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Phase.209 『騒ぎ』



「今日は、チームを編成して例の懸賞金の賭けられたコボルトを狩りにいくんだったな」

「はい。行きます。運営からスマホに送られてくる情報で、だいたいの距離と方角が解りますし、意外と近くにいる感じです。ちょっと待ってください……ほら、俺のスマホを見てください。俺達のこの拠点から1キロ程北に行った所に、そのコボルトはいると思います」

「ふむ。50万の奴が1匹と5万の奴が、3匹じゃったか」

「ええ、トータル75万ですね」


 未玖が、長野さんのオーダーを運んできた。彼のテーブルに「お待たせしました」と言っておくと、長野さんは満面の笑みで、未玖に「ありがとう、とても美味しそうだ」と言ってまず珈琲を飲んだ。


「長野さんも一緒に来てくれますか?」


 直ぐには答えてくれない。いや、今トーストを食べ始めたからだろうか。


「それは、決定かな?」

「いえ、コボルト狩りに行くことは決定ですが、行く行かないは個人の自由です。でも行かない者は、俺達が留守の間……この拠点を守っていてほしい。あと、何かあった場合……」

「ふむ、もちろん助けに行こう」

「じゃ、じゃあ、長野さんは一緒には来ないんですね」

「今回はやめておく。じゃが、この拠点にはおるし、椎名君達に何かあったと解った場合、救助には行かせてもらおう。だから心配はするな」


 長野さんはそう言って、笑った。


 長野さんは俺に比べて、いや……俺達のクランではズバ抜けてこの異世界の事を知っている。ベテランだ。


 だから本当の事を言うと、一緒に行動したい。だけど一緒に来てもらえなくても、仲間である事には違いないし、拠点にはいるんだ。俺の留守中、もしもまたゴブリンなんかが襲ってくるような事があったとしても、未玖達を守ってくれる。


「解りました、それじゃ俺達だけで行ってきます」

「くれぐれも十分に気を付けて、行っておいで」


 長野さんと一緒に未玖もこちらを向いて、同じような眼差しで俺を見つめた。未玖も心配をしてくれている。


 だけどこれは大きな第一歩。懸賞金で稼げると証明できれば、少なくとも俺はもとの世界で勤めている今の会社を辞めて、完全にこちらの異世界へシフトできる。そうなれば、翔太も俺と同じ風になるに違いない。


 俺と翔太がこっちの世界にいる事が長くなれば、未玖だってもっと安心してくれるし、この拠点も守りやすくなる。


 俺はカップに残った珈琲を飲み干すと、立ち上がった。


「それじゃそろそろ狩り……っていうか、討伐か。コボルト討伐の準備をしようかな」

「何かあったら直ぐに帰ってきてくださいね、ゆきひろさん」

「ああ。未玖も今日は、あまりバリケードには近づくな。拠点内でも、三条さんとか不死宮さんとか誰かと一緒に行動するようにしろ」

「うん」


 朝起きてからずっと周囲に立ち込めている霧が、不気味だった。『異世界(アストリア)』は、まだまだ謎に包まれた世界。長野さんがさっき言ってくれたように、十分に用心して行動をしないと。


 未玖の店に、未玖と長野さんを残して俺は草原エリアを再び歩き出した。すると呼び声。


「おおーーい!」

「なんだ? 今日は皆、早起きだな」


 翔太と、松倉君だった。


「早いな二人共。それで、どうした?」

「市原達だ。あの不良共、また騒いでやがって。うるせーっつったんだけどよ、なんてったって19人もいやがるからよー、うっせーのなんのって」

「鈴森は?」

「孫いっちゃんいたら、ガツンって言って大人しくさせてくれんだけどよ、そうなると川エリアが手薄になるだろ? だから孫いっちゃんは、川エリアの方に行っているよー。俺も一緒に行って、そっちで焚火でもして酒でも飲みながら、ゴブリンが襲ってこねーか携帯ゲームでもしながら見張りしたいんだけどなー」

「それは見張りじゃねーだろ、何処の世界に酒飲んだりゲームしながら見張りする奴がいるんだよ。まあ、いいや。それじゃ、今から市原達の所へ一緒に行こう」

「ちゃっす! ユキーさん、お願いしまっす!!」


 こういう面倒ごとが発生した時の、翔太の調子の良さといったらもう……はあ……溜息が出た。


 



 

 俺と翔太と松倉君。霧の中を駆け抜けて、草原エリアの片隅に急遽作った市原達不良軍団を入れておく為のエリアまで走る。


 到着するやいなや、少し離れてても市原達の不満の声が聞こえてきた。霧で良く見えなかったけれど、近づくにつれて市原達や、その市原達と会話していた北上さんにトモマサに団頃坂さん、堅吾の姿が見える。


「だから言っているでしょ! 水も食べ物も用意してあげているんだから、ここで大人しくしていなさい!!」

「うるせー、女が出しゃばんな!!」

「そうだそうだ、ちょっと可愛いからって生意気な奴め!!」

「いいから、パンツ見せろ! そしたら大人しくしてやんぜ」

『ギャハハハハハ』

「このヤンキー共!! めちゃくちゃ腹立つんですけどー!!」


 北上さんVSヤンキー軍団。トモマサは、それを見て大笑いしているが、他の皆は顔を引きつらせている。まったくもう……俺は慌てて北上さんに近づいた。


「あっ、椎名さん! ちょっと聞いてよ、こいつら私の事を女がでしゃばるなとか、パンツ見せろとかそういう事ばかり言って来るんだけど!! ちょーー腹立つ!! ちょっとコンパウンドボウで、矢を撃ち込んじゃっていいかな?」

「まあまあまあ、ちょっと待って。市原、そこにいるか?」

「ああ、いるぜ! なんだよ?」


 今にもキレて弓を乱射しそうな北上さんを落ち着かせ、俺は不良共のリーダーである市原を呼んで話をつける事にした。

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