Phase.193 『緑を探せ』
――――荒野が広がっている。気が付けば、完全に見渡す限り、一面荒野になっていた。荒地には、岩岩岩――そして大量の砂に、カサカサになった枯れた草木。
いつの間にか先頭を歩いていた僕は、後ろを振り返って二人の顔を見た。
「ど、どうしよう。このまま真っすぐに歩いて大丈夫なのかな」
「行くしかないだろ。我は信じて歩くのみ」
「とりあえず、このまま真っすぐであっていると思うでござる。もしも間違えていたとしても、拙者も小早川氏も良継殿と同じ考えなので、責任は三人共にあるでござるよ」
間違えていても、僕の責任にはならない。カイはそう言ってくれた。
だけどもしも間違えていたら……間違えていたね、ははは……じゃすまないと思った。こんな荒野で彷徨うという事は、かなり体力の消耗を覚悟しなくちゃならないだろうし、もしも夜があければきっと灼熱のような温度になるだろう。そうすれば水ももっと必要になるし……今持っている分なんて、直ぐに飲んでなくなってしまうだろう。
「むっ、どうしたのだ大谷氏」
「え? うん、ちょっと待って」
僕は足を止めると、もう一度周囲を見渡した。そして近くに大きな岩を見つけたので、小早川とカイにちょっとここで待っていてと言って、その岩に登りに行った。そして上にあがるともう一度、周囲を方々まで見渡した。
「……うーーん、何もない。あるのは、砂……石……岩……焼けてひび割れた大地」
これはますますもって、やばいと思う。荒野も冒険はしてみたいけど、今は無理だ。それ用の装備や準備もできていないし、何よりも知識も力もない。早く軌道修正して、緑の豊富な方へ向かわないと……魔物に出くわしてやられるというか、このままじゃ干からびて死ぬかもしれない。
「ん? なんだろう、あれは?」
荒野の空は凄く晴れ渡っていて、二つの月が煌々と大地を照らしている。夜だというのに遥か向こうまで眺める事ができた。
森などよりも、荒野の方が良い点。それは、地形が解りやすいこと。
僕は手を振って、自分のいる所までくるように小早川とカイに、こっちへ来てくれと合図を送った。二人共こっちに来ると、僕のいる位置まであがってくる。小早川はやはり、身体を動かすことが得意ではなく、僕とカイの二人で引き揚げた。
「はあ、はあ、はあ。やっと上まであげれた」
「ふう……すまんな。戦闘なら我の右に出る者はいないと自負しているが、どうも岩登りや走りとなるとな」
「確かにそうでござるな。今度トロルが現れて襲われた際には、小早川氏にお任せするでござる」
「うっ……そ、それは……残念ながら、いくら戦闘が得意といっても、トロルは苦手なのだ。ああ、そうだ! スライム! スライムなら、我に任せよ! フハハ、蹴散らしてくれん!!」
小早川を見て、目を細めるカイ。ハハハ、でも二人がいてくれてよかった。今もし、ここで僕一人だったらどれだけ心細い思いをしているか。二人が一緒にいてくれるから、前向きにものが考えられる。
「それでどうしたでござるか、良継殿」
「ああ、そうだ! あれ、あれ見て!」
僕はそう言って遠くの方を指さした。見える景色の向こう側、小さく木々が見えたからだ。少し距離があって、ここからじゃ豆粒のように小さく見える。だけどあれは、木々だ。風で揺れている風にも見えるから間違えないと僕は思った。
「あ、あれは!! あれはもしかして木でござるか!!」
「うん、枯れている木じゃない。ちゃんと葉をつけている木だね。ここからじゃ、大きな岩山などでそこまで詳しく解らないけれど、きっと向こうに森か草原があるんじゃないかって思う」
「ほう、森があるとなれば当然、川や泉もあるかもしれぬな」
「きっとあるに違いない。とりあえず、ここからあそこまで少し距離があるし、荒野を突っ切っていかなくちゃならないからあれだけど、夜のうちなら問題なく歩けるはずだから今のうちに、急いで移動しよう」
二人共頷いてくれた。昼になれば、灼熱地獄を向こうまで歩かなくてはならない。そう考えると、悠長に休憩もしてられない。とりあえず、向こうの緑のある場所まで移動してから、休憩をとればいい。
なんにしても、今の僕達じゃ荒野はまだまだ力不足だ。そのうち、力も備わって準備もできればこの辺の探索に挑んではみたい。だけど今は、確実にその時じゃない。このまま荒野を歩き続けても、それは無謀でしかないだろうから。
僕達は乗っていた岩を降りると、そのまま休みなく木々が見えた方へ移動を開始した。そこへは目の前の荒地をこえていかなければならないけれど、もうひと踏ん張りだった。しかも夜の気温なら、余裕で到着できるだろう。朝までも時間もある。
荒野を脱出し、森か草原を見つけたならばそこでちょっと休憩できる所を探して、睡眠や食事をとればいいし。
また気が付くと、僕が一番前を歩いている。その後ろにカイと小早川。二人共、まだ一日も経過していないのに、既に何週間もこの異世界にいるような、疲労を蓄積した顔になっている。だけど、気力はまだまだあるようだった。




