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Phase.171 『ハードルの高い異世界転移』



 ――――目前が真っ白になった。


 すると急に眼の前が広がって……あれ、僕はミケさんの働くメイドカフェにいたはず……


「おおーーい! しっかりしろ、大谷! 着いたぞ!」

「え? あ……ううん?」


 小早川の声。目を何度もパチパチとさせて、焦点を合わせる。嘘……ここは、森!?

 

 すると目の前には、とても広大な緑が広がっていた。さっきまで僕は、確かにミケさんのメイドカフェにいたはずなのに、いつの間にか草原の広がる丘にいる。そして見渡す視界の先には、青々とした木が無数に茂る大きな森が悠然と姿を現す。


 僕は、このとても信じられない光景を目の当たりにして、隣にいる小早川に縋りつくようにして言った。


「こここ、小早川君!! こ、これはいったい……これはいったいどういう事なんだ!?」


 もしかして、あれかもしれない。催眠術。じゃなければ、到底説明がつかない。


「おっと、先に言っておくが催眠術でもなんでもないぞ。ここは、ミケ様の言っていた世界――『異世界(アストリア)』だ」


 ア……『異世界(アストリア)』だって……


「この世界はファンタジーゲームさながらの異世界なのだよ。剣や魔法だってあるし、魔物もいる」

「ほ、本当か!! 本当にここは、異世界なのか!!」

「うへえっ! や、やめろ! 胸倉を掴むな! ぼ、僕……我に暴力は禁止だぞお!」

「す、すまない……」


 本当に異世界はあったんだ。まだ嘘のようだ。幻覚を見せられているような気にさせる。


 例えば、ミケさんがご馳走してくれたミルクティーに、何か幻覚作用のあるものが入って……いや、よそう。ここまで見せられたら、信じるしかない。本当にあったんだ。僕は、もう異世界があるって事を受け入れた。


「驚いただろ? 我も最初は驚いた。だが異世界は、本当に現実にあるのどよ。フハハハ」


 心地よい風が吹いている。空は晴れていてもう薄暗くなってきている。月……この世界には、月が二つもあるようで、それがとても美しいと感じた。


「小早川君」

「なにかね?」

「ここへは、いつでもこれるのかな?」

「これるとも! しかし条件がいくつかあるがな」

「そ、その条件ってなんなんだ? 教えて、小早川君! お願いだ!」

「や、やめろ、よせ!! 解った! 解ったから手を離せ! 我を掴むな!!」


 興奮している自分がいた。それも無理が無い。存在しないと思っていた異世界が本当にあったのだから。しかも剣や魔法のある世界だって? 魔物もいるって言っていた。全部、本当にあったらいいなって僕が思っていた夢の世界。


「そ、それでその条件って……」

「後ろを振り向いてみろよ」


 小早川の言葉の通り、振り向く。するとそこには女神像があった。


「我らがこの世界、『異世界(アストリア)』へ転移する為にはアプリを起動しなくてはならないが、それはもとの世界へ戻る場合も一緒だ。だが元の世界からこちらへ来るには、基本的に何処でも転移アプリを使用できるがその逆は無理なのだ。この女神像の近くでないと転移アプリは使えんぞ。また『異世界(アストリア)』へ転移する場合、最後に転移した女神像へ転移される事になっているのだよ」


 まるで自分がそれを開発したみたいに語る小早川。だけど知りたい、いや知っておかなければならない情報だった。


「じゃ、じゃあ学校のトイレとかそういう所でも使えるのか?」

「基本的には、もとの世界からこっちへは何処でも使える。だがこれは転移者達の暗黙のルールでな。関係者以外にこの事を知られてはいけない。もし知られれば、どうなるかは解らないが気を付けた方がいいぞ」

「わ、解った」


 見られては、いけない。そんな事よりも、何処でも転移できる事の方が僕には重要だった。つまりこれがあれば僕は今後、市原達から逃げとおせるからだ。


 これは凄い、僕の人生はまだゲームオーバーじゃないんだ。やりようで起死回生のチャンスを生み出せる。


「それと『異世界(アストリア)』へ転移する条件がもう一つあるが、これが一番問題なのだ」

「な、何が問題なんだ?」

「転移アプリだ」

「もう入っている」

「それだけじゃあ、一カ月しか味わえない異世界ライフなんだよ」


 え? どういうこと?


「貴様がミケ様に支払った10万は転移アプリの使用料、つまりそれの一カ月分。月額料金で10万円必要なんだよ」

「そ、そんなあああ!! そんな金……そんな金無いよ。僕は高校生だ」

「じゃあ、諦めるしかないな」


 異世界を見せるだけみせて、そしてこんな事を言うだけいい放って、その本人はプイっと横を向いた。


 そ、そんな……僕はもっとこの世界へいたい。ずっとファンタジーゲームのような世界にあこがれていた。本当にそれがあるなんて、感動してこの気持ちを直ぐに言い表せられない位だ。なのにこの異世界へ来続ける為には、月に10万も支払わなくてはならないなんて……


 アルバイトすれば何とかなるかもしれないけど、それをして学校も通うとなると、結局異世界ライフを満喫できない。それならいっそ高校を中退して……


 そうすれば、市原達に虐められる事もなくなる……



 ワオオオオオオーーーン



 刹那、何処からか犬の鳴き声がした。その声を聞いた小早川は急に焦り始めた。


「な、なに? 今の鳴き声は? 野犬か?」

「違う! あれは狼の魔物、ウルフだ!」

「ええ、ウルフ! ど、どうしよう!? 剣とか魔法で倒すとか?」

「無理だ無理! 我はまだ剣も魔法も体得しておらん! 女神像の方へ来い、一旦ミケ様のもとへ戻ろう! この世界と元の世界は、時間もリンクしているからな、一度戻らないとミケ様が心配しておられるやもしれん!」

「え? ちょ、ちょっと小早川君!」

「いいから、戻るぞ! きっと群れがこっちへ向かって来る!」


 小早川は僕の腕を掴むと、女神像の方へ行きスマホを取り出した。


 そして僕にも使えと言ったので、二人で転移アプリをまた再起動してミケさんの待つメイドカフェへと戻った。



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