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Phase.196 『目覚めるとそこは……』



「っはあああ!! はあ、はあ、はあ……ぜえ、ぜえ……」


 目が覚めた。


 いつの間にか僕は、横になって眠ってしまっていた。


 …………ここは、何処だ。


 見るからにテントの中。そして布団に毛布……僕は何処かにあるテントの中で、今まで横になっていたようだ。


「うっ……いたた」


 起き上がろうとすると、身体に痛みが走った。


 まず一番きついと思ったのが両腕だった。まるで石が縛り付けられているみたいに重く感じる。きっとコボルト相手に、がむしゃらに金属バットを振りまくったからだと思った。それに、足も痛い。


 あれ? そんな事よりも……


「カイ……それに小早川君はどこだ? 二人は無事なのか?」

 

 急に不安になる。僕の大切な仲間。あの二人が一緒だから、こんな気の弱い僕でも、この『異世界(アストリア)』を冒険する事ができる。


 横になっていた所を見ると、その隣に僕のザックと金属バットが置いてある。僕は金属バットを手に取ると、それを杖代わりにして立ち上がり、テントから外へと這い出した。


 眩しいまでの太陽の光。そして鳥のさえずり。周囲を見ると、拓けた場所で木々に囲まれていた。そしていくつもの小屋……人……なんだ、ここは? 


 し、信じられない。そう思っていると、後ろから誰かに声をかけられる。女性の声。いきなりの事で、僕は思わず飛び上がって振り返ると、慌てて金属バットを構えた。


「は、はわわわわわ!!」

「いきなり声をかけたから、驚いた? ごめんね」

「い、いえ」


 見るとそこには、大学生位のお姉さんが立っていた。とても綺麗な人で、思わず何を喋ればいいのか訳が解らなくなってしまう。これまで母親以外の女性とは、あまり会話した事がない。だからとても緊張してしまう。


「あ、あなたが僕を助けてくれたんですか?」

 

 にっこりと微笑んで、頷く女性。


「あ、ありがとうございます」

「でもあなた達を助けたのは、私だけじゃないんだ。皆でよ。だから後で、皆にもお礼を言ってね」

「え? ちょっと待って、あなた達って……もしかして、カイや小早川君も無事なんですか?」

「一人は胸にナイフが突き刺さっていた。もう一人は、コボルトに寄ってたかって殴られ蹴られていた。だけど、心配しないで。二人共、大丈夫よ」


 その言葉を聞いて、腰から砕けた。金属バットをそのまま転がして、地面に座り込んでしまった。すると目の前の僕を助けてくれたお姉さんは、手を差し出して僕を立たせてくれた。お姉さんの手は、白くて綺麗でとても柔らかかった。


「そ、それでここは、ど、何処なんですか? 『異世界(アストリア)』ですよね。それにあなた方は、僕らと同じく転移者ですよね」

「ええ、私達も転移者。そしてここは『異世界(アストリア)』で、私達の拠点なの」

「きょ、拠点!?」

「最初はあそこ……あそこにある丸太小屋だけだった。だけど、私達のリーダーが頑張って仲間を集めて、皆で協力してここを作ったのよ」

「な、なんの為に!?」

「それはもちろん……」


 お姉さんがそう言った所で、更に誰かがいつの間にか近づいて来ていて答えた。


「冒険する為だよ。この『異世界(アストリア)』をね。だって、RPGでも始まりの街とか、そういう冒険の拠点になる場所はあるだろ。俺達は『異世界(アストリア)』に来てから、まだ異世界人と接触できていないし、そういった最初の足掛かり的な街や村なんかも見つけていないんだ。だから自分達で作った」

「そ、それがここですか」


 いきなり現れた男の人はそう答えた。腰には剣を吊っている。あれは、カイや小早川がもっている剣とは違う。本物の、異世界や中世で使われているような剣だ。


 僕は目の前にいるお姉さんと、男の人の方を向いて頭を下げて言った。


「た、助けて頂いてありがとうございます。ぼ、僕の名前は大谷良継と申します。高校生です」

「へえ、高校生か。いいな、俺にも大谷君と同じ年の頃があったよ……ってそれは当たり前か」


 あははと笑う。どうやら、とても優しそうな人みたいだ。良かった。


「よ、よろしければお名前を教えてください」

「ああ、そうだった! 俺の名前は……」


 答えてくれようとした所で、誰かが森の中の方から何か叫びながらこっちへ走ってきた。


「うおおーーーい!! うおおおーーーーい!!」

「なんだ、あいつ。何かあったのか?」

「さあ。そう言えば、さっき大谷君の友達と一緒に川エリアの方に釣竿持って行っていたから……」


 え? 僕の友達!? って事はカイか小早川? しかも釣竿って……って……え?


「ユキーー!! ほら見てくれ!! こいつ、こんな大物釣りあげやがったんだぜーー!!」


 駆けてくる男がそう言うと、更にその後ろ――森の方から、僕の知っている顔の男が飛び出してきた。手には釣竿と、何かクネクネしたものがかかっている。だけどそんな事より、彼の顔を見て目から涙が溢れてくる。


 僕は大声で叫んだ。


「小早川君―――!!!!」

「おおおお!! 大谷氏!! 目が覚めたか、良かった!! これを見よ、(われ)が釣り上げた異世界のウナギぞおおおお!!」


 小早川君!! ウナギを釣り上げているだけでも、驚きなのに……僕は……小早川が走ってくる方に、僕も駆ける。そして彼を正面から抱きしめた。


「うおおおお!! なんだ、なんだ!! いったいどうしたというのだ、大谷氏!!」

「良かった、良かった!! 君が無事で良かった!!」


 何度もそう言った。僕を助けてくれたユキ―と呼ばれていた(ひと)と、お姉さん。そして小早川と一緒にこっちへ駆けてきた(ひと)。ユキーという名を叫んでいた。


 3人は暫く、再会に喜ぶ僕達を見ていた。それから、僕達がどうしてあんなところにいたのかとか、他に仲間はいないかなど、色々と聞かれた。

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