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Phase.184 『彷徨った挙げ句』



 昨日の夜とは打って変わって森の中は、穏やかなものだった。鳥のさえずり、駆けまわる栗鼠や兎。蝶。


 僕とカイは、自分達が最初にやってきた女神像のある丘は、どちらの方にあるのかなど話しながらも森の中を歩き続けていた。


 カイに借りた模造刀のショートソード。彼に返そうとしたら、もとの世界に戻るまでは護身用に持っててもいい。自分はもう一本持っているからと言ってくれたので、そのまま持たせてもらっていた。


 模造刀と言えど、金属でできていて武器にもなるので、手に持っているだけでも心強い。


 ……だけど。


 だけどもう、喉がカラカラだ。持ってきた水ももう全部飲んでしまって尽きた。カイも同じく傷の汚れを洗い落とす為と、飲み水で既になくなってしまっている。


 このまま歩き続けても、魔物に襲われたりする前に喉の渇きで倒れてしまう。早くもとの世界に戻らないと……トロルを鮮明に思い出し、あんな恐ろしい化物の餌にはなりたくないと自分を追い込んで足を前に出した。


 喉の渇きを覚えながらも森の中をキョロキョロと見回しながら、また暫く歩いているとカイが急に足を止めた。


「どうかした?」

「いや、ちょっと……」


 いったいどうしたと言うのだろう? 


「やっぱりだ、やっぱりそうだ」

「カイ、どうしたんだ?」

「良継殿! 何か聞こえないでござるか?」

「え? 聞こえるって何が?」


 ここは森の中。風で葉のこすれる音、鳥のさえずりや何か動物の鳴き声など、聞こえるものはいくらでもある。でもカイはわざわざ足を止めて、真剣な顔つきでそう言ったので、僕も彼が気にしている音の正体をもっと深く探ってみる。


 すると、確かに音がしている。色々な音に隠れてはいたけど、ずっと継続的に聞こえる音がしていた。この音は――


「水の音?」

「そうでござるよ、良継殿!! 辺りを見回してみるでござる。緑緑緑! これ程緑に溢れている森でござるして、とうぜん何処かに水源はあるのでござるよ。音の方に向かってみるでござる」

「う、うん!」


 川だ。きっと近くに川がある。


 一応、女神像はこっちだろうという方に向かって歩いてはいるけど、どんどん自信も無くなってくるし確証も薄い。そして既にもう僕もカイも森を彷徨い歩き続けて方向感覚も無くなっていた。


 だから川がある方へ移動するからと言って、現在地が解らなくなるとか、もうそういうのは特に気にしてもいなかった。兎に角今は、水が飲みたい。


「早く!! 早く来るでござるよ、こっちでござるーーーう!!」

「はあ、はあ、はあ……ま、待って! 待って、カイ!」


 トロルから逃げる時に、右足を負傷したカイ。そのカイの方が僕よりも先に川があると思われる方へと先に突き進んでいた。よっぽど喉が渇いていたんだな。


「良継殿!! これ、これ見るでござるよ!!」


 ザーーーーーーッ


 鳴りやまない水の流れる音。


 川は確かにあった。森の中に流れる川。こういうのを渓流っていうのだろうか。


 そんな事よりも僕とカイは、川まで真っすぐに向かうとその前で両膝をついて、思う存分に川の水を飲んだ。


 そのまま飲んで良かったのかどうかなんて、今は考えない。そんな余裕もない。それに冷たくて、とても美味しい。こんな美味しい水を飲むのは、生れて初めてだと思った。


「ぷはーーーっ! 生き返ったでござるううう!!」


 川に頭から突っ込んだ挙句、顔を洗って気持ちよさそうにするカイ。僕も同じように顔や泥だらけになっている手なども洗った。そして落ち着いたら、カラになった水の入っていたペットボトルと、コーンポタージュの入っていた魔法瓶にも川の水を汲んだ。


 やっと水分も思う存分に補給できた所で、今度はどうしようもなく空腹感が襲い掛かってきた。川の手前、そこに座り込んだカイが言った。


「どうするでござるか? 何か食べ物を探すでござるか、それとも女神像に戻る為に歩を進めるか」

「両方選ぼう。水も十分に補給できたし、食べ物になるものを探しつつも女神像があると思う方へ歩こう」

「解ったでござる」


 僕とカイは、決断するともう少し川の近くでのんびりしても良かったなという気持ちを押し殺して、女神像があると思われる方へと歩き始めた。


 腕時計をみると、お昼前。11時を過ぎていた。学校ではもう授業が始まっている。僕とカイは、遅刻扱いか欠席扱いか。家では親が心配しているかもしれない。


 だけど前にもあった。どうしようもない気持ちになった時に、家を飛び出してゲーセンやらネカフェに行って時間を潰し、学校に行かずに翌日の夕方に家に帰るという事をしたことも何度かある。


 だから心配はしているかもしれないけど、またかと思っているだけかもしれないと思った。


 そんな事を思い、また夜が来るまでになんとかこの異世界から脱出できないかと考えていると、森の切れ目が見えてきた。


「良継殿!! 森の外に出られるでござるよ!」

「うん、行ってみよう!」

 

 顔を見合わせ、はやる気持ちに身を預けて森を飛び出す。見た事もない場所で、草原が広がっている。


 そして直ぐに、ちょっと先にあれじゃないかっていう丘が見えた。僕達が『異世界(アストリア)』に転移してきた場所にあった女神像のある丘。


 ここからでもポツンと小さく、丘の上に立つ女神像が見えた。

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