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Phase.213 『狂気 その1』



 市原率いるヤンキー軍団――もとい市原軍団は、市原を含めて19人。市原の横にくっついている何人かは、こいつの取り巻き。その中の池田と山尻は、市原と一緒になって、大谷君達を特に虐めていた奴らだ。


 まだこいつらは未成年だし、精神的にも成熟はしていない。だから、これまでの事に関しては、どうこうしたり説教したりはするつもりはなかった。


 だけど、俺のクランを脅かす連中は見過ごせない。俺のクランとは、言わずもがな俺の仲間と拠点の事だ。


 その仲間には翔太や未玖達の他に、既に大谷君達も入っている。つまり、市原達が大谷君達を虐めるという事は、もはやこの『異世界(アストリア)』においては、俺達『勇者連合(ブレイブアライアンス)』に危害を加えているという事になる。それをしっかりと、市原達に解って欲しかった。


「解ったか?」

「何がだよ」

「今話した事だよ。この『異世界(アストリア)』では、もとの世界とは違う。俺達に今後関わらないというのなら、何処で勝手にしてもいい。だが俺達と行動を共にするなら、俺達のルールに従ってもらうからな」

「ああ? いつ俺達が従わねえって言ったよ。お前らと上手くやりてーと思ったからこそ、ノーギャラなのにこうして怪物退治に総出で手を貸してやるって言ってるんじゃねーか」


 俺は、溜息を吐いた。


「ああ、てめえこそなんだよその態度! あんまし調子ぶっこいてんじゃねーぞ、おっさん!」

  

 こんな奴ら、いくら凄んできても微塵も怖くない。怖い経験ならこの世界で色々既に体験済みだし、例えこの人数を相手にしても、こちらには銃もあれば北上さんと大井さんのコンパウンドボウもある。


 いや、コテンパンにするならトモマサ一人で十分かも。不良達も理解していると思うけど、戦力は圧倒的にこちらの方が上なのだ。


 俺はスマホを取り出してアプリを起動。再度、目標のコボルトの位置を調べた。刹那、空から大きく恐ろしい鳴き声が聞こえた。


 ギュイイイイイイイイ!!!!


 全員、驚いてとっさに身を低くする。そして一斉に大空を見上げる。すると直ぐ近く、大空をジャンボジェット機のような巨大な鳥が一羽羽ばたいていた。


 それが何かは、スマホを向けて【鑑定】を使わなくても知っていた。ファンタジーゲームが好きなら、度々耳にする超巨大な鳥の魔物――ロック鳥。


 市原達はロック鳥のあまりのでかさに腰を抜かしてその場に尻餅をつく。


「な、なんだありゃいったい……」

「と、とんでもないでかさの鳥だ!!」

「うおーー、すげーー!! これあれだろ、知ってっぞ!! なんとかってゲームに出てくるモンスターだ。そうだ、モンワンだ!! モンスターワンダーだ!!」

「俺も知ってるぞ、それ! オンラインゲームで、プレイヤー皆で集まってモンスターを狩るんだよな。弟がそのゲームやりたいから買ってくれとかかんとかうるさくて、かーちゃんと喧嘩してたわ」


 皆、首と腰が折れるんじゃないかって位に大空を見上げて、あまりにも規格外の巨大な魔物、ロック鳥に目を奪われている。そしてそれは、俺達も例外じゃなかった。俺だって初めてロック鳥を見た。


 ――次の瞬間だった。


 俺達がロック鳥に目を奪われていると、いきなり市原が俺に迫ってきてぶつかった。


「なんだ!?」


 そう思った時には、もう市原の手には拳銃が握られていた。そう、俺の銃だ。長野さんや鈴森だけでなく、実は俺と翔太も銃を九条さんから購入していた。とりあえずは、必要無いと言っていたけれど、鈴森に決定的な事を言われてそれで考えを改めたのだ。


 銃が必要ないにしても、護身用に一つ持っていればそれで結果、未玖を守れる事もあるんじゃないかって。他の仲間にしてもそうだ。用心。だからハンドガンを一丁だけ購入する事にした。


 銃は高額で、使用する弾に関しても同じ。練習するからとか言ってバスバス使っていると、とんでもない金額になってしまう。だから本当に、護身用として。


 その銃が、今ぶつかった拍子に市原に奪われたのだ。俺は迂闊だったと自分を責めると同時に、ゾっとした。なぜなら市原は奪った銃を俺に、迷わずに向けたから。


「バーーーン……ってね。ハハ、ビビってやがんの!」

「おい! 今すぐ俺の銃を返せ、後悔するぞ!!」

「ギャッハッハ、後悔するってなんだよ。後悔するのはあんただろ、おっさん?」

「この野郎……」


 周囲にいた市原の仲間までもが、この想像だにしなかった展開に固まる。しかし動けなくなっているのは、それだけではなかった。


「おい」

「ああ?」


 鈴森の声。市原が振り向くと、鈴森と翔太が市原に銃を向けて狙っていた。同時に北上さんと大井さんも、コンパウンドボウを手に市原に矢の切っ先を向けている。その顔には、迷いのようなものはない。鈴森は、市原に冷たく言った。


「それ……引き金を引けば、後悔するのはお前だぞ。お前が馬鹿な事をすれば、俺達は迷いなく一斉にお前を射殺する。哀れみもなくな。そしてもしも俺達のリーダー、椎名に何かあればお前ら全員皆殺しだ。お前ひとり、馬鹿な事をしでかしたせいでな」


 目を細めて、何か考えている市原。市原の仲間達は、皆殺しだと聞いてじりじりと市原との距離を縮めていた。そう、親分が馬鹿な事をしたせいで、自分達もその責任を負わされる事を恐怖して。


 さて、どうする市原。俺もこんな所で死にたくない。お前だって死にたくはないだろ?

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