表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/468

Phase.168 『ミケさん その1』



「ぜえ、ぜえ、ぜえ……はあ、はあ、はあ……」


 次第に呼吸を整える。


 僕は商店街へ逃げ込んだあと、追って来る市原達の目から逃れて路地裏に入りこんだ。そして、通りの様子を見ていた。


 少し先の十字路、見渡しのいい所で、3人はキョロキョロと周囲を見回して僕を探している。その光景を目にすると、僕の鼓動は激しくなり、手足が震えた。


 市原の手には、棒のようなものが握られている。それを目にした時、もしかして逃げた僕を捕まえたら、あの棒で思い切り殴るのかと思ってゾっとした。吐気もする。あんなの見たら、余計に出て行くわけにはいかなくなる。


 だけど市原達は、一向に諦める気配がない。そう言えば20万……市原は20万って、はっきりとした金額を欲しがっていた事を思い出した。もしかして僕から20万せしめて、それで何かパっと使って遊ぶんじゃなくて、何かに使おうとしていた。必要としていたお金だったのかもしれない。


 だけどそれを何の義理も恩もない僕が用立てするというのも、全く意味が解らない。


 今は出ていけないし、あれだけ必死になって探しているのと、あの鬼のような形相をみると、僕は殺されるかもしれない。


 市原達は決して、不良漫画とかで登場する根性があるとか極悪非道の……とかそういう大物の不良じゃない。だけど手加減を知らないのだ。


 こんな事をすれば相手がどうなるとか、どういう思いをするとか、そういうのを考えるのが苦手かできないのか。


 兎に角そういった事に貧しく、そして気分に左右されて行動やものをいうタイプだ。だからよくテレビとかで見る、カっとなってやってしまったとか、人を無残に撲殺したり、何カ所も刃物で刺して捕まった後に涙を流して泣きじゃくる。だけど時が経つとケロっと忘れて、同じことをまたして後悔を繰り返す。


 市原は、そう言った類いの人種かそれに近いものだと僕は感じていた。


 市原達を恐れる理由――それらの事が、一番僕が恐れている理由だった。


「あのー、もしもーーし」

「ひ、ひいいい!!」


 市原達が去るの待って、路地裏に入り込んで身を隠していると、その僕の後ろからそんな声が聞こえてきた。


 こんな路地裏、何かいても猫か鼠位のものだろうと決めつけていただけに驚いて、なんとも情けない悲鳴を上げてしまった。


「ナハハハ。ごめんごめん、驚かすつもりは、なかったんだよーーー!! こんな所で何しているのかなーーって思って」


 振り返ってみると、そこには女の子が立っていた。秋葉原とかで見かけるような、可愛いメイド服の女の子。しかも僕の顔を覗き込んでくるので、思わずたじろいでしまった。可愛いから、余計にそうなってしまった。


 こんな絶望した状況で、メイド服の女の子を見て可愛いと思えたり、その女の子に顔を覗き込まれて赤くなってしまったり……まだ僕の思う絶望なんて、この程度なのかなって思った。


 だとしたら……だとしたら、明日からの事だって、それ程、絶望的ではないのかもしれない! 何か考えればきっと、対処のしようがあるのかもしれない。


 最悪、高校中退って方法もあるし……追い詰められて自殺するよりは何百倍……いや、何万倍もマシだろう。


「それでキミーーー、ここで何してるのん? 見た所、高校生のようだけど――当たりでしょ? どう、当たったでしょ。ミケさんのこの観察眼、大したものだよねーー」

「いや……当たったって言うか、その……僕は学生服を着ていますし……普通解ると思うんですけど……」


 そう言うと、メイド服の女の子は口をプっと栗鼠みたいに膨らませて言った。


「解らない!! そんなの解らないよーーっだ!! ミケさんだから、解ったと言っても過言ではないよ! ミケさんだから、キミが高校生だって見抜けたんだもんねー」

「ミ、ミケさん?」

「はい、なーーに。それ、ミケさんの名前――」


 なるほど、このメイドさんはミケさんと言うのか。それにしても、どう反応していいのか困る。


「それじゃあ、キミの名前も教えてよ。ミケさんだけ、ミケさんってバレてるのんフェアじゃないもんねー、そう思うよねー。そう思うなら、名乗ってください、今ここで! はい、どうぞ! パチパチパチ」


 えええーー、本当に独特な子だなと思った。でもこれ以上何か騒がれても市原達に気づかれる。ここはさっさと名乗ってしまって、納得して何処かへいってもらったほうがいいかな……ってなぜ見ず知らずの人に名乗らなければならない?


「ねえ、名前! ミケにもミケってすんばらしー可愛い名前があるように君にも、すんばらし―名前があるでしょ。おせーてよ、ねえ」

「え、ええっと……大谷です」

「下の名前も! 普通、すんばらしー名前って言ったら、下の方言うよね。教えてよー」

「大谷良継です……」

「へえ、もしかして石田さんとか島さんとか明石さんのお友達?」

「はあ?」

「冗談冗談、それで良継は、なぜこんな路地裏に入り込んで人目を避けているのかな? もしかしてあれが原因かな? ミケさんこういう直感は優れ倒しているから」


いきなり呼び捨て!? まあ、見た目は僕とそう変わらないけど、きっと年上だろうからまあいいけど……ミケさんの指した先を見ると、そこには僕を血眼になって探している市村達の姿があった。


 このままじゃ見つかるかもしれない。そう思った刹那、ミケさんが僕の服の袖を引っ張った。


「ねえねえ、良かったらうちへ寄ってかない?」

「え? う、うちって?」

「あんれーー、もしかして、ちょっと期待した? 誤解だよ、それー。うちってうちのお店って意味ね。この路地から出て2軒隣の店の二階。そこ、うちのメイドカフェなんだーー。良かったらそこで匿ってあげるけど、おいでよー」


 メ、メイドカフェって……でも確かにそこへ入れば、市原達がメイドカフェに入ってくる事なんて絶対ない。引きこもりで、万年いじめられっ子の僕が、まさかメイドカフェの中にいるだろうなんて事も思わないはず。


 僕は、決心してミケさんのお店で少しの間、匿ってもらう事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ