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Phase.181 『隠れて逃げ切る』



 懐中電灯。何処までも暗闇が広がる森の中を、カイと一緒に歩く。


 カイはトロルに追われた時に、一緒に森の中を無我夢中で走って転び、右足を負傷してしまった。だから杖をつき、僕が肩をかしてようやく歩ける状態だった。


 無理をすれば一人でも歩けそうだったけど、痛みはかなりありそうだったので、何も手を貸さずにという事ができなかった。


 冷や汗でビショビショになっているカイ。不安げな様子をみせる。


「こ、このまま歩いていても……だ、大丈夫でござろうか? そろそろあの女神像のあった丘に出ても……っというか、森自体を出ても良いと思えるのでござるが」

「うん、そうだね。でも僕らは女神像のあった場所から結構歩いてあの泉まできたよね。そこからトロル達に追われて、がむしゃらに森の中を走ったんだよ。それこそ地形や方角を見ず、考えずに走った。だからはっきりとは、解らないよ」

「…………ぜんぜん見当違いの方へ……女神像から離れていっている可能性もあるって事でござるな」

「うん。でも女神像の方へ向かっているかもしれないし、少し遠回りしているのかもしれない。間違ったルートを進んでいても、また別の女神像を見つけるかもしれない。ここは諦めずに進もうよ」

「……そ、そうでござるな」


 ミケさんと知り合って『異世界(アストリア)』に来るまでは、ずっと市原たちに虐められて下ばかりを向いて生きていた自分。そんな自分が、不安に押し潰されそうになっている誰かを励ましているなんて、僕自身も驚くべき出来事だった。


 もとの世界では絶望にまみれていたはずなのに、この異世界ならあきらめず前を向いて歩ける。そんな気がした。


 だってここは、僕の大好きだったファンタジーの世界。そしてゲームやアニメのような世界なんだ。トロルとの遭遇は、気絶してしまいそうな位に恐怖したけど、トロルなんて魔物が存在している世界がここは本当にある。ゲームのようなファンタジー世界があったんだって、裏付けている。


 ならきっと、この世界には剣や魔法もあってエルフやドワーフ、それに獣人なんかもいるはずなんだ。冒険や、夢のような物語が僕らを待っているに違いない。


「ね、ねえカイ」

「なんでござるか、良継殿」

「この世界は異世界なんだよね」

「そうでござる。先程、トロルを見たでござろう。トロルなんてRPGで、敵モンスターとして登場する定番でござろう」

「じゃあこの世界には、剣や魔法があるのかな?」


 そう言うと、カイは自分で帯刀している模造刀のショートソードに目をやった。


「ううん、そうじゃなくて。例えば……そう! ミスリルソードとか、炎の剣とかそういうの」

「さあ、どうでござろうか」

「あとドワーフとかエルフとかもいるんじゃないのかって思うんだけど」

「拙者はエルフさんとお知り合いになれたらって思って居るでござる。もちろん、女の子でござるよ」


 鼻の下を伸ばして話すカイ。僕も人の事は言えない。僕だってどちらかと言えばエルフがいるのなら、エルフに会ってみたい。そして話もしてみたい。


 ゲームとかアニメじゃだいたいエルフの女性は、はっとする位の美女だったりするのが定番だから。ただ、女性に対してぜんぜん耐性のない僕がまともにコミュニケーションをとれるか考えると不安だけど。


「因みに小早川殿は、ケモナーなのできっと獣人に会いたいでござるよ」

「あはは、偉そうにしているけど本当は可愛い獣人の女の子に会いたくて、『異世界(アストリア)』に転移してきているのかもね」

「えっと、図星でござる」

『あははははは』


 こんなのも新鮮だった。友達とこうして笑って冗談を言い合う。カイは相変わらず足を引きずり痛そうにしているけど、馬鹿な会話のお陰でいくらか多少は気持ちが楽になったようだった。


 ――――腕時計を見る。2時40分。もうこんな時間になっていた。


 きっと母さんは心配しているかもしれない。追い詰められ続け、少なくとも一度は自分の人生に終わりを告げようとしていた奴が今更、母さんが心配してるかもなんて、何を言っているんだって人は思うかもしれないけれど、なぜか不意に思った。


 アオオオーーーーーーン!


 唐突に遠くで遠吠えのようなものが聞こえた。


「カイ!!」

「ま、まずいでござるな。ウルフかもしれないでござる」

「ウ、ウルフ……」

「狼の魔物でござるよ。かなり遠く、離れた距離で目にした事はあったでござるが……いつも何匹かでいるようだったから……できるだけ、近づかないようにしていたでござる。きっと人も襲うでござるよ。今、出くわしたら拙者はとても戦えないでござる」


 1匹なら何とかなるかもしれない。カイは、右足が駄目でも、両腕は無事なのだから剣は振れる。それに僕もいる。だから、本当に野生の狼とそれ程大差のない魔物なら、1匹ならなんとかなると思った。でも複数でいるという。


「カイ! ちょっとこっちへ来て!」

「ど、どうしたでござるか。ウ、ウルフに見つかる前に、い、急いで女神像に辿り着く算段でござるか?」

「そうできたらいいけど、向かっている方角に女神像があるって、100パーセントの自信が持てない。それにトロルに襲われてからずっと移動したりしているし、体力も限界だ。僕でこれだから、負傷しているカイはもっとだろ?」

「ま、まあそうでござるが……」

「だからちょっと身を隠せるところを探してやり過ごそう。それでウルフの気配がなくなったら、再び行動を開始すればいいんじゃないかな」

「解ったでござる。拙者はこんな状態だし、いい考えも浮かばないので良継殿に任せるでござる。もちろん、拙者の判断で委ねるので、結果どうなっても良継殿を恨む事はないので安心して欲しいでござる」


 カイは、そう言ってニコリと無邪気に笑った。僕はそんなカイを支えながら何処か隠れられるいい所、もちろん蚊のいない場所を探して回った。

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