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Phase.191 『鼠 その1』



 夜の移動は危険だった。


 それは解っていた。だけど旅立ってから、特に恐ろしい魔物にも遭遇しないで移動してこれた事、そして鼠や鳥などの小動物にしか遭遇しなかった事。それで僕ら3人は、すっかり忘れてしまっていた。


 この『異世界(アストリア)』がとても、危険な世界だという事を――


 荒野を移動するなら、夜の方がいい。昼間なら、このあたりはもしかしたら蒸し風呂のように熱くなるかもしれない。そんな事をカイが言い出した。でも僕もその通りだと思った。


 だって、それは周囲の風景を見れば解る。荒地が広がっていて、僅かに所々に生える草木は、茶色がかって枯れている。明らかに、暑さと水不足でそうなっている事は明白だった。


 女神像を出てからというもの、特に危険な魔物との遭遇もなく、意気揚々と冒険に出た僕らは、まだ冷めやまない興奮に心を熱くたぎらせていた。

 

 だから夜の間も移動するという選択は、望むところだった。


 だけど僕らは、3人とも知っていたはず。ゲームやアニメ、映画なんかでもそうだ。魔物というのは、魔の生き物。闇に生きる。もちろん日中に活動する魔物もいるが、危険で恐ろしい魔物は夜の方が多いイメージ。


 そしてそれは、その通りだった。


 いつの間にか僕達3人は、月明かりに照らされた夜の荒野を、全力で走っていた。凶悪な魔物に追われて。


「はあ、はあ、はああ!! 急げ!! 急げ、カイ、小早川君!!」

「ま、まって……ぜえぜえ……わ、我はう、運動全般……はあはあ、ぜえぜえ……苦手なのだ!! 待ってくれ!! 待ってくれえええ!!」


 本当に苦しそうな顔で追いかけてくる小早川。カイはいくらかマシそうだけど、もうそろそろ限界が近づいている様子。その証拠に身体もふらふらしているし、息も激しく乱れている。僕は一瞬足を止めて叫んだ。


「二人共早く!! 早く来ないと、やられちゃうよおおお!!」


 やられるというフレーズを聞いてビクっとする二人。同時に後ろを振り返ると、彼らの更に後方からうぞぞぞと闇の中を何かが動いて向かって来る。


「ヒイイイイ、来てる!! 来てるぞおおお!!」

「やばいでござるうう!! ほら、小早川氏! じっとしていないで、急ぐでござるよ!! 捕まったら間違えなく、晩御飯にされるでござるよ!!」


 小型犬位の大きな鼠。それが何十匹となってこちらに向かって攻め寄せてきていた。鼠の口には、鋭く小さな牙が無数にある。寄ってたかってあちらこちらから襲われて噛られたら、あっと言う間に肉片になってしまうだろう。


 だけど大鼠は休むことなく、群れとなって襲い掛かってくる。このままじゃ、まず小早川が追いつかれてその次にカイ、最後に僕も食べられてしまう。


 キシャアアアアア!!


 嫌だ!! 身体中を齧られて、想像もつかない程の苦痛を味わいながら死んでいくなんて絶対に嫌だ!! 僕は周囲を見回した。何か、何かないか!!


 するともう少し向こうに、大きな岩が見えた。高さもそれなりあって、上にはなんとかよじ登れそう。このままいっても、追いつかれて小早川から大鼠の餌になるのは、目に見えていた。


「小早川君、カイ!! あそこ、あそこ見て!! あの大きな岩までなんとか頑張って走ろう。きっとあの岩ならよじ登れる」

「わ、解ったでござる!! いくでござるよ、小早川氏!!」

「うぬぬぬ、是非も無し!! いざ、向かわん!!」


 最後の力を振り絞る。大鼠の群れに追われる僕達3人は、なんとか目指していた岩まで辿り着き、それに抱き着いてよじ登った。


 最初に僕が上までよじ登り、次にカイが上がってきた。そして二人で手を伸ばして、下で大鼠の進撃に恐怖で顔を引きつらせて藻掻いている小早川を引き上げた。


 はあはあ、ぜえぜえと息を切らす。だけど休むことなく僕は、金属バットを両手で握りしめ叫んだ。


「このまま上に登ってくるかもしれない。だけど、地形的には絶対僕達が有利だ!! 小早川君、カイ、武器を構えて!!」

「ヒイイイ!! の、登ってくる!! 登ってくるぞおお!!」

「落ち着いて、小早川君!! それはもう最初に覚悟していたでしょ!! ここは、僕達がゲームやアニメで知っている異世界そのものなんだよ! 魔物だっているし、僕らは冒険者なんだから戦わなきゃ!!」

「た、戦う……」

「そうだよ、ゲームでだって、魔物が出現するし、遭遇したら戦うでしょ! 僕らはもう冒険者だし武器も持っている。それに、パーティーも組んでいるんだ。一緒に戦って経験値を稼ごうよ!!」

「け、経験値……そ、それはそうだな」


 小早川の目にあった強い恐怖の念は、消えた。それでも怯えはしている。だけどもう腰に吊っている剣を抜いて、今にも岩の上まで這い上がってこようとしている大鼠の群れに向かって、闘志を向けている。


 そんな小早川を見て、絶望にも似た現状からなんだか、希望があるような気がわいてきた。そしてそれはカイにも伝染している。


「確かに良継殿の言うように、拙者たちが有利でござる。例えるならこれは攻城戦、そして拙者らは圧倒的有利な防衛側でござるよ。戦国時代、城を攻めるには、およそ10倍の兵力は必要だと言われていたでござる」

「有明氏。でもその計算だと、こちらは圧倒的に不利になるんじゃ……敵は50匹以上、余裕でいるようだぞ」

「それなら問題はないよ、個の力は僕達の方が強いよきっと!」


 僕はそう言って最初に上によじ登ってきた大鼠に向かって金属バットをフルスイングした。打撃音。僕の一撃を受けた大鼠は弧を描いて向こうへ跳んで行った。

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