鈴森が指をさして言った。


「おい、ヤンキー共が突っ込んでいくぞ。いいのか?」

『うおおおーーーー!! いっけーー!! やっちまえええ!!』


 市原が俺達の会話を聞いていた。それで子分達に命令し、ウルフに向かっていかせた。不良共は雄たけびをあげたり奇声をあげたりしながらも、ウルフの群れに突っ込んでいく。総勢、19人。それぞれ棒やらナイフやら金属バットや木刀から……そう言えば、丸太小屋に、俺も最初に持ってきた木刀をおいていたな。こんな時なのに、それを一瞬懐かしく思う。


 翔太が騒ぎ始めた。


「あいつら勝手な事ばかりしやがってからにー」

「高校生だろ? 力が有り余っているんじゃねーか」


 ニヒヒと、トモマサが笑う。北上さんと大井さんは呆れている。だけど……


「折角だし、それならあのウルフはあいつらに任せようか」

『ええっ!?』


 皆、驚く。


「危険は皆、承知のはずだろ? あいつらもそれは解っているはずだ。それにただ飯喰らいはよくないだろ?」


 鈴森は、何度も頷いている。


「その通りだ。あいつらにも魔物と戦わせればいい。そうすれば、より早く学習して成長するさ。もとの世界では、調子にのって突っ張ってヤンキー気取って偉そうに生きていても、この『異世界(アストリア)』じゃ通用しないって事も理解するだろう。未成年者も老人も、男も女もここじゃ関係ないんだからな」


 そう言い放つ。


 俺が言いたい事。それは、この世界にはルールがないって事だ。あるのは、俺達自信が定めたルール。自分達でなんとかしなければ、誰も助けてはくれない。


 助けて欲しければ、自身も誰かに協力して力を合わせる。それしかない。


「うおーーー!! かかってこいやあああ!!」

「くおらあああ!! こい、こらあああ!!」


 ヤンキー共が丘の方へと走って行く。一斉に行動開始はしているものの、隊列というものがまるでできていない。一見仲間同士に見えても、チームワークはバラバラ。


 鼻息の激しい者や、足の速い奴からウルフのもとへ辿り着いていく。それが、もったいない。ちゃんと足並みをそろえて行けば、もっと効率的にウルフを圧倒して追い詰める事ができるのに。


 誰かが攻撃されて、負傷したり転倒したりしても、固まっていれば直ぐ隣に仲間がいるから、即座に救出する事もできるのに。


「うらあああ!!」

「こいつ、噛みつきやがった!! いてええ、この野郎!!」


 ブンブンと金属バットを振る奴。キレて素手で殴りかかる奴。いったい何を考えているのか――それでも19人って数は圧倒的だった。次第にウルフ共は圧倒されて、尻尾を丸めて逃げ始めた。


 市原の思い切り振ったバットが、1匹のウルフの身体を捕えた。吹っ飛んで横たわるウルフを、更に執拗にバットで叩く。狂気。


 でもそれは、野生の本能に普段から頼って生きているウルフ共にとってはかなり有効的だった。ウルフ共は、市原達のめちゃくちゃで狂気に満ちた攻撃に、恐れおののき四散した。


 丘の上で、バットを掲げて「俺達の勝利だ」とアピールする市原。それを見て囲んでいる他の不良達が、共に声をあげる。


「さて、そろそろ行こうか」


 市原達が占領した丘。そこに俺達も移動すると、市原とその仲間に向かって俺は「ありがとう、流石だ」と声をかけた。


 そして続けた。


「お前達の強さはよくわかった。でも気を付けてくれ。本番はここからだ。俺達のターゲットのコボルトという魔物は、あの森の向こう側……ここから少し行った辺りに生息していると思う。コボルトは人間のように武器も使うし、極めて危険な相手だ。油断するとやられるぞ。十分に気を引き締めてくれ」


 そう言って、コボルトのいる方へ指をさした。不良達は、ウルフの群れを追い散らしたからか、気が大きくなっていた。コボルトも同じようにやってやると、息巻いている。


 コボルトには、賞金首がいる。そいつらは逃がしてはならない。だからこいつら市原達にも、しっかりとそのことを理解してもらわなければならない……が、こいつらが果たしてちゃんと言う事を聞くかどうか……


 また今みたいに、勝手に行動するのではないか。そんな思いが脳裏をよぎった。

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