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Phase.208 『モーニング』



 暫く椅子に座ってポケーーっとしている。その間、未玖はせっせと俺が注文したモーニングセットの準備に取り掛かっていた。


 頑張って、ちょろちょろとせわしなく動き回っている未玖を見て、自分が微笑んでいる事に気が付くと慌てて小屋……もとい、店の外へ視線を移した。


 霧。霧で視界が悪い。


 そんな事を思っていると、はっとした。視界が悪いという事は、もしも魔物がこの拠点を襲いにやってきたとしても、気づかない。


 まったく知らないうちに、魔物共の侵入を許してしまうかもしれない。先日、ゴブリンの群れに強襲された事を思い出すと不安がつきまとう。


 一度、拠点のバリケードを全部見て回った方がいいな――


 でも今日は、未玖も言っていたけど計画を遂行する日なのだ。


 俺はスマホを取り出すと、画面をタッチした。すると、とある魔物の姿が映し出される。


 コボルト……同じ人間という種でもそういう奴がいるように、同じコボルトという魔物でも、その中に凶悪な奴がいたりもする。それが今、ここに映し出されているコボルトだ。


 こいつは、ここから1キロ圏内にいるという情報が付け加えられていて、方角まで表記されている。更にこいつを倒せば、俺達に転移アプリを売った運営から、懸賞金が頂ける。


 気になる金額は50万円。因みにこのコボルトには、他に3匹の仲間か子分がいて、同様に1匹5万円の懸賞金がかけられていた。


 つまりこいつらを倒して運営に報告すれば、口座に合計75万円も振り込まれるという事なのだ。


 …………


 これはでかい。もちろん、金額がという事ではない。これでもし、さっと稼ぐ事ができれば、懸賞金のかかっている魔物退治は俺達の大きな生業にできる。


 当然一人で倒す事なんてできないけれど、もし一人でこのレベルの魔物を討伐できたとしたら、この一回だけで75万円も稼げるという事。


 それが立証できれば、俺は今の安月給の仕事をいつでも辞められる。そしたら、俺は好きなだけこの『異世界(アストリア)』にいる事ができて、いつでも未玖の側にいて彼女を守る事もできる。


「ゆきひろさん、お待たせしました。モーニングセットです」

「おお、ありがとう。それじゃ、頂きます。って、これは、えらいうまそうだなー!」


 ホットコーヒー、トースト、サラダ、ゆで卵。因みにトーストは、二枚分にしてもらった。今日はなんせ、コボルト狩りに行くのだ。その位、食べておかないとちゃんと動けないだろう。


 モシャモシャと食べる。早朝に飲む未玖の入れてくれた珈琲は、絶品の味がした。そしてゆで卵に手を伸ばすと、未玖がにこりと笑って言った。


「その卵、コケトリスの卵ですよ」

「え? ええええ!!」


 ぼーーっとしていてちゃんと見ていなかったけれど、よく見ると確かに卵にうっすらと斑模様が入っている。


「こ、これ食べられるよね?」


 未玖は口元を抑えて笑いを我慢している。でも何度も俺の質問に対して頷いて見せた。つまり、この卵は食べられるって事だ。いや、食べられるのは、予め解っていた。だから聞きたかったのは、正確には問題なく食べられるってこと。味。


「そ、それじゃ頂きます……パクリ……モッムモッムモッム」


 ごくんっ


「ど、どうですか?」

「美味い!! これは美味いよ!! 普通の鶏の卵よりも濃厚で、味が凄いしっかりとしている。これはいいものだ」

「……良かった……です」

「未玖はもう食べたのか?」

「はい、頂きました。コケトリスの専用の小屋も森路エリアやこの近くにも作ったので、追いかけたり探さなくても卵を見つける事が簡単になりました」

「そうか、そうか。なるほどな。未玖もやるもんだなー、もぐもぐ」


 早すぎる朝食を楽しみながら未玖との会話を楽しむ。褒めると未玖は直ぐに赤くなって、とても嬉し恥ずかしい表情を見せるので、ついつい褒めてその顔を見たくなってしまう。


 珈琲にまた手を伸ばすと、渋い声が聞こえてきた。


「おおーー、おはよう!」

「あっ! おはようございます!」

「おはようございます、長野さん! まだ4時ですよ。早いですね」

「ハハハハ、椎名君と未玖ちゃんだって早いじゃないか。それに……いい匂いだ。もしかして、もう未玖ちゃんのお店はオープンしていたりするのかい?」


 長野さんはそう言って、俺が手を付けているモーニングセット覗き込む。


「は、はい! 今日はもうオープンしています!」

「そうか、それじゃ儂もモーニングセットと、淹れたての美味しい珈琲を頂こうかな」

「えっと、モーニングセットなんですが、トーストとサンドイッチがありまして」

「うむ、それじゃトーストセットにしよう」

「かしこまりました」


 未玖は長野さんからオーダーを受けると、直ぐに朝食を作り始めた。


 長野さんの未玖を見る目は、まるで自分の孫娘でも見るかのよう。にこにこと知ってか知らずか笑顔になったまま、近くの席へ「どっこらしょ」と言って座り、被っていたフェドーラ帽をとってテーブルの隅に置いた。


 それで思った事は、長野さんの被っている帽子がインディー・ジョーンズの帽子みたいだなって事と、それで露わになった長野さんの白髪。身体は筋肉隆々なので、実年齢よりも遥かに若くは見えるし、髪もフサフサで若々しい。白髪は逆に、ワイルドで渋く見える。


 俺も歳をもっととったら、長野さんみたいになりたいなって思った。


「長野さん、こっちの席には座らないんですか?」

「ハハハ、折角広々としているんだし、お客様は今のところ儂らだけじゃ。のびのびと使わせてもらおう」

「確かにそうですね」


 何気ない会話をしている間も未玖は、せっせと長野さんが注文したモーニングセットを作り上げていく。


 長野さんは、霧の発生で真っ白になってしまっている辺りを見回しすと、今日俺達が行う計画についての事を聞いてきた。

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