Phase.197 『居心地のいい拠点』
それにしても驚いた。
僕達3人を救ってくれたのは、僕達と同じく転移者だった。そしてこの異世界で仲間を作って、『勇者連合』というクランを結成し、ここに拠点を作っていた。
拠点には女神像もあって、クランリーダーの椎名さんの話では、誰でもその女神像を使用してもとの世界へ戻ってもいいとの事だった。
でも使用する場合は、必ず声をかけて欲しいとの事。いきなりいなくなったら、そりゃ心配するだろうし、とうぜんの事だと思った。
僕がこの拠点で目を覚ました時に最初に出会ったのは、大井海さんというお姉さんだった。とても綺麗なお姉さんでとっても優しい。
僕は、もとの世界へ戻ってもいいとは言われたけれど、戻りはしなかった。
僕達は、最初に打ち立てた目標の通り、女神像を発見した事になるだろうし、見事に目的を達成した事になるだろう。
だけど今日はまだ土曜日。もともとタイムリミットは、月曜の朝までだと思っていたし……何より小早川もカイも、まだまだもとの世界へは帰りたくない様子だった。
フフフ、二人のせいにしたけれど、実は僕もまだここにいたいというのが正直な気持ち。
カイはコボルトとの戦闘で、飛んできたナイフが胸に刺さり倒れた。もしかしたら、もう二度と会えないのではとその時に思った。
だけどカイは無事だった。僕と同じく、別のテントで寝かされて治療を受けていた。治療をしてくれていたのは、菅野未玖ちゃんという小学生くらいの女の子でとてもしっかりしている感じの子だった。
未玖ちゃんは、もとの世界から持ってきているエイドキットの他に、この拠点で育ているという薬草をいくつか使ってカイの傷を治してくれた。
異世界の薬草の効力は、とても凄くてカイの怪我はかなり良くなった。そう、まだ痛みはあるみたいだけど歩けるくらいには――
僕らはとりあえず、この椎名さん達が作り上げた拠点がどれくらい大きいのか、ちゃんと許可を得てから歩き回って見学させてもらう事にした。
するとどうだろう。ここは僕の想像を超えて、とても広大で、驚きを隠せなかった。拠点の中には、女神像の他にも、小屋やら色々沢山の興味を惹かれるものがあった。
そして拠点とされているこの場所の外側には、有刺鉄線やら板やらトタンなどで、バリケードが造られていて物凄く安全に感じた。
椎名さんと海さんは、僕達にこの拠点の中であれば勝手に動き回ってもいいと言ってくれた。ただ、勝手に人の物を触らない、帰る時にはひと声かける事、拠点の外――つまりバリケードの外へは、許可なく出ないというルールを厳守させられたが、それはどれも納得のいくものだった。
とりあえず3人で仲良く拠点内を見て回っていると、そう言えば小早川が拠点内で釣りをしていた事にきづく。
「小早川君」
「何かな、大谷氏」
「そう言えばさっき、ウナギを釣っていたよね」
「おーー、あれな。如何にも我が釣り上げた。あのウナギは、海様からバケツを貸して頂いて、そこにストックいている。そういう訳で今晩でも、3人で食べようじゃないか」
海様? カイもそれには、気になったようで突っ込みをいれる。
「まーた、小早川氏は女子に鼻の下を伸ばしているでござるな」
「そ、そそ、それはない!! 我はただただ海様や、未玖様に対して、ただただ純粋に……」
「もういいでござるよ。それで、これからどうするでござるか、良継殿」
「うん、その小早川君が釣ったウナギのいる川。この拠点には、川があるんだよね。そこへ行ってみようと思って。丁度、喉も乾いているし……そこで水も飲めるかなと思って」
「それなら飲めるらしいでござるよ。リーダーが言っていたでござる」
リーダー? そうだ、椎名さんの事だ。
「よーし、あいわかった。それでは、みな我のあとに続け!! 我が見事、そなたらをこの拠点内の川まで導いてくれん!!」
小早川はもうノリノリだった。僕らが皆、無事だったこと。そしてよっぽど、ここが気に入ったんだろう。
カイも椎名さんの事を、もうリーダーと呼んでいるみたいだし、できれば僕達もこれからこのクランの仲間に入れてもらえないかなって思った。そうすれば、きっともっと楽しい。
「さあ、みなの者!! こっちだ!! あの向こうの森の中に川がある」
「も、森って……」
「大丈夫だ。森の中にも、有刺鉄線などのバリケードがあった。ちゃんと拠点内だ。しかも見張りもいるようだったしな。わはは」
見張り。そう言えば、まだ僕らはこの拠点にいるクランのメンバー全員には会っていない。いったいここには、何人の仲間がいるのだろうか。
ノリノリの小早川の後について、森の中へと足を踏み入れる。そして少し歩くと、早速水のせせらぎが聞こえてきた。カイと顔を見合わせる。そして走り出すと、痛みをこらえてカイもついてきた。川。そこにはまぎれもなく川があった。森の中に流れる渓流。
ザーーーーーッ
川に流れる水の音が、心地いい。そして向こうにテントが三つ。誰か人もいて、焚火もしているようだった。僕らはまず、そこにいる人たちに声をかけた、
「初めまして、大谷良継と申します」
「話は聞いている、死ななくて良かったな。俺は鈴森孫一。そしてこっちのが」
「おう! さっき会ったよなー。改めまして、俺は秋山翔太」
「ぼかあ、最上光だよ。よろしく」
小早川とカイも、慌てて挨拶をする。すると彼らは、快く握手をしてれた。優しくて頼りになりそうなリーダー。そして心地の良いメンバー。
僕達は、更にどんどんこの拠点の仲間になりたいと思い始めていた。




