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Phase.18 『焚火』




 獣は、火を恐れると聞いた事がある。狼も火を恐れそうだし、スライムだって火が弱点な気がした。だいたいのゲームだとそんな感じ。


 なので、早速獣避け……もとい魔物避けにもなるなと、この異世界での俺の拠点である丸太小屋の前で、焚火をしてみる事にした。


 しかし、薪にするべく集めてきた木にライターで火を点けようとしたがなかなか点かない。焚火なんて、拾ってきた薪を集めて火をつければいいんだろって程度に考えていたけど難しい事なのかもしれない。


 …………


 何か火付けになるいい物がないかと辺りを見ると、刈ったり抜いたりして集めた雑草の山が目に入った。それで、火が付くかもしれないと思い、試しに使用してみるがやっぱり点かない。やはり、もっと枯れて乾いているものでないと火が付かないのかもしれない。



「えっと……何かいい方法は……っと」



 スマホを取り出して、調べる。しかし、ネットが繋がらない。


 そうだった。この異世界『アストリア』では、通話やネットが使えないのだ。もとの世界だと困ったことがあればすぐに、ネットで調べたり尋ねる事ができたけど、ここではそうはいかない。


 そりゃ、一度練馬区のアパートに戻って、ネット検索する事はできるけど、それだとなんだか負けたみたいな気がして嫌だった。


 なんだろう、この感じ。少し前の俺なら、確実にそんなのどうでもいいよってもとの世界へ戻って調べていたかもしれない。だけど今はなぜか……悪戦苦闘するのも、悪くはないと思っている。



「まあいいさ。一応、こうなる事も想定して持ってきている物もあるしな。フフ、戦いとは常にニ手三手先を考えてするものだっけか」



 そう呟いて俺は、小屋の中へ入る。大量の荷物の中から雑誌を取り出した。何と変哲もない漫画雑誌。


 それを持って外に出ると、焚火をしようと木を集めた所の前で屈んで、雑誌をめくり次々に破りとった。そして、その破ったものをギュッと捩って木の間に次々と入れ込む。そして、それにもう一度火を点けた。


 ボワッと簡単に火が燃え上がる。



「きたきたきた。これで、上手く木に燃え移ってくれれば」



 上手い具合に木が燃え始めた。メラメラと火が燃え上がりパチパチと音を立てる。なんだろう、凄くテンションが上がってきたぞ。


 俺は集めてきた薪にする木の中から特に乾いていそうで、燃えやすそうなものを選別してちょっとづつ慎重に焚火にくべた。すると、火は炎となりどうにか焚火として完成させる事ができた。



「ゴホッ……ゴホッ……し、しかし……ゴホッ……凄い煙だな」



 焚火ってこんなに煙が出たっけ? 昔、田舎で祖父が焚火をして芋を焼いてくれた時にはこんなにも煙が出なかったような気がする。……もしかしたら、生木が原因かもしれないな。


 風上に移動すると、焚火の火を絶やさないように、大切に育てた。


 そして、はっと思いつくと辺りを見回し適当な石を集めてきて焚火を囲ってみる。


 ……素晴らしい、これで何処からどう見ても焚火に見える。立派な焚火。例えば、よくそういう焚火を作るような映像をテレビとかで見るけど、どれも石で周囲を囲っていたりする。そういうのって先に準備しておかなくちゃいけない事に、今更気づく。


 焚火一つでも、そういう正しいやり方があるのだとは思うけど……だけど俺にとっては、今はこんな感じで十分に満足だと思った。正解は経験を積んで見つけていけばいい。


 俺は更に小屋に置いてある荷物の中から、三脚とヤカン、それに事前に買ってきた弁当などを持ち出してきてまた焚火の前に戻った。


 焚火に三脚をセットし、ヤカンに井戸の水を汲んでそれに吊るす。これで湯が湧けば、またお茶なり珈琲なり飲める。


 マグカップを手前に置くと、そこにインスタントコーヒーの粉末を注いで、弁当の蓋をあけた。



「おお、美味そうだな」



 焼肉弁当。コンビニではなくて、近所にある弁当屋で買ってきたもの。もちろん牛肉仕様の焼肉弁当で、その店では売れ筋商品なのだが値段は高め。それでも、今日は朝方というか夜もあける前から小屋の掃除やら草むしりで働いているので、奮発して良かったと思った。むしろ、とうぜん!


 お湯が沸いたので、マグカップに注いで珈琲を入れる。それを一口――――天気が良くて、こんな自然の溢れる森の中で飲む珈琲は最高だと感じた。


 そしてそこから楽しみにしていた焼肉弁当に手を付ける。



「うんめーー!! やっぱり、タツジン弁当の焼肉弁当は最高だな。美味い、美味すぎる!!」



 普段は、ノリ弁当を選ぶ。低コストで美味しいから。だけど、今日は特別なのだ。肉を食べると力もつくし。


 森の陽気と、何処からか聞こえてくる鳥達の鳴き声に癒されながら、極上の焼肉弁当を貪ると暫く焚火の前で横になって休んだ。――時計を見る、11時41分。


 まだ、昼にもなっていないかったのに、スタートが早すぎたからか、もう昼飯を食べ終わってしまった。


 地面に寝そべったまま珈琲をもう一口。そして、小屋の周囲やこの場所を囲んでいる森を見渡す。


 さっき散策して川を見つけた時に遭遇したゴブリン。とても、凶悪そうだった。あそこから、この小屋までは、ぜんぜん遠くはない。


 だとすれば、あのゴブリン共がこの小屋のある場所まで、やってくる可能性もある訳だ。そうすれば、きっと戦いになる。あのゴブリンの様子からいって、絶対に人を見れば襲って来るのは、間違いないだろう。


 そうした場合、俺はゴブリン相手に戦う事ができるのだろうか。


 このまま逃げる……っていうのは、考えない事にした。なぜなら、折角見つけたこの場所とこの丸太小屋。この異世界を探検するなら、この小屋は俺の拠点として絶対に失いたくはない場所だから。


 だから、抵抗する事が危険な事だとしても、俺はギリギリまで抵抗してこの場所を死守したい。

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