Phase.201 『拠点内の拠点 その2』
拠点の南側エリアが凄く気になっていた。
一応そこは拠点内だとは言うけれど、有刺鉄線などでバリケードを作ったのはつい先日の事だと話していたし、その際にそのエリア内にいた動物や魔物などもそのまま取り込んでしまっているとの事だった。
一応椎名さんや秋山さんや鈴森さんが調べて回り、危険な魔物がいないだろうという事は確認しているらしい。
だけどまだ100%大丈夫だとは言い切れないとの事だったので、どうしようかと悩んだ挙句、森路エリアに僕らのテントを設置する事にした。
森路エリアは、もとの世界へ戻る為の女神像がある草原エリアから丸太小屋のあるスタートエリアや、川のあるエリアへと行く途中のエリア。
気になっている南側のエリアとも隣接はしているし、何よりテントを張る場所も自由に決めて、また移動したくなれば自由に引っ越してもいいとの事だったので、僕と小早川とカイは3人でこの森路エリアに、とりあえず自分達の拠点を作る事にした。
テントを移動させて3人それぞれ近所に設置する。僕も人の事はいえないけれど、小早川とカイは僕よりも太っているので、テントを運んできて設置するという作業をして、かなり疲れている様子だった。それとカイは、コボルトに胸をナイフで突きさされてその傷がまだ癒えていない。
それに気づくなり、僕と小早川はカイのテントの設置を手伝った。
「良継殿、小早川氏。かたじけないでござる」
「ぜえぜえ……はっはっは!! まあ我に任せよ。テントの一つや二つ、ものの数ではないわ。はあ……はあ……」
「困った時はお互い様だし、協力していこう。それより、暫くここを僕らの家にするとなると、焚火場所とか何かを調理する場所とか、色々作らないといけないよね」
「ふむ。しかし、今まで我も自慢ではないがインドア派であったからな。こういうキャンプのような事をするのは楽しいものだな」
「しかもそれが拙者らの大好きな異世界なら、尚更でござるよ」
3人で頷いて笑い合っていると、辺りが暗くなり始めた。徐々に周囲が見えなくなり、お互いの顔も解らなくなってくる。時計を見ると、針はすっかり18時を回っていた。
「どうしよう、暗くなってきたね」
「灯りが無いと、そのうちここは本当に真っ暗になってしまうでござるよ」
森路エリアは、草原エリアとスタートエリアの中間に位置する森。つまり僕らは今、草木が生い茂る森の中にいる。暗くなれば、ここは月の光も届かなくなり闇に包まれる。だから少しでもまだ周囲を見る事ができる今のうちに、灯りを作っておかなければならないと思った。
秋山さんにもらったライター、それを取り出した。
「よし。じゃあカイは、ここにいてくれ。それで秋山さんからもらったこの薪とライターで、焚火を熾してくれ。小早川君は一応、予備の薪を探してきて。僕は、ちょっと何か食べ物をもらえないか、椎名さん達の所に行ってくる」
「確かにまたちょっと、お腹が減ってきたでござるな」
「そ、それなら我が見事に討ち取ったウナギなるものがあるぞ! ほら、そこのバケツに」
「え、ウナギって? 他にも釣っていたの!?」
「実は、明日の分として、残していたのだ。ワハハハ」
「そうなんだ。じゃあ、それの調理はカイにお願いしようかな」
「え? せ、拙者でござるか!? 拙者、調理なんてやった事ないでござるよ」
「皆そうだろう、大丈夫。確かナイフもあったよね。それでお願い。それじゃ、明るいうちに始めよう」
手分けして夜を迎える準備を始める。そしていざ行動しようと立ち上がると、スタートエリアの方から人影が近づいてきた。
ちょっと怖がる小早川とカイ。ここは確かに有刺鉄線などのバリケードに守られた拠点内ではあるけれど、それでも異世界であり鬱蒼とした森の中だ。
一応、既に小早川が椎名さんと秋山さんに、トロルに襲われた事や、ブロンズでできた蝶々とかの事を話した。
すると二人は驚いていた。椎名さん達は、ブロンズの蝶々やトロルに遭遇した事はなかったらしい。僕らがトロルに襲われたあの最初の場所。ここから距離が離れていると言っても、僕らはそこからここまで歩いてきた。つまり歩いて移動できる距離に、トロルが生息しているという事だった。
そしてこの拠点も、ゴブリンに二度も襲われたと椎名さん達は言っていた。しかも二度目は、かなりの数で拠点内にも入り込んできたらいし。だから何が言いたいのかと言うと、拠点内にいるからと言っても、決して油断してはいけないという事だった。
どんどんこちらに近づいてくる人影。間近までくると、その正体がはっきりと解り緊張が解ける。
「椎名さん! それに美幸さんにトモマサさん!!」
「さっき、こっちへ入って行くのがちらっと見えたから」
「邪魔して悪いな。けど、色々とおめーらの為に持ってきてやったぜ!!」
そう言って3人は僕らのテントの近くに、何か沢山持ってきた物を置いた。特にトモマサさんが持ってきてくれた荷物はかなりの量。
「こ、これはなんですか?」
今度は、美幸さんが笑って答えた。
「お菓子とかお肉とかそういうのだよ。適当に必要な物を見繕って持ってきたの。必要でしょ?」
「い、いえ、それは嬉しいですし必要ですけど……」
「え? いらない?」
『いります、いります、いります!!』
僕らは慌てて声をそろえて、椎名さん達にお礼を言った。
椎名さんが持ってきたダンボール箱をゴソゴソと漁って、何かを取り出す。懐中電灯とランタンだった。
「こ、これは……」
「これから夜になるからね。この森路エリアは、草木に囲まれているし真っ暗になると思うから、灯りがないと危ないからね。それに小早川君には話したけど、またいつゴブリンとか魔物がこの拠点の中へ侵入してくるかもしれないし。ちゃんと警戒しておかないとね」
「こんなに気を遣って頂いてありがとうございます!!」
「いいよ、いいよ。それよりさっき北上さんが言ったけど、肉とかソーセージとかそういうのもあるから、好きな時にここで焼いて食べるといいよ」
椎名さんも優しく微笑んでそう言ってくれた。僕らは、この異世界でとてもいい人達に出会えた事に感謝をした。
もう、ここしかない。ここで言わないと、僕らはきっと後悔する。
「し、椎名さん! 美幸さんにトモマサさん、どうかお願いがあります!」
僕と小早川とカイの気持ちは、固まっていた。どうか、椎名さんの仲間にして欲しいと。今ここで、僕らはそれをきちんと伝えておくべきだと思った。




