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Phase.188 『リベンジに向けて』



 カイがミケさんに言った。


「今晩から日曜まで『異世界(アストリア)』を冒険するでござる」

「え? でも皆毎日『異世界(アストリア)』へ転移しているんじゃないの? それと何が違うの?」

「左様でござるが……なんでござろうか、言うなれば意気込みでござろうか」


 小早川はミケさんを前にして、今度は固まったまま動かなくなったので、カイがこれまでの事……トロルに遭遇し襲われた事や、ブロンズの蝶を目にした話をミケさんにした。


「そういう訳で今日は拙者たち3人の記念すべき第一歩なんでござるよ」

「記念すべきってそれ、いつも聞いているよーな気がするだけどー。でも楽しそうでいいよね」

「今度は、意気込みも違うでござるよ。ちゃんと準備していくでござるし、日曜までもとの世界へは戻らない予定を立てているでござるからな。わっはっはっは」


 カイの言葉に驚いたミケさんが、今度は僕の顔を覗き込んだ。


「大丈夫? 大谷君」

「え、は、はい。2、3日帰らなくても、僕の親はそれ程心配しませんし。しても結局いつもの事かと思うだけです」

「それは解ったけど、トロルと遭遇したんでしょ?」

「は、はい」

「『異世界(アストリア)』の冒険を進めて、転移アプリを売りつけておいてこんな事を言うなんてなんなんだけど、3人ともちゃんとキモに銘じておいてね。向こうでゲームオーバーになったら、それはこっちと一緒だって」


 何度も恐怖し、何度も後悔したかもしれない。トロルに追いかけられている時なんてきっとそうだった。だけどそれは、この世界でも同じこと。


 僕は市原達の虐めでずっと追い詰められていて、最悪の事も考えた。この世界でもゲームオーバーになる事だって普通にあるんだ。


 小早川とカイの顔を見ると、二人とも僕の目を見つめて頷いてくれた。よ、よし! やるぞ! 今夜また冒険の旅に出発だ!!


「くれぐれも無理しないで、気を付けてね。本当に危険な世界なんだからね! 過信しないで、ちゃんとね」


 店を出ようとした所で、ミケさんに何度もそう言われた。僕達3人は、何度もミケさんに解っていますと言って彼女を安心させようとした。


 確かに今は、僕ら3人見た目的にも弱そうに見えるし、頼りないふうに見えるかもしれない。だけど、もっと強くなってゲームやラノベの異世界で活躍する主人公のようになる。


 そんな決心をこっそりとしつつも店の外へ出ると、ここで会ってはならない鬼達に遭遇した。いや、ここでなくても駄目だ。ずっと駄目。


「見つけたぞ、大谷!! それに一緒にいるのは、小早川に有明かあ!!」

「オタク三兄弟かああ!! 3人とも捕まえろおお!!」


 市原だった。しかも池田と山尻もいる。3人は、僕らを発見するなり鬼の形相でこちらに向かってくる。


「ひ、ひいいい!! 逃げろおおおお!! 市原達だあああ!!」

「ああああ、市原だとおおお!? おい、コラ待て小早川!!」


 トロルの時のように……じゃないけど、小早川が物凄い素早さで逃げる。そしてそれにカイや僕も続いた。逃げる方向は、バラバラ。だけど……僕は大きな声で叫んだ。


「また、後でね!!」


 市原達から全力で逃げる小早川とカイ。だけど、ちゃんと僕の声に反応してくれて、頷いてくれている。僕らはこのまま一旦それぞれの家に帰り、再び『異世界(アストリア)』へ向かう。


 ……ううん、違う。向かうじゃなくて挑む!! 今度は、女神像の周囲だけで満足しない。だってあんなブロンズでできた生きた蝶なんて、見てしまったんだもん。あれに匹敵するものが『異世界(アストリア)』には、もっと沢山あるはず。


 僕はこの世界じゃ得られないような夢のような冒険がしたい。そう、ゲームの世界のような。


「待てこらこっらああああ!! 大谷、お前ぜったいボコボコにしてやるからなああ!!」


 狙いを僕に絞っている。だけど、僕はこんな所で捕まらない。いざとなったら、何処かに逃げ込んでまたほとぼりが冷めるまで『異世界(アストリア)』に転移すればいい。


 そんな事を考えながらも商店街を抜けて、逃げる。逃げて逃げて、路地裏から通りの方へ走り抜ける。


 遠くで市原達の声が聞こえたような気がしたけど、気のせいかもしれない。兎に角、僕は市原達を見事にまいて振り切る事ができた。


 それでも僕は帰宅するまで市原達と遭遇しないように、周囲を必要以上に警戒しながら帰った。


 家に着くと早速キッチンへ行って、お菓子とか缶詰めとかカップ麺とかそういうものをビニール袋に詰め込んだ。それを見た母さんが言った。


「良継。また何処かへ行くの」

「うん。友達とキャンプに行ってくるよ」

「キャ……キャンプ!? あ、あなたが!!」

「そうだよ。別にいいでしょ。帰りは日曜日か……遅くなるかもだけど、小早川君と有明君も一緒だから」

「そ、そう。気を付けてね」

「うん」


 やはりそれ以上は、突っ込んで聞いてこなかった。引きこもりの僕が、折角家の外に関心を持ち始めたのに、その気持ちを折ってしまってはいけないとか思ってくれているのかもしれない。


 だけどこんな登校拒否したり、一日中部屋に籠ってゲームばかりしていた僕が、いきなり友達とキャンプをするって言った事はかなり驚かせてしまったかもしれない。


 でも完全に嘘でもないと思った。

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