Phase.19 『柵』
――12時半。昼飯の後、食休みも終わり再び拠点を作る為の作業に戻る事にした。
小屋内での作業は、夜でもできる。夜に外をほっつき歩くのは危険極まりないのでそういう時間には、小屋内や小屋周囲での作業を行おうと思っていた。
因みに小屋周囲の作業って言うのは、草むしりの続き。まだまだ小屋の周りには草が生い茂っている。これを全部、一人で引き抜くとなると大変な作業だろう。だからと言って放ってもおけない。
草は茂みになっていて、一番伸びている場所なら俺の胸辺りまである場所もある。そんな場所があれば、魔物が潜んでいても解らないしいい事はない。
この場所自体は、森の木々に囲まれている訳だし、この小屋の周り――拓けている場所については地面をきちんと整備しておきたい。でも、一度には無理だ。徐々に進めていけばいい。
ふと小屋の方を振り返る。
この丸太小屋には、暖炉がない。煙突も無い。調理場に使っていたようなスペースはあるけれど、そこでは水は使えない。
つまり、何が言いたのかというとこういう事だ。
今、昼に弁当を食べたけど、例えば何か料理をしたい――何か調理したいってなったら水は小屋の外に出て井戸から汲まなければならない。
予め汲んでおくっていう手もあるけれど、食材を洗うとか手を洗う食器を洗う場合は、やっぱり小屋の外に出て井戸まで行かなければならないのだ。小屋には、給水設備だけじゃなく排水設備もないから。
トイレの方もうーーんと唸ってしまう事がある。
頑張って綺麗にして、これでもかって位に科学の力に頼って除菌洗浄したけど、トイレは水洗じゃなくてボットン便所。用を足す真下には、タライみたいな大きな桶が設置されているだけ。ある程度溜めれば、自分で捨てに行かなければならないという、なんとも憂鬱になってしまう設備だ。
異世界だし、こんな森の中の丸太小屋、薄々そうだろうなと覚悟はしていたけど、実際に目の当たりにするとキツいものがある。でも一応トイレがあるだけでもマシなのかも。
そして、夜。夜になれば意外とこの辺りは寒くなる事が解った。昼間は暖かいけど、夜は空気がもうひんやりとしている。
それで暖かい物が飲みたいとか食べたいとなる。一応、ガスコンロやバーナーも準備してきているので、カップ麺や珈琲を作ったりする事は小屋の中でもできるのだ……だが、やっぱり火にあたりたい。
そんな訳でやっぱり焚火がいいと、実際にやってみた。
小屋の正面で焚火をすれば魔物避けにもなるかもだし、何かが襲って来てもすぐに小屋に逃げ込むこともできる。だけど、できる事なら小屋の周囲だけでもいいから、夜でも外に出て安全に焚火や水汲みなどできればどれ程いいことかと考える。
小屋から周囲に目を移し、考える。そして呟く。
「……壁っていうのは、今は現実的じゃない。……ってなると柵か……小屋の周りをぐるっと柵で囲めば、その中の安全性は格段に増す」
荷物に鋸や釘、金槌などの工具は入れてきた。なんせ、今日から異世界で数日過ごす計画を月曜から金曜までずっと考えていたのである。そこら辺は、抜け目ない。
次にこの異世界へやってくる時は、有刺鉄線を買って用意してきてもいい。そうすれば、要所要所に杭を打ってそれに巻き付ければ簡単に短時間で小屋の周囲を囲めるし柵の代わりにもなるだろう。ホームセンターへ行かなくてもネット通販サイト『jungle』なら、有刺鉄線だって注文翌日には、家に届く。
「うん、あれこれ考えて、それが纏まってくると楽しくなってきた。だけど……」
俺は柵を自作してみたかった。この小屋の周囲、ある程度広さをとって囲む為の柵を作っていくとなると、またそれも大変な作業となる。だけど、折角真剣に選んで買った工具も使ってみたい。柵はここでかなり大きな役割を持つ物になるし、やりがいもあるだろう。
俺は、お茶の入ったペットボトルをポケットに入れると首と頭にタオルを巻き、鋸とお手製の槍を持って森の方へ歩きだした。
「よし、とりあえずチャレンジだ! さあって、どれくらいの木が丁度いいかな」
改めて森にある木を観察してみると、実に様々な種類の木が生えていた。柵を作るのに使用する木を探しているので、建築に適したっていうのは大袈裟かもしれないけれど丈夫な木がいい。魔物などの侵入を阻むためのものなのだから。
「あまり太くてでかい木でも運べないし……あれくらいがいいかな」
使いやすそうな木に狙いをつけると、その木に近づいて早速鋸の刃を入れて引いてみた。
ギコギコギコギコ……
鋸も通販サイト『jungle』で購入した。だいたいが1000円~2000円位で買える。種類も沢山あった。それで、俺は最もレビューが良くて3000円ほどの折り畳み式の鋸を購入した。
ギコギコギコギコ……
「はあ……はあ……流石は、3000円クラス!! よく切れる!!」
息が切れる。まだ、木を一本も切ってもいないのに。自分がどれだけ普段から運動不足なのかという事が解る。
「しんどーーー!!」
バキバキ……ガサガサガサガサ!
ようやく一本の木を伐り倒した。試しにちょっと持ってみたけどなかなかに重たい。引きずっていくにしても、一本ずつにした方が賢いか――そう判断すると、一本ずつ小屋まで運ぶことにした。
森に行って木を伐ると、それを小屋の辺りまで運ぶ。繰り返して何本もの木を運んだ。森の中に潜む栗鼠や兎、鳥にへんてこな動物。その間、それらにずっと見られているような気がした。こんな所で何をやっているんだと。
十分に木を伐り出したので、その作業は一旦終わり。今度は小屋の前で、伐ってきた木を使いやすいサイズに揃えて柵を作る。今度は、鋸に加えて金槌や釘も出番だ。
夢中になってそれらの作業を続けていると、いつの間にか空は赤く染まり始めていた。




