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Phase.203 『不良共』(▼椎名幸廣)



 草原エリア――――20人近くも少年が、俺達の拠点に押し寄せていた。


 しかも全員如何にもって感じでガラが悪く、一言で言うと不良という奴らだった。そいつらは、俺達の拠点を見つけるなりこちらに寄ってきて、拠点の中へ入れろと言ってきた。


 それでとりあえず、長野さんと鈴森と成田さんと団頃坂さんが対応してくれていたけど、不良少年のうち一人が、無理やり中へ入ってこようとして、鈴森ともみ合いになりかけた。


 それで熱くなった不良少年の一人が、鈴森につかみかかり、鈴森はそいつを投げ飛ばした。


 騒ぎは大きくなり、他の不良少年たちも熱くなって、バリケードを乗り越えてこようとした。すると、そこで不良少年の一人が有刺鉄線で太腿を深く切って出血したのと、トモマサと堅吾が応援にきてくれてそれでその場は収まった。


 一番効果的だったのは、やっぱりこの二人を見た時の不良共の目。堅吾の鍛え抜かれた身体は、それだけで何か格闘技をしている身体って一目瞭然だし、現役プロレスラーのでかい身体をしているトモマサの登場はそれだけで不良共を圧倒した。


 不良達は喉の渇きと空腹、そして魔物に追い回されたのかボロボロになっていた。手に持つ金属バットなどの武器は血だらけ。顔も泥だらけだった。


 そして一旦落ち着くと、彼らは水と食料の提供と怪我人の治療を要求してきた。


「おい!! こっちは怪我人もいるんだぞ!! なあ、中に入れてくれよ!!」

「早く入れろっつってんだろ。いい加減、言う事をきかねーと後悔する事になるぞ」


 このセリフを聞いて、俺は前に出ると不良共に言って聞かせた。


「今の言葉は、完全に高圧的なものだ。自分達の思い通りにしてもらえないんだったら、俺達に危害を与える。そう言っているように聞こえるが……」

「それがどうした? 俺達は20人近くいるんだぜ。しかも見ての通り、喧嘩も得意だ。俺達を怒らせると、ろくな事にならないぜ。へへへ」


 不良はそう言ってポケットからバタフライナイフを取り出すと、俺達に見せびらかした。俺達はそんな不良少年を、死んだ魚のような目で見ていた。


 呆気にとられているだけなのに、すっかりビビッて動けなくなっていると勘違いしている不良達。鈴森は腰に差していた拳銃を取り出すと、それが本物だとも言わずにいきなり地面に向けて一発撃ってみせた。


 ダアアアン!!


 言葉を失う不良共。今度は俺が前に進み出て、また不良共に話しかけた。


「見ての通りだ。俺達は、これまでゴブリンやウルフとか、魔物とも戦闘を何度かして命のやり取りを既にしているし、こういうものも持っている。だから君達が、いくら俺達にすごんできても問題はない。しかもここは日本でもないし、危険を感じれば断固たる意志で対処させてもらう」


 押し黙る不良共。その中から、一人進み出てくるものがいた。


「解った。ちゃんと、あんたらルールには従うよ。だから水を……食いもんをわけてくれ。怪我人の手当ても頼む。この通りだ」


 どうしようか。この手の人間は、未成年だからと言っても、とんでもない事をしでかす。異世界(ここ)へは来たばかりのようだし、小早川君達と歳も近いようだが……全く違うタイプ。


 長野さんと、成田さん、そしてトモマサの顔を見た。とりあえず、誰かの意見が聞きたかった。


「こう言っているしな、もし何かあっても儂らには銃があるし、なんとか助けてやれないか? なんなら儂が彼らを見張っているが」

「僕も長野さんに賛成です。いくら『異世界(アストリア)』に法律はないといっても、僕らにはルールがあるでしょ。僕は椎名さん達に会って仲間に入れてもらった時に、優しい人達だったからとても良かったと常々思っているよ」

「中へ入れてもいいんじゃねえか。でもちゃんと、檻に入れておいた方がいい。それでもオイタをするってーなら、俺がきついお灸をすえてやるしな。不良のガキ20人位、なんかあっても俺一人でもどーにでもなるしな。ユキの判断に任せる」

 

 ふーむ。皆、助けてやろうと言っている。


 確かに、もう日も落ちて夜になってしまっているし、暗闇の中飢え死にしそうなこいつらを外へ放り出すというのも気が引ける。


 このまま女神像に突っ込んで、もとの世界へ帰してしまうという手もあるが、そうすればこいつらは元の世界からいつでも好きな時に、この拠点内に女神像を通じて入り込めてしまう。


 少年でもぞっとするような凶悪犯は存在するし、悪人がかっこいいと思っているような奴らを、例え子供でも拠点内でうろつかせたくはない。特に俺や翔太が不在の時、ここには未玖もいるし不安が尽きない。


 でも……


 俺は溜息をつくと、彼らに言った。


「お前らのリーダーは誰だ」

「俺だ、俺がリーダーだ」


 さっき頼むから中に入れてくれと願い出てきた少年。髪の毛も染めていて、耳にはピアス。服装も明らかにヤンキーそのものだった。


「名前は?」

「市原だ。市原大那」

「そうか、じゃあ市原。この草原エリアにお前たちの休める場所を用意する。そこは仕切らせてもらうし、そこからこちら側には勝手に入らないでもらいたい。その約束ができるなら、食料も水も用意するし怪我の手当てもしてやるけど……その条件をのむか?」

「解った、のむよ」

「解ってくれて良かった。それじゃ、場所を用意するから、もう少しだけ外で待っていてくれ」


 皆に市原達の休める場所を作ってやろうと指示を出して、その作業に移ろうとした。その時、市原が俺を呼び留めた。


「そうだ、一つ聞きたいんだがよ。ここに俺らくらいの奴で、大谷って奴がきてねーか? 他に小早川って奴と有明っていう奴もいて二人は小太りだ」


 やはり、知り合いか。だけど答えていいものか悩む。


 なぜなら、どうみても市原達はガラの悪い。典型的な不良で、大谷君達は如何にも気が弱そうな感じだったからだ。

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