表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/469

Phase.199 『アダ名』


 

 ヤマメのような魚が獲れた。しかも結構大量だ。小早川は獲れて当たり前みたいな事を言っていたけど、顔は驚いていた。


 早速、秋山さん、鈴森さん、最上さんに獲れた魚のおすそ分けに行くと、塩焼きにして食べればいいと言って薪と塩、そしてライターとナイフをくれた。


 ナイフで何をするのかと聞くと、魚を焼くには串がいるだろと言われた。串になる木は、その辺にいくらでも落ちている。つまり自分達で串を作り、焚火を熾して、魚に塩をふって焼いて食べればいいという事だった。


 僕らはまた秋山さん達に頭を下げてお礼を言うと、秋山さん達から少し離れた場所――川の近くで焚火をやり始めた。


 小早川がナイフで串を作り、僕がそれに魚を刺していく。そしてカイが焚火を熾す。だけど秋山さんからもらった薪を組んだ所で、こちらをジロっと見てきた。


「どうした、カイ」

「これ……どうやって着火するでござるか」

「え? どうって、さっき秋山さんにライターを……」


 言って気づく。確かにライターで火は簡単につくけど、その火を薪に着火するのは至難。すると小早川がよく乾いた落ち葉を拾って、カイのもとへ運んできた。


「おおーー! これはいいものだ! ナイスでござるよ、小早川氏」

「笑止、これくらいの事。既に火を熾すと聞いた時に、閃いておったわ」


 森に僕達3人の笑い声が広がる。


 すると向こうから、誰かが近づいてきた。


 あれは――


「あははー、こんな所にいたんだ君達」


 とても綺麗な人。海さんとはまた違う感じだけど、歳は同じくらいのお姉さん。


「あ、あなたは?」

「私は北上美幸っていいまーす。海や椎名さんや、秋山君とは同じ職場の同僚でーす」

「ええ!! ど、同僚!?」

「そ、それは椎名さんか秋山さんと、美幸様はおつきあいしているという事でありましょーか?」


 驚いていると、小早川がまた綺麗なお姉さんを前に、緊張しながらも変な言葉を使い始めた。するとお姉さんは、思い切りバシイっと小早川の背を叩いた。


「ぎゃひいっ!! いたいっ!!」

「っもう、小早川君ってば! おませさんなんだからー。そうそう、私の事は美幸でいいからね。もうあなた達、海の事を海さんって呼んでいるんでしょ? じゃあ私もその方がいいから」


 海さんに続いて未玖ちゃん、そして美幸さん。皆さんもとても親しみ深く、綺麗で可愛くて優しい人達だった。女子に対してあまりにも抵抗の備わっていない僕達は、きょどりながらも美幸さんと接した。


 すると美幸さんは僕らの間に割り込んできて、焚火の前に座った。


「うん、小早川君……小早川秋秀君だったね。じゃあ、君の事はアッキーって呼ぶね」

「ア、アッキー!? そ、そんなもったえない!! そのようなあだ名をつけて頂き、まさに天にも昇る気持ちでございます!!」

「あっはっはっは! 何それ。天に昇るって! それ死んじゃってるじゃん!! あははーー!!」

「へ? あ……あはは」


 泣き笑いしながら転がる美幸さん。それに対して、後頭部を摩って何やら照れている小早川。


「じゃあ、こっちの子がカイ君ね。大谷君はそうだねー。なんだかそのまんまだと固いから……良継君だからヨッシーね」

「ヨ、ヨッシー」

「それじゃあ、これから4人で一緒にディナータイムとしゃれこみましょうかねー」

『は、はい……』


 やっぱり美幸さんは、海さんとはぜんぜん違うタイプだった。


 落ち着いた感じの海さんに比べて、こうなんていうか体当たりでくる。もちろん、いい意味でなんだけど。


 それでもコミュ障の僕達には、眩しく感じるしちょっと戸惑ってしまう。だけど一緒にいて、嫌な気持ちになるというのはなかった。なぜなら美幸さんもとてもいい人なのだと、こうして会話しているだけでも解ったから。


「さあ、薪に火もついたし、後はこのお魚さんたちが美味しく焼けてくれるかだけね。わーー、もうジュジューって脂のしたたる音がする。美味しそう!!」

「うおおお!! いい匂いがすると思ったら、魚かーー!! いいなあ!!」


 また、知らない新たな声がしたので振り返る。するとそこには、筋肉ムキムキの強面のプロレスラーみたいな体格の人が立っていた。この人も、椎名さんや秋山さんの仲間。


「こらーー、あっちいって! 邪魔しないで。トモマサまでこっち来たら、魚がなくなっちゃうでしょ。それに他にも食べる物あるでしょー」

「なんだよー、俺もそのガキンチョ達と交流とかなんとかってーのを、深めてやろうとしたのによー」

「だーめ。また後にしてください」


 そう言って美幸さんは、トモマサさんというプロレスラーみたいな体格の凄く強そうな人を追い払った。


「さて、焼けて来たね」

「あっ!」

「どしたの?」


 小早川が立ち上がる。


「そそそ、そう言えば、わたくし、ここの川でウナギを釣りあげてしまいまして。それが向こうのテントの辺りにありまして……とってきてもいいでありましょうか?」

「うそ、ウナギ――!! いいね、それ!! それじゃあ、ついでにご飯も持ってきて。多分今頃、未玖ちゃんとか志乃ちゃんとかがお米を炊いていると思うから、彼女たちに言えばもらえるよ」

「りょ、了解であります!! 我にお任せを!!」


 まるで本当に、美幸さんの配下のようになったような小早川。言われたように、自分で釣り上げていたウナギと、未玖ちゃん達にお米をもらいに駆けて行った。

 

 カイと顔を見合わせた後、美幸さんのほうを向くと目が合った。


 美幸さんはにこーっと僕に対して微笑んでくれた。それでなんだか恥ずかしくなって、僕は顔を慌てて背けてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ