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Phase.210 『ムキになる』



 市原は、睨みながらもこちらに近づいてくる。俺の前に堅吾が出て、市原を睨みつけた。


「なんだ、おっさん。やんのか?」

「ああ、なんだその口の聞き方は! もっぺん言ってみろよ!」

「あーーー、もうやめろって! やめろ!! それ以上もめるなら、市原……お前ら全員ここから追い出すぞ」

「絡んできたのは、こいつだろ?」

「このガキ……」

「ああーー!! だーかーらー、堅吾もやめろって! このクランのリーダーは誰だ、堅吾!」

「え? それは幸廣さんッス!」

「それじゃ、俺の言う事を聞いてよ。お願いだから」


 そう言うと堅吾は、ようやく落ち着いてやや後ろに下がった。実際、堅吾と市原が喧嘩になりでもしたら、空手の有段者でありゴブリンとの戦闘経験もある堅吾の圧勝だろう。だけど暴力にものをいわせるのは、決して好きではない。


「市原、お前もだ」

「ああ?」

「それだ、それ。一体何が不満なんだ?」

「俺達を、いつまでこんな所に隔離しておくつもりだ?」

「隔離はしていない。俺達はお前らを助けてやってるんだ。見て解るだろう? 水や食料、それに傷の手当てもしてやった」


 市原は唾を吐くと、俺を睨んだ。これは確かにムカつく。堅吾の気持ちが解る。でも近くで俺と堅吾がムカついているけど……そんな我慢している姿っていうのが、よほどツボにはまったのかトモマサはずっと笑いを堪えている。あのやろー。


「あああ? なんだそりゃ、隔離してんじゃんかよ!! こんな狭い所にずっと閉じ込めやがって!!」

「誤解しているようだから、はっきり言ってやる。隔離もしていないし、閉じ込めてもいない。なんなら、出て行ってもいいんだ、俺達は誰も止めない。外へ出ていく扉は開いているからな」

「なんだと? じゃあなんで……」

「この拠点は俺達が造った!! 俺達のものだ!! お前達のものじゃない!! そうだろ? なぜ、お前達が俺達の領土に入る? それが当然だと考えられるんだ?」


 …………沈黙。


 はっきりと言ってやらないと、理解しない。いや、理解しているのかどうか。兎に角、不良なんてものは、自己中で至る事に反発して生きている、精神的にも成熟していない未成年者達だ。こういう奴らは特にちゃんと言ってやらないと、いつまでたっても解らないんだ。


 俺は大きな溜息を吐くと、19人の不良共に向かって言った。


「もういい、俺達も忙しいんだ。お前達を救ってやる余裕も暇もない。だけど救ってやった。その仕打ちがこれだ。なら、俺達もお前達に対する接し方を変える。今すぐここを出て行け。外は霧に覆われているがそんなの関係ない。さっさと出て行け。嫌なら、無理やり放り出す。そしてこの拠点にそれでも近づくような事があるなら、今度は敵意があるとみなして攻撃する」


 心の中で、攻撃するって所は鈴森とトモマサがな! ってつけ足した。でもここまで言ってやらないときっと何も変わらない。


 ここは日本でも、もと居た世界でもない。だから俺が思う正義に基づいて行動をする。俺の正義は、俺の大事なものを守るための事に直結している。大事なもの、それは俺の仲間だ。あと、この場所。


 今度は俺が強く市原を睨みつけると、彼は少し後ろへ後ずさった。それを目の当たりにした不良共の一人、門田問太郎こと、モンタが土下座をした。


「すいませんっした!! 椎名さん、すいませんっした!! どうか、どうか助けてください!!」


 モンタ!! お前……


 モンタの土下座を皮切りに19人の不良共のうち、一人二人とそれに続く。


「別に俺は、俺にへりくだれって言っているんじゃない。何かをしてもらったら、ありがとうって言うのは当然の事だし、何かをして欲しいならお前らも協力できる事を協力してくれって言っているだけだ。どうだ? ちゃんと思いやりと優しさをもって、相手とつきあえるか? 言っておくがお前らのは、つっぱりでもなんでもないし、ただ人に迷惑をかけているだけだぞ。この世界はあまくない。そういう奴らとは、俺達は関わらない」


 市原とその取り巻き数人を残して、ほぼ全員がその場に座り込んで謝った。


「お前はどうする、市原? 別にここから出て行っても止めはしないし、何処かへ旅立つなら食料と水、薬なんかは分け与えてやれるが。それでもつまらないプライドが邪魔するなら、それを受け取らないも自由だ。勝手にすればいい。だけどこの拠点内に入る事と、近くをうろつく事は許さないからな」


 ここまで言ってようやく市原は、項垂れた表情を見せた。俺の方が圧倒的優位な立場であり、この『異世界(アストリア)』では市原達の運命さえも変えてしまえると気づいたのだろう。


 そう、もし俺がとんでもない悪人で、ここで市原達ともめて、不幸な事故を起こしてしまっても、何も罪には問われない。ここは日本でもないし、俺達の生まれ育った世界でもないのだから。ルールは俺達が決める。


 ようやく頭を下げた市原は、力なく言った。


「解った……それで……どうすればいい? どうすれば、いいんだよ」

「簡単だ。お互い協力するんだ。『異世界(アストリア)』は危険な世界だ。俺達で仲たがいなんてしていたら、あっという間にこの世界に喰われてしまうぞ。だから、そうならないように協力するんだ。まずは自分でできる事を探せ。皆の役にも立つことだ」


 そう言て市原達不良軍団を、拠点に入れないように仕切っていた柵を動かした。


「入っていいのか? 中へ入っていいのか?」

「ああ、でもいくつかルールがある。問題を起こせば、すぐに出て行ってもらうからな。あと、市原とその周りの奴。お前達は拠点内で、大谷君や小早川君や有明君を見かけても近づくな。もとの世界じゃ、虐めていたんだろ? とりあえず、それから約束しろ」


 市原の返事で、不良共全員の運命が決まる。そう思った他の不良達は、市原が変な事を言わないか睨みつけた。市原は、頷いて俺の言った事を理解した。


 俺は不良達19人に、ちゃんとルールを守るなら拠点内を自由に移動してもいいと伝えて、受け入れてやった。

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