Phase.21 『物置』
――腕時計を見る。18時51分。
なんだかんだしていると、あっという間に時間は過ぎる。
焚火に薪をくべると、ボワッと炎が舞った。
焚火をそのままにして小屋に入る。これがあるだけで、小屋の周りは十分に明るいし、その周囲はやはり少し暖かい気がする。
あとここは、自然が溢れる森のど真ん中。だから特に意外な事ではないかもしれないけれど、辺りには虫が多く先程焚火を離れて小屋の周りを歩いてきただけで、数ヶ所蚊に刺されていた。焚火で発生する煙は、虫よけにもなっていいのだ。
大手ネット通販サイト『jungle』で購入したランタン。LEDのものもあったけど、なんとなく雰囲気を優先してしまってオイルランタンを購入してしまった。でも、後悔はしていないしどちらかというと正解だったと思っている。何て言っても雰囲気がいい。
ライターを取り出し、ランタンに着火する。すると、ランタンは、とんでもなく色気のある灯りで小屋の中を照らした。ランタンを、綺麗に拭きあげて清掃したウッドテーブルの上に置く。うん、これはいい。
小屋内にあるものは、全て専用の洗剤を使って綺麗にした。実家でも母親が良く使っていた掃除用洗剤で、除菌効果もある。まあ一応、最初にここへ来たときにこの小屋の汚さを目にはしていたので、それとは別でアルコール除菌剤や漂白剤なんかも持ってきた。
大きなザックに加え、両手が千切れそうになると思いながらも持ってきたバックから、色々な物を取り出す。それを小屋内の棚とか収納スペースにそれぞれ置いた。
寝室のベッド――マットレス、そしてその上に乗っていた汚れた布団。野球のボール位の大きさのダニが、何匹もくっついていて恐怖した。布団も表に出して捨てたから、寝台のみになったけどそこへ寝袋を置いた。今日からそこを寝床として、この部屋で眠るのだ。
そして、次に向かった先が調理場っぽい小さな部屋。一応部屋にはなっているけど、リビングっていうのか小屋に入って直ぐのメイン部屋の奥にオマケ程度についているスペース。そこに設置されている棚にも、持ってきた缶詰やカップ麺、レトルト食材や調味料、食器などを並べて置いた。
こうなってくると、このひとけが無くなって随分と経っているだろう丸太小屋にも生活感が帰ってきた感じがする。これからもっと、ここを居心地の良い場所にしていこう。そう何度も思いながら、頷いて回った。
椅子に腰かける。最初にこの小屋に来た時に、狼から身を守る為にこの椅子を扉の前に積み上げた。あの時、狼に襲い掛かられ負傷までしていたのに、よくあれだけ足掻いて動けたなと今更ながら思う。自分を称賛してあげたい。
ランタンに目を移す。照らし出す灯りで、物置のドアが目に入った。そう言えばこの小屋の物置をまだ調べていなかった事を思い出した。掃除中に、ちらっと開けてみたけど中には色々な物が詰め込まれ入っている。
「気になるな……ちょっと見てみてもいいかもしれないな。なんて言ってもここは異世界なんだし、ひょっとしたら面白い物が出てくるかもしれないし」
伝説の剣が……って事は流石に無いにしろ、魔法のアイテムとかそんなのが入っている可能性もゼロではない。なんと言ってもここは、異世界なのだから。スライムだっていたし、現に襲われた。ここは、ゲームやアニメなんかでも登場する異世界――そこに俺はいる。
物置への扉を開き、中を確認する。色々なものがあるけど、少し肩透かし。どれもガラクタって感じだ。不要になった物をとりあえず詰め込んでいる――そんな感じだ。
「なんだこりゃ」
棒のようなものが何本もある。それを掴み、引っ張り出そうとしてみる。しかし、先の方が何かにつかえてて簡単には引っ張り出せない。目の前にある鍋や桶や端材を表に出す。もう一度、棒を掴んで引っ張り出した。
「これは、斧か!!」
何本もの斧が出てきた。刃が欠けているもの、錆びているものや刃の部分がグラグラしているもの。しかし、使えそうなのもある。こんな数の斧がなぜこんな所にしまってあるんだ?
大きいサイズの……そう、異世界で例えるなら如何にもドワーフとかが使っていそうな斧……もしくは、木こり。
…………!!
「木こりか!! なるほど」
はっとした。これだけの丸太小屋、なぜこんな森のど真ん中にポツンとあったのだろうかと考えてはいたけど、こういうことかもしれない。
ここは、かつて木こりが暮らしていた小屋なのだ。ずっと住んでいたのか、もしくは伐採作業をする時にだけ利用していたのかは解らない。だけど、使っていた。そう考えるとこんな森の中に立派な丸太小屋を建てる事ができた事と、これだけの斧が物置にしまってある理由も解る。
もうこの小屋は何年、いや何十年も放置されている感じだし、今となっては真相は解らないかもしれないが、そんな所だろう。
斧を全て表に出すと、物置の奥にちらりと気になる木箱が見えた。他にもいくつか木箱はあるけれど、少し他のものに比べて立派な感じがする。今度はそれを表に出して調べてみた。
「鍵がかかっているな。これはちょっとお宝のニオイがするぞ」
ぬかりはない。工具もちゃんと準備してきてある。木箱をウッドテーブルに乗せた後、金槌とペンチを持ってきて隣に置いた。そしてペンチで錠前を押さえて固定すると、金槌の釘抜きの部分を使って強引に鍵を潰して開けた。
「うう、これは緊張する。まさか、金貨とか宝石とか出てくるんじゃないだろうな。魔法のアイテムでもいいけど」
金目の物が出ても、この世界に街や村があればいいけど、もとの世界には持っては帰れない。この異世界『アストリア』にもとからあるものは、もとの世界へ持って帰る事ができない。だとすれば、魔法のアイテムだとかこの異世界で価値があって役に立つものが入っている方がいい。
ギギギ……
木箱を開けて中を覗き込む。すると、中に何やら青い液体の入った瓶が5本も入っていた。それを1本手に取り、呟く。
「こ、これって、異世界もののゲームやアニメでよく見るやつ……旅やダンジョンのお供には必ず御守り代わりとして持っておくといい奴だよな」
液体の入った瓶。至る角度から、眺めて見た。やっぱりこれは……




